私は自他共に認める壁胸だ。


小さい頃、

『女の人は大人になると、
 自然に胸が大きくなるんだ』

と、勝手に思い込み、


大人になるのを楽しみにしていたけれど。


回りの友達の胸が、どんどん成長していく中、私の胸だけ中学の時から変わらなかった。



高校2年の夏。


妙にクラスの男子からの視線が集中するようになって


『あれ?
 私にもモテ期、来ちゃった?』


と、思っていたけれど、その熱い視線の先は私の胸元だった。



そう。

それまで私はずっとノーブラだった。



きっと、


白いセーラー服に乳首が透けていたんだね……。


胸当ての付いていない制服だったので、
前屈みになると、隙間から乳首がポロリしてたかも……。


体操服だと、胸のポッチリが浮いていたかも……。



慌てて家に帰るなり、母から2千円を奪って、近くのスーパーの衣料コーナーでスポーツブラを買い、『スポブラデビュー』をした。


あの日のことは忘れない。




『母ちゃん、何で私を壁胸に産んだの?』

『何で私にスポブラを準備してくれなかったの?』


と、母を恨んだ。



時は流れ、そんな記憶も忘れ去りし頃、


私はギリギリ『バブル世代』ではなくて、バブルが崩壊した『就職氷河期世代』だった。


『バブル世代』のボディーコンシャスな
お姉さんをテレビで見て、

『いいなー。
 大きな胸のボディーコンシャスなお姉さんは、胸の谷間にお札を入れてもらえるんだー』

(田舎なので、ボディーコンシャスなお姉さんにお目にかかったことはない)



……と、憧れながら
『オタク女子』になっていた。


世の中は胸を『寄せて上げて厚盛時代』に突入。

私は少しだけ心が軽くなった。


その頃からブラジャーの機能が格段に上がっていく。



おっ!
ブラジャーにポケットが付いて、
パッドが入れられる!

私は追加のパッドを購入し、
片胸3枚、計6枚のパッドを入れて


『そーれ、厚盛ッ!』


おっ!
布製だったパッドから、
『シリコン製』が発売されたよ!


これで、洋服の上から触られても、
『偽乳』だってバレないね!

(触られる機会などなかったけど)


『そーれ、厚盛ッ!』




おっ!

『ヌーブラ』なる、シリコン製の、直に胸に貼り付けるブラが発売されたよ!


おっ!
私の壁胸にも貼り付く!

窓ガラスにも貼り付く!

(やってみた)


これで、
ノースリーブワンピースも
ブラ紐が見えなくて安心だね!



『そーれ、厚盛ッ!』



テレビでも、普通に『厚盛ブラ』が宣伝されて、
(あの頃、ブラジャーCM多かった)



『胸を盛る』が、当たり前になり、


世の男たちは

『女性が服を脱ぐまで胸の大きさがわからない』

時代に。


洋服脱げば、壁胸がバレるって?

脱ぐ機会がないから、いいもーん。

…………。



そんな具合で、壁胸を隠しながら楽しい青春時代を送っていた。



……つもりだった。





何故か男友達から

『貧乳の星(私)』

というあだ名を付けられるようになり、再び暗黒時代に。


「星って、本当に胸無いよな」

「ンなッ、なんですって?
 何で貧乳だって分かるのよッ?」

(こんなに盛ってるのに。
コイツらの前で脱いだことないのに!)


「わかるよ」

「何でバレたのッ?
 何で壁胸だって知ってるのッ?
 どこの筋からの情報よ?
 早く言え!
 オラァァー!」

「谷間がないじゃん」


「ハッ……!」

(寄せる肉が無かったわ)




このやり取り以降、

奴らは、私に堂々と『貧乳』と言って良いと勝手に解釈した。


「あそこにいる子、
 めちゃくちゃ胸が大きいよな。
 星、羨ましいだろ?」


「そ、そうだね……」


もう、


『胸を盛る』ことに何も意味がない。


と、自然に帰る。



この頃から

『パッド入りキャミソール』

に出会い、再びノーブラに戻る。




壁胸フリーダム。


ノン厚盛、ノンストレス。



もう、壁胸を気にせず生きてゆこう。


そう決意した時に、高校時代の『貧乳友達』(略して『貧友』)がファッション雑誌を持ってきた。


「星ちゃん、
 これ使って、2人で巨乳になろうよ!」

「へ?」



この貧友は、最近(学生当時)初の彼氏ができたばかりで、妙に色づき始めていた。


(ちなみに、この初彼とそのまま結婚して今も幸せに暮らしている)



