それは、白昼夢だった。
もうすぐ目が覚めそうな、そんなまどろみと意識が遠くなる感覚の中に、僕はいた。
でも、ひとつだけ分かるのは、ここがぼんやりとしながらも、見覚えのある場所ということだった。
遠いの記憶は、そんな僕に小さな声で呼びかけた。

「ねえ。起きて。起きてよ。ねえ。」

そう呼ばれ、僕はゆっくりと目を開けた。
本来ならば、眠った場所へと戻されていたのだろう。
だがなぜか僕は、まだあの場所にいた。
そして、目の前にいたのは―。

やっと……目が覚めたんだね。

もしかして……君は、昔の、僕なの……?

僕は、見覚えのある少年の姿に、小さな声で問いかけた。
少年は、こくりと頷いた。
それは紛れもなく、5年前の僕の姿だった。

どうして僕がここにいるのか、どうして未来の僕に会えたのか、まるで分からないんだ。
……でも、君は知ってるんでしょ?『あの子』がどうなったか。

っ……。

一瞬、頭の中に彼女の笑顔が映った。
もう、思い出したくない記憶だった。
そうだ。あの子は、アオイは。僕の代わりに、かばって、死んだんだ。
でも……今目の前にいる昔の自分は、それをきっと知りたがっているんだ。

ねえ。教えてよ。彼女はどうなったの。

死んだ。

え?

少年の紅い目が、見開かれる。

アオイは、死んだよ。

ー……。

少年の目が、すうっと閉じられた。

嘘じゃ、ないんだよね。

彼の声は、震えていた。

ああ。あの子は、確かに死んだ。

それを聴いた瞬間、少年の瞳から、ボロボロと涙が溢れていた。

どうして……っどうして!
君は守ってあげなかったの!!あの子の笑顔が何よりも大切だった君が!なんでなんだよ!!

少年の声が、震え声から怒号に変わる。
だけど、僕は静かに彼に告げた。

……もう、しかたなかったんだ。
過去は、書き換えることは、できない。

っ……!

でも。

一言止めて、僕はさらにつぶやく。

でも過去の君が、こうして夢でも現れてきたなら、何か意味があるのだと思う。
もしも、彼女が死ぬことが分かっていて、それを止められたなら。
たとえ気の遠くなる確率でも、僕は君に託したい。……そのために、きっと君は来たんだ。

……僕に、止められるのかな。

大丈夫。君なら、きっと。

……。わかったよ、未来の、僕。

その瞬間、その場所と少年は光に包まれた。
もうすぐ、夢が覚める。魔法も、解けていく。
頼んだよ、過去の僕。
そう心の中でつぶやいて、意識は途切れた。

小さく声を上げて、僕は目を覚ました。
身体を起こして、自分の掌を見つめた。

(やっぱり……夢、だったんだな。)

そこにはやはり、彼女のいない世界が広がっていた。
分かってはいたのに。どこかで、期待していたのか。
外に止まっている蒼い鳥を見て、小さく名前を呼ぶ。

アオ、イ……。

すると、その瞬間、ドアが開いて聞き覚えのある声が聞こえた。

「……おはよう、リュウ君。」

これはまた、別の世界の話。




END

過去と未来

facebook twitter
pagetop