私が出会ってきた中で、もっともヤバイ3人の女性についてご紹介します。

【一人目:弟溺愛パチンコ狂い女・智絵(ちえ)】

私の友人だった智絵は、とにかく弟が大好きでした。
弟は高校時代にバレー部に所属しており、高身長のイケメンだそうです。
写真を見せられたときにイケメンとは思えなかったのですが、きっと写真うつりが悪かったのでしょう。
そんなイケメンの弟くんですから、彼女がいない訳がありません。
弟に彼女ができると、智絵は私に愚痴をこぼしました。

愚痴その1「弟の彼女がウザイ」
愚痴その2「彼女が出来てから、弟は付き合いが悪くなった! 前はよく私とデートしてたのに!」
愚痴その3「そもそも弟に近づく女が許せない。あんたも弟には会わせない」

闇が深いな、と思いました。

そんな折り、実家暮らしだった智絵は家を出て、一人暮らしをすることになりました。
その理由は、親との大喧嘩です。
智絵が言うには、休日の朝に叩き起こされて「お前は今すぐ東京湾に飛び込んで死ね!」と罵声を浴びせられたそうです。
それだけ聞けばひどい親だなあと思うのですが、よくよく聞けば智絵にも原因があるのです。

その原因とは、智絵がパチンコ狂いだったことにあります。
給与をすべてパチンコに注ぎ込み、貯金が底を尽きたので金融業者から借金をして、それでもパチンコを続けたそうです。
そんなことを続けていれば、当然借金を返しきれなくなります。
仕方なく親にすべてを打ち明けて借金を肩代わりしてもらったそうなのですが、智絵のパチンコ癖はそう簡単には治らず、再び借金をしたそうです。
そうしてはまた親に頼り……というのを繰り返している内に、ある日の朝に親がぶち切れたという流れでした。

親には絶縁されたものの、大好きな弟とは頻繁に交流しているとのこと。
弟の彼女である麻友さんと、三人で食事に行ったこともあるそうです。
弟とお付き合いしている麻友さんをウザイと思っていた智絵も、表面上は仲良くしていました。
そんなある日、パチンコ癖がいまだに治らない智絵は麻友さんに借金を申し出たそうです。
最初は千円や二千円程度でしたので、麻友さんは快くお金を貸しました。
智絵も、最初の内は給料日になるとすぐに返していたそうです。

しかし、次第に麻友さんへの借金の額は増えて行きました。
金額が増えるにつれて返すのも遅れがちになり、30万円を超える頃には返せなくなったそうです。
困り果てた麻友さんは、そのことをとうとう弟に相談しました。
弟は大激怒し、「俺から麻友に返しておく。その代わり、姉ちゃんとは縁を切る」と言われたとのことです。

親のみならず、最愛の弟からも絶縁宣言をされた智絵は、こう語りました。
「麻友が弟に告げ口しなきゃ、絶交されることはなかったのに! あの女、絶対に許さない!」
智絵は麻友さんに迷惑をかけたことを反省するどころか、呆れたことに麻友さんへ憎しみを抱いていたのです。
周りを見ようともせず、悲劇のヒロインと化した智絵の暴走は止まりません。

「弟と仲直りしたい! そのためには弟に立て替えてもらった金を返さなくちゃいけないから、あんた金貸して」

──そう。
智絵は最終手段として、私へ借金を申し出たのです。
返して貰えるあても無い借金を、引き受ける訳にはいきません。
こうして私は、智絵との友情関係をフェードアウトしました。


【二人目:髪切りAV出演女・未奈美(みなみ)】

ある日のことです。
私は、SNSで仲良くなった年下の女性・未奈美に誘われて、食事をすることになりました。
趣味がコスプレである未奈美は、美しいロングヘアーのオシャレな女性でした。
未奈美は遠方から来ており、日帰りはできないのでビジネスホテルに泊まるとのこと。
食事をして意気投合した私たちは、そのビジネスホテルへ行って話の続きをすることになりました。

