一人の老練な戦士が、霧煙る森を歩いていた。











…深い森だ。まだ続くのか。

幸い、モンスターが弱いから助かっているものの…全くうかつだったわ。もしや同じ所をグルグルと回っているのではあるまいな…

…ぁ…‥ぁ…‥

…ん?今、人の声がしたような…

…れか…だれかああああああ!!!!

…間違いない!誰かが叫んでいる!

誰か助けてええええええええ!!!!

あっちか!

…グルルルル…やっと追い詰めた…

や…やめて…やめて…

…観念しろ…トドメだ…

これまでかっ…!

させるかッ!

ギャアアアアアアアア!!!!!

シュウウウウウウウウウウ…

…ふう、間に合った。

はあ…ありがとう。助かりました。
アイツを一撃で葬るなんて、貴方は強い御方ですね。

いや、あの化け物も相当な深手を負っていたようだからな。それにしても、こんな所で人に出会うとは…大丈夫か?

ここに追い詰められてしまったのです。この森は魔法が効かないので。私は魔法が得意だから、そこを突かれてしまったんです。

そうなのか。それよりも…貴女もかなりの大怪我を負っているじゃないか。近くに手当てできる場所はないのか?

いえ、いいんです、私は慣れておりますから…。ところでお伺いしたいのですが、魔力を回復できるアイテムを持っておりませんか?森を抜けたら、回復呪文と移動呪文を使おうと思っているのですが…。

ああ、持っている。今すぐ使うか?

良かった!森を抜けたらで構いませんよ。

…そうだ、お礼と言っては何ですが、私が森の外まで案内しましょう。迷っているのでしょう?この森は特殊な結界が張られていますから、抜けるのにはコツがいるんですよ。



















…そうですか、貴方はあの大陸から来たのですか。あそこは随分と多くの強者が集う大陸と聞いていますが…

ははは、ま、たしかに強者揃いではあるな。それに比べたら俺などまだまだ…

…それにしても、この大陸は酷く荒廃しているな。

…ええ、化け物たちがとても強力で…。

行く先々で滅びた村や町を見つけたよ…

…あんなのは氷山の一角です。
私たちは、一刻も早く化け物たちを根絶やしにして、この地に平和をもたらさないと…。

…あ、もうすぐだ。出口は近いですよ。











さあ、ここが出口です。ここを抜ければ道が開ける。ここからは道なりに真っすぐ進めば、城にたどり着くはずです。化け物どもも弱いから、難なく進めるでしょう。

私も城に戻るのですが、その前に少し寄りたいところがあるので。先に城で待っていてくれませんか?そこでたっぷりお礼をいたしますから。

ありがとうよ。感謝する。
そら、体力・魔力回復のハイエーテル薬だ。

ああ!生き返った!ありがとうございます!こちらこそ感謝しなければ!貴方は命の恩人ですからね。必ず城で待っていてくださいね!

そうだ、まだ名前を聞いてなかったですね。

俺の名前はビフルドだ。

ビフルドですね。私の名前はスヴァリです。城に着いたら、私の名前を言ってください。それで入れるはずです。では、後ほど会いましょう!

ハッ!

ほう、詠唱もなしで飛んだ…あのスヴァリという女性、高度な魔法を体得しているな。

さて、城へ向かうとするか。











…お、遠くの方になにか見えてきたぞ。
あれがスヴァリの言っていた城のようだな。

…ん?別の方角から煙が上がっているが、
あれは何だろうな…。











…待てよ、アレは…炎か?
大きな炎が、上がっているのか…?

…あれは…あれは村か町が火事になっているんだ!…今のは爆発音!?住民は無事か!?行ってみよう!











こ…これは…町が…焼きつくされている…。
おびただしい数の人とモンスターの死体…
大きな戦いがあったのか!

…私が居ない間に、まさかこんな事になっているなんて…みんな…みんな許して…

スヴァリ!ここに来ていたのか!

ビフルド!?なぜここに!

城に向かう途中に火の手が見えたんだ!
これは一体…何があったんだ!?

来た時には…既に手遅れでした…みんな…私のために命を!

急いで化け物たちを退治したのですが、私をつけ狙っていた化け物は…何体か逃げてしまいました…失敗です!

クソ…!俺もお前についていくべきだった!

すみません…!
貴方を巻き込みたくなかったんです!

…う…うぅ…

まだ生存者が居るぞ!おい、大丈夫か!?

…なぜだ…なぜ失敗したんだ…
あと一歩だったはずなのに…

…失敗…逃したモンスターのことか!?そんなに重要な奴らだったのか!?

私たちの…最高傑作…
なぜ…

ハッ!

ぎゃああああああああああ!!!

な…!?
何をする!?なぜ殺した!?

化け物どもが…小賢しい真似をしおって!
何体か逃げていたということは、計画の失敗を事前に察知していたようだな。あの聖獣に何か仕込んでいたな?

全く…貴方が助けてくれなかったら、こやつらの作った聖獣に殺されるところでした。

…お前は…一体…

どうしましたビフルド?その化け物からまだなにか聞きたかったのですか?

お前は一体…何者なんだ?

なんですって?
そうか、貴方はまだ城には行ってなかったのでしたね。私はね…

















魔王なのですよ

霧深き森にて

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