「ショコラ公爵は身内にも厳しいのではなかったのか?」

 ショコラ公爵は国王が主催した舞踏会の会場に足を踏み入れる。彼を見る貴族達は信じられない、といった表情を隠すことができなかった。彼らのざわめきなどものともせず、公爵は娘をエスコートし国王の元へ向かう。
 頭脳明晰、見目麗しいショコラ公爵は家門の繁栄のためなら手段を選ばない冷酷な人物として政界、社交界ともに有名であった。しかしこの場にいる公爵は、娘を愛おしそうに見つめているのだ。

「ティスリー、まだ緊張しているのかい?」

 公爵は優しい口調で娘のティスリーの頭を撫でた。ティスリーは頬を僅かに染め、笑みを浮かべた。

「お父様のおかげで、緊張が和らぎました。ありがとうございます」

 ティスリーの笑みに、周りにいた男は目を奪われる。しかし、彼女の死角で公爵の鋭く光る瞳に彼らは青ざめることとなった。





 私はレイモンド・ショコラ。娘のティスリーを産んですぐに愛しの妻が亡くなり、悲しみを紛らわすために仕事に没頭し続けていた。更に、妻の命を奪った娘を許せずに冷遇し、政略結婚を押し付けてしまった。両親からの愛に飢えたティスリー。婚約者の何気ない優しさに縋り、独占欲から暴走してしまった悪役令嬢。前世の私の推しであった。
 どうやら私は過労死してショコラ公爵に憑依してしまったようだ。憑依した時、ティスリーは十四歳だった。乙女ゲームが始まる丁度一年前。私は今更ながら、ティスリーとの関係改善を目指すことにした。愛しい推し、いや娘の破滅を防ぐために!

つづく(やる気があれば)

公爵閣下は娘を愛でたい

facebook twitter
pagetop