部屋に入るなり、未奈美は「あ~! 蒸れてうっとうしかった!」と叫びました。
何が蒸れたのだろう?
そう思う私を横目に、未奈美はウィッグを外しました。
そう、長く美しい未奈美の髪は、地毛ではなくウィッグだったのです。
それだけなら特に珍しいことでは無いのですが、驚くべきなのはウィッグを外した未奈美の髪型です。
未奈美はなんと、丸坊主だったのです。
高校球児のように整えられた頭を見て、私はポカンと口を開けました。
すると、未奈美は笑顔で丸坊主になった理由を語り出したのです。

「私、実はこの前AVに出たんだよね」

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことです。
そのようなお仕事をされていたとは露知らず、ただ驚いている私を見て、未奈美は慌てて言葉を続けました。

「AVって言っても、裸になったわけじゃないよ? 髪を切るAVなの!」

服を着たまま、髪を切る?
なぜそれがAV……つまりアダルトビデオとして成立するのでしょうか?
疑問しか浮かばない私に、未奈美は意気揚々と話し続けました。

「世の中には断髪フェチっていう言葉があって、若い女の髪がバッサリ切られているのを見て興奮する男がいるんだって。私もこうなる前は髪が腰まで届くくらいの長さだったんだけど、一日で50万円も貰えるって言われたから、その仕事受けちゃった」

どうやら未奈美は、割のいい仕事をやり遂げたことを自慢したかったらしいです。
そして趣味でアニメのコスプレをしていた未奈美にとっては、自分の容姿を武器として映像の仕事をしたというのも自慢の一つだったようで。
とりあえず私にとっては知らなくてもいい世界でしたので、それ以上は質問もせずに話を促すこともしませんでした。
ですが、未奈美の話は止まりません。

「髪の切り方も色々あるんだよ。両手にハサミを構えて、クロスさせる。そして勢いをつけて、“バサッ! バサッ!”と、アクロバティックに十文字切りをする技とか……」

未奈美は瞳を輝かせながら、動作も交えて丁寧に説明してくれます。

「そして、最後はバリカンで丸刈りしてフィニッシュ!!」

地蔵のように固まっている私に、最後に未奈美がいった言葉はこうでした。

「もし興味が有ったら、紹介するよ。スキマ需要の割のいいお仕事」

私はもちろん、丁重にお断りしました。


【三人目:霊媒師貢ぎ女・悠里(ゆり)】

高校時代の友人だった悠里とは何と無しに疎遠になってしまい、もう何年も話していませんでした。
ひさびさに話したくなった私は、悠里へ電話をかけてみました。
幸いにも電話番号は変わっておらず、悠里と私は互いを懐かしみながら一時の語らいを楽しみました。
北海道出身の私たちですが、なんと悠里は今、群馬県に住んでいるとのこと。
悠里は高校卒業後に北海道で就職していたはずなのに、なぜ群馬へ……?
そう思った私は、悠里に質問しました。

「群馬に親戚がいるとか?」
「ううん、彼氏が群馬に住んでるから」
「ん? じゃあ同棲してるとか?」
「ちがう、一人暮らし。彼とはネットで知り合ったんだけど、いつでも会えるように群馬へ引っ越したの」

遠距離恋愛が大変なのはわかるけど、何も移り住まなくとも……とは思いましたが、恋愛は自由です。
私は余計な口を挟まずに、悠里の話を聞き続けました。

「実は彼、中学生になる娘さんがいるの」
「えっ、まさか不倫?」
「不倫じゃないよ! 奥さんとは何年も前に離婚していて、娘さんは奥さんの方へ行っちゃったんだって。でも養育費は払わなくちゃいけないから、彼はとっても大変そうで……。だから、金銭的にも助けてあげようと思って群馬に住むことに決めたんだ」

聞く所によると、その“彼”は悠里と結婚する気は愚か、一緒に住む気も無いそうです。
ですが、ことあるごとに「俺は死んでしまった方がいいんだ」と呟くので、目が離せず、そのために近くに住んでいるとのこと。
私は我慢しきれずに言いました。

「金だけ要求して結婚する気も無い男に、なんでそこまでのめりこんでんの?」

「私の両親が離婚して大変だったときに、相談に乗ってくれたのが彼だったの。彼は霊感があるから、無料で不幸の原因を霊視するっていうボランティアをやっていたんだよ。それで、私が霊視してもらったら心がスッキリしたの」

