てすと
てすと
てすと
てすと
てすと
てすと
てすと




「ふっふん。ここまで『てすと』の文字を重ねれば、中身に興味など抱かれないだろう」



だらけた体勢でふかふかのソファーに沈みながらマスターは言った。



ここは、ダンジョン喫茶「てすと」。
「バグ」と呼ばれる奇妙な虫がまだ何百匹とうごめく、自然発生して間もない地下式ダンジョンの地下100階だ。



どんなダンジョンにも必須の「休憩ポイント」に存在する必須建築、「隠しショップ」。

いくら怠け者のマスターでも、これを欠くことはできなかった。
店員を雇えなかったマスターは、いくら面倒だろうと、自分で店員をするしかなくなった。

ここまではいい。
資金難を除いて、何も問題はない。



『しかし、ですがマスター。早すぎます』



今現在、このダンジョンの誕生に気づいている地上人は存在しない。

先ほども言った通り、まだ出来たてで、害虫のバグ処理で忙しいくらいなのだ。
当然、冒険者がこのダンジョンに入ってくることはない。

明日ダンジョンが発見されたところで、まだバグが動き回るような未熟で不安定な地下空間に入り込もうという酔狂はいない。

地上人がダンジョンを目指すのは、成熟したダンジョンが魔物を作り出し、しまいに地上へとあふれ出るのを防ぐためだ。
見つけても、半年ほどは侵入してこないだろう。

そこから地下100階まで到達するのに、どれだけ早くても一年と推定。

つまりマスターは当分、来客を心配する必要などない。

証明完了、Q.E.D.



……しかし、マスターは未来を見すえた損得計算のできる怠け者だった。

※これはプラスの表現ではない。



『まさか推定一年半後の自分が楽をするために今のうちから偽装工作にいそしまれるとは』



「てすと」がどうとか言っていたが、マスターのしたことは簡単。

ダンジョン喫茶の入り口を発見しにくく隠したうえで、
店の外装を中途半端にし、建造途中の未開店状態に偽装したのだ。



「まあ、いつやっても作業量は変わらないしねえ。それに俺は、〆切ギリギリになって準備するときのストレスフルな時間が嫌いなんだよ。一生焦ることなくダラダラ仕事して他の時間ものんびりしたい」



新米ダンジョンのうちは、多少あちこちの建造が遅れていても見逃してもらえる。

実際にしばらく未開店にしておくのか、営業するが営業していないフリをしておくのか。
マスターはギリギリまで楽をする気らしい。



『なるほど。そこだけ聞けば合理的です。ここまで前倒しで仕事を始めれば、大抵のことは焦る前に終わるでしょうね』



しかしそれは、独りだけで作業が完結する場合。

無理に先回りして仕事をすれば、周囲に迷惑がかかることをマスターは考慮に入れていない。
現に我々は、万事が万事先回り主義のマスターの指示に右往左往させられている。



「これが俺のスタイルなんだからみんなにも前倒しで作業計画を立てるスタイルに変えてもらうよ。なんだかんだ言って好きでしょ? 納期長いの」

『マスターは傍若無人ですね。本当に部下が無人にならないことを祈ります』

「それは俺も祈りたいね」



……そういうわけだ。

このダンジョンの建設・経営・その他諸々の責任者「ダンジョンマスター」、
それとついでにダンジョン喫茶「てすと」の店主は、こういう方だ。



『とりあえずこちらをどうぞ、マスター』

「お、旨そうなサンドイッチ」

『料理はマスターに不向きな部類のタスクかと推定しましたので』

「正解。食材って一気に作って作り置きしても一年ももたないからなあ」

『そうおっしゃると予測していました』



頼りないのか、頼れるのか分からない……
いや、そもそも頼ろうとすると逃げられそう。

うまくやる気を引き出しながらやっていくことになりそうな我らが上司がこれだ。



どうぞ、よろしくお願いしたい。

てすと

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