貧友が持ってきた雑誌に、

『寝ている間に
 AカップからDカップに!』


と、センセーショナルなタイトルが付いた商品の写真が載っていた。


その商品は、今ならそこら辺の電気屋で数千円売っている『低周波治療機』を胸に貼り付け、微量の電流を流すことにより胸筋に刺激を与えて胸を大きくするという仕組で


『お値段5万円のところ、何と今だけ3万円!』


という代物だった。


「ね? ね? 星ちゃん。
 これ、眠っている間に胸を大きくしてくれるんだよ?
 これを割り勘で購入したら、1人、1万円5千円で巨乳になれるんだよ?
 いいと思わない?
 先に星ちゃんから使っていいから、ね?割り勘で買おうよ!」



ね?

じゃ、ねーよ。



「アタクシ、乳はイラナイデス」

「えぇー? 何でよー?」

「オトコ、イナイカラ」

「巨乳になったら、
 星ちゃんにも彼氏できるよ!」

『カッチーン』




結局、この商品は、私が『共同購入』をお断りしたので、貧友も買わず。


お互い貧乳のまま、今も元気に生きてます。



社会人になり、

『私がモテないのは
 きっと、壁胸だからだ』

と、思い込むようになっていた。



ある日、
家でゴロゴロしながら雑誌を読んでいると


『1日2粒、飲むだけで爆乳に!』


と、いう、

これまたセンセーショナルなキャッチコピーの商品を発見。


商品の説明によれば、バストアップに効果があると言われる『プエラリア』という成分が配合されていて、それを飲むことにより、巨乳も夢ではない、と。


私はそれまで
バストアップに効果があると言われる

・マッサージ
・ザクロジュース
・豆乳
・キャベツの千切りを沢山食べる

など……

様々な方法を試してきたけれど、壁胸は微動だにもしてくれず、ほぼ諦めていた。


『今だけ60粒6千円(おひとり様1本限り)』


に、


『これなら大きくなるかも』


と、期待してしまった。



貧友が勧めてきた『巨乳マシーン』の
1万5千円は、学生の私にとって大金だったけど、

働いている私にとって、6千円で巨乳が買えるなら、たとえ巨乳にならなくても、6千円で済むのなら、


……と。


早速、
葉書(この頃は、葉書で注文するのが
主流だった)で注文した。


届いた商品は、プラスチック製の容器に入ったラムネ菓子のような錠剤で


『1日2回、1回1錠を目安に
 噛んでお召し上がりください』


と、書かれていた。



60粒入りだから、1ヶ月分。



1カ月後、巨乳に?

1カップでも上がれば、
また、もう1本購入すれば良いか!



あ。
ヨーグルト味で美味しい。


これなら何粒でもいける!



1カ月後を楽しみに、

毎日コツコツ飲んでいた。




胸が大きくなるサプリメントを飲み始めて1ヶ月後……。




『……ん?
 ……んん?
 何の変化も無いよ?』



1ミリでも大きくなっているのなら、
もう少し継続してみるかもしれないけれど、変化が無さすぎて、もう6千円支払う気にはならなかった。




時は流れて数年後、

家でゴロゴロしていると、たまたま流れていたニュースに見覚えのある商品が……。


そう。

あの『爆乳サプリメント』だ。


そのサプリメント販売会社の社長が

『詐欺容疑』で捕まったニュースだった!




何でも
私が買った商品は、


『プエラリア成分』どころか、何の効果もない、ただの砂糖菓子で、それを高額に売り付ける詐欺だった。



『美味しかったな……』


当たり前だ。

1粒100円するラムネ菓子だもの


ところで、

何故、何の成分も入っていないとバレたのか。


実は、1ヶ月試して『効果がなかった』と、連絡すると、
(ただの砂糖だから効果はない)


その会社の社員に

『もっと効果の高い商品があります』

と、30万円の定期購入コース(これも砂糖菓子)に勧誘され、途中で解約できない仕組みになっていたから消費者センターに相談が殺到したらしい。


私はただの取っ掛かりに過ぎなくて、

はじめから『電話を掛けてくる人』を
ターゲットにしていた……。

それにしても、乙女の切実な悩みを利用した詐欺なんて、許せん!(結婚詐欺・ロマン詐欺等も)




ちなみに、本物の『プエラリア』には、胸が大きくなる効果が多少あるらしいけれど、副作用もあるわけで。


ダイエットサプリも、怪しい成分適当に入れている商品もあるので。


今回は、たまたま砂糖しか入っていなかったけれど、下手すれば死亡事故に繋がる場合もある。


皆さんも豊乳詐欺にお気をつけください。

お金のやらかし

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