「心がスッキリ? でも結局、ご両親は離婚しちゃったんだよね? 悩みの原因は解決したの?」

「解決したよ! だって彼と一緒にいたら、両親のことなんかどうでも良くなったもん!」

それは解決ではありません。
俗に言う、現実逃避というものです。
そもそも霊視はなんの関係があったのでしょうか。
恋に恋してる悠里は、陶酔しながら話し続けます。

「彼は無料で私の霊視をしてくれたけど、お礼はいくらでも受け付けるよって言ってくれたんだ。だから、ネットで知り合った花子ちゃんから10万円借りて、彼に渡したの!」

「じゅ、10万円も? それはいつ返す予定なの?」

「返したくても、彼を支えるのに精一杯でお金の余裕が無くて……」

「あのー……。今すぐ、その花子ちゃんとやらに10万円を返した方がいいのでは?」

「返したくても、花子ちゃんには絶交されちゃったから……。大切な友達を失ったことを後悔してるよ」

「いやいや、10万円返しますって連絡すれば、花子ちゃんはすぐに応じると思うよ?」

私がそう言った途端に、悠里は一際大きな声をあげました。

「さっきから返せ返せって、なんなの!? あんたは花子ちゃんみたいに、私に10万円貸すことなんてできる!?」

言っている意味がわかりませんでした。
なぜ私が、悠里に10万円を貸すという話になっているのでしょうか。
更に悠里は、こう言いました。

「花子ちゃんもあんたも10万円くらいどうってことないだろうけどね、彼は生きるか死ぬかの大問題なの! あんたがまだ私の友達のつもりでいるなら、10万円くらい貸せるでしょ!?」

高校時代の悠里は、他人の気持ちがわかるとても心の優しい子でした。
ましてや恋愛には奥手で真面目だった悠里が、将来こうなるとは誰が予想したでしょうか。
私は悠里を諭すように言いました。

「お金は貸さない。でも、知恵なら貸す」

「どういう意味?」

「私のお父さんが働いている会社で、寮つきの正社員を募集している。お父さんなら悠里のことよく知ってるから、喜んで会社に紹介してくれるよ。寮つきの会社なら、家賃も節約できるし……」

「あんたのお父さんが勤めてる会社って、群馬じゃないでしょ?」

「そうだよ」

「なんで群馬から離れなきゃいけないの? 私は彼のそばで力になりたいから、あんたから金を借りようとしてるってのに! ちゃんと聞いてた?」

「もちろん聞いてるよ。つまりは、その男から離れろって言ってるんだよ。自分の子供の養育費を女に貢がせる男が、これから何の責任を持ってくれるっていうの?」

「でも、私が彼に抱いているこの感情は、一生に一度の恋だし……」

「いや、それは恋じゃないね」

「わかってるよ。恋じゃなくて愛だって言うんでしょ?」

私の言葉に対して間髪入れずに言い返してきた悠里に、一瞬呆気に取られてしまいました。
この子、こんなに馬鹿だったっけ? と疑ってしまったほどです。
とりあえず気を取り直して、私はこう言いました。

「ち、違う。恋でも愛でもなくて、それは自己満足って言うんだよ」

「じっ、じっ、自己満足って何?! あんたなんかに人を愛する気持ちなんかわかってたまるか!」

「わかるよ。男女だろうが、同性だろうが、肉親であろうが、愛というのは思いやりから成り立つものだよ。悠里のように、花子ちゃんの10万円が無ければ成り立たない関係は、愛とは言わない。そこに思いやりなんて言葉は存在しないでしょ。つまり自己満足に他人を巻き込んじゃったんだね」

「もういいっ! お金を貸してくれないなら、あんたに用は無い!」

悠里はそう叫び、一方的に電話を切ってしまいました。

その後、何度か悠里からの着信履歴が残っていましたが、私はもう悠里と話そうとは思いませんでした。
理由の一つとしては、なぜかいつも平日の昼間に着信が有るので、仕事で出られないということ。
もう一つの理由は、本当に緊急の用事があるならば留守番電話なりメールなりでメッセージを残すだろうと思ったからです。
メッセージを残すと私から折り返さないのを、悠里はわかっていたように思います。
なぜなら悠里の目的は、借金の申し出しかないのですから。


以上が、私が出会った愛すべき3人のヤバイ女です。
彼女たちに幸あれ。

3人のヤバイ女

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