劇団大団円を立ち上げたのは2022年5月頃。
シナリオを私が書くことになった。
百合をテーマにしている『明日君の顔が見れたなら』
ガールズラブをテーマにしている作品だから、なるべく女性の役者で決めたかった。

2人のフリーの役者さんに声をかけ、順風満帆なスタートを切った。
そして私は川崎駅でポケットティッシュを配った。
ポケットティッシュは手作りで金欠の私に母親が買ってくれたものだった。
それに手書きで1枚1枚劇団の名前と当日の舞台場を記した紙を封入した。

ポケットティッシュをもらってくれる人は少なく、初めてティッシュ配りの人の大変さがわかった。

劇団大団円の話にしよう。
団長の白井だけがいるアマチュア劇団。
白井遊馬(ゆうま)は声優の白井悠介さんから芸名を拝借したという。
それにしてもアマチュア劇団をやる上で
月額費用を取らないという破格の方針を打ち立てたのに専属役者はついに現れなかったという。
6月にやる公演の告知をしてもHPのアクセス数は増えてもチケットが売れることはなかった。

当日。
決められていた役者さんからメールが来て体調不良で今回の演劇には参加出来ないという。
さらにもう1人の役者さんからも同じく不参加のメール。
窮地に立たされた白井遊馬が取った行動は......
当時、友達以上恋人未満だった栃木在住の女の子を呼び寄せることだった。
脚本を書いた私にとっても役者ゼロ人は防ぎたいところ。
そして横浜にやってきた美紅ちゃん。
美紅ちゃんは介護士の仕事をしていて、職場で女性の上司からハブられてたりする大変な子。
病み垢で繋がった白井遊馬は栃木にまで行ってカラオケをしたらしい。

音痴を気にする彼女は歌わずにただ白井の歌う恋するフォーチュンクッキーを聞くだけであった。
帰り際、彼女の愛飲するアメリカンスピリットの黄色の箱を6箱プレゼントして彼女の心をつかんだ。

しかしあとの話によると浅草でデートした際にブックオフで売っていた5000円のネックレスをプレゼントしたところフラれたという。

話を元に戻そう。
公演が始まる夜7時まで時間がある私たちは喫煙所で一服した。
といっても、タバコが吸えない私は一服する2人(白井と美紅ちゃん)を眺めていたのだが。

彼女は今日やってくるはずだった役者さんがドタキャンしたことにビックリしていた。
私もビックリしていた。

タバコをニ、三本吸ってからスタジオに向かう3人。
関内から歩いて10分のスタジオはあった。
2階にあるせいなのか、事前に1人だけ女の子の見学希望があった。

しかし、その子は18時に来てしまっていたようで私たちが来る頃にはいなかった。
美紅ちゃんはというと、スタジオに入るや否や勝手に白井のスマホを操作してその子に向かって今からでも遅くは無いからなんでも奢るから来てね〜と演劇の役者の募集掲示板の彼女の書き込みに返信していた。

しかし、誰も来なかった。
ポケットティッシュを配ったのが横浜じゃなくて川崎だったのがダメだったのか、それともなにか。

スタジオ内にあった酒を勝手に拝借し、飲む白井と美紅ちゃん。
美紅ちゃんは誰か観客が来ないか外で待ち構えることにした。
私もそばで見守っていた。

彼女はホワイトボードに驚愕の文言を書き記していた。
今ならストリップ披露と。

公演の観客を呼ぶためについには通行人に声をかける美紅ちゃん。
呼び止めようとする彼女のことを突き飛ばす通行人。

しかしそんな冷たい人だけではなかった。
帰宅途中のサラリーマンが美紅ちゃんの呼びかけに止まった。

ストリップもしますよーという美紅ちゃんの呼びかけに怪訝そうな顔をするサラリーマン。

舞台は開かれた。
役者がいないので代理で白井遊馬自身が女の子役をやる羽目になった。

物語は百合で仲良しカップルの女の子二人がキスをするものだった。
白井を女の子として扱いながらマスク越しにキスをしてくる美紅ちゃん。

そして本当に美紅ちゃんはストリップをした。
といっても上半身だけだけれど。
彼女の胸には手術痕の大きな傷跡があった。

サラリーマンもそれに注目する。
舞台が終わり、サラリーマンのおごりで中華料理屋に行くことになった。
当の白井遊馬はビールをたくさん飲んで酔いつぶれていた。
美紅ちゃんはというと酒に強い体質なので酔いつぶれなかった。

話は恋バナの終点にさしかかる。
白井遊馬は3回目のデートに美紅ちゃんのリクエストで浅草に行った。
ゆめやしきでデートしたかったのに彼女はあまり乗り気じゃなかった。
一軒目に寄った酒場で酔いつぶれた美紅ちゃんをラブホテルに連れて行って何もしなかった。
そしてもんじゃ屋に寄ったところで破局した。

こんな安物のネックレスなんかいらないと美紅ちゃんへ白井に返したのだった。
あんまりじゃないか？
この顛末。