ねえ、たぁ君。折角外出してるんだし、外食しましょうよ

タクヤ

だーかーらー、俺も高校生なんだから、その『たぁ君』はやめてよ、姉ちゃん

私はお姉ちゃんだからいいの!ほら、何食べたい!?

タクヤ

金無いよ、俺

高校生が何言ってるのよ。お姉ちゃん、大学生なんだから、たぁ君に奢ってあげるぐらいのお金はあるわよ

タクヤ

でも、悪いし

はいはい、遠慮しないの。私がこんなことするのは、たぁ君にだけなんだからね

タクヤ

しょうがないな……わかったよ

わかったならよろしい……。まったく、かわいい弟と語らう機会なんて少ないんだから、ちょっとは姉孝行しなさいよね

タクヤ

今なんて言った?

ううん、なんでもないわよ。ほら、そこの喫茶店に入りましょ

タクヤ

はいはい……

いらっしゃいませ、何名様ですか?

私とこの美少年の2人です

タクヤ

姉ちゃんやめてよ!

……お煙草は吸われますか?

いいえ

では、こちらへどうぞ

タクヤ

姉ちゃん……

なぁに?

タクヤ

なぁに……じゃなくてさ……

うふふ

タクヤ

ちぇっ

さあ、たぁ君、なんでも食べていいわよ!何食べる!?サンドイッチ?ホットケーキ?シロノワール?それとも、ワタ

タクヤ

ホットケーキで

そう……

ご注文はお決まりですか?

私はホットコーヒーとサンドイッチ、こちらの超絶かわいい弟にはホットケーキを

タクヤ

姉ちゃん、やめて!

かしこまりました。ご注文を繰り返します。ホットコーヒーとサンドイッチ、超絶かわいい弟さんにホットケーキ

タクヤ

店員さん、そこ繰り返さなくていいから!

そうです

タクヤ

姉ちゃんもおかしいと思えよ

超絶かわいい弟さん、お飲物は?

タクヤ

だからその言い方止めてくれよ

お飲物は?

タクヤ

かしこまってくれよ!……じゃあ、ココア

かしこまりました。では、少々お待ち下さい

タクヤ

もう……姉ちゃん、やめてくれよ、その……『猫かわいがり』っていうの?そういうやつ……

猫かわいがりだなんて、失礼な

タクヤ

あ、ごめん……

猫よりアンタの方がかわいいわよ

タクヤ

そういう意味じゃねえよ!
とにかく、そういうのやめてくれよ。
お陰で学校でも皆に『シスコン』とか言われてるんだからさ

シスコン?

タクヤ

うん、シスコン

誰が言ってるの?

タクヤ

ほら、この前連れてきた友達だよ。
袋井に、横山に、館山に、鈴木、アイツ等だよ

ふーん

タクヤ

アイツ等がいっつも言うんだよ。
『シスコン』って。
なんか、勘違いしてるんだよ、アイツ等

そっかあ……。
ねえ

タクヤ

なに?

その子達に褒美を取らせたいのだけど

タクヤ

何時代なの!?
おかしいよね、なんで自分の弟がシスコンになるのが嬉しいの!?

そうは言っておらぬ、拙者は……

タクヤ

だから戻ってきてよ、現代に!

ごめんごめん。
でも、素敵な友達じゃない。
そうやって囃し立ててくれるってことは、仲がいい証拠よ

タクヤ

そうかな

そうよ。昔みたいに友達も出来なくて私の後ろについて来るだけだった頃とは大違いよ

タクヤ

そっか、そうだよね

でも、あの頃は私がたぁ君を独り占め出来ていたのよね……、
あれ?
じゃあ、私、たぁ君の友達に邪魔されてる?
やっぱ打ち首にしておくべき?

タクヤ

姉ちゃん、物騒だよ!やめてよ!

お待たせしました、ご注文のココアとホットコーヒー、それにサンドイッチとホットケーキです

タクヤ

わぁ、美味そうだな。ホットケーキは……この蜂蜜をかければいいんだよね?

そうよ、食べたことないの?

タクヤ

だって、母さんは作ってくれないし

そうね、確かにこういうのはお母さん嫌いだものね

タクヤ

でもさ、これ全部かけたら甘くなりすぎるよね

はい、全部かけたらお姉さんの愛情のごとくどっぷりと甘くなりますね

タクヤ

店員さん!?まだ戻ってなかったの!?

はい

タクヤ

はい、じゃないよ!戻りなよ

ご注文は以上でよろしかったですか?

タクヤ

はいはい、いいですから

店員さん、ちょっと

タクヤ

どうしたの、姉ちゃん

これ、少ないけど

タクヤ

なんで、チップ渡すの!?
さっきの『愛情たっぷり』っていう言葉が良かったの!?

今度からここに来るから、また『愛情たっぷり』って言ってね

タクヤ

妙なことお願いするなよ

かしこまりました、ご主人様

タクヤ

断れよ!っていうか、いつの間にかご主人様だよ

では、失礼します

タクヤ

はいはい……あー、やっと店員さん行ったよ……

あの店員さん、かわいかったわね

タクヤ

そりゃあ、かわいかったけどさ、変だよ

かわいい……今のうちに芽を潰しておかなければ!

タクヤ

何でいきなりそんな物騒な話になるんだよ、おかしいだろ

だって、たぁ君が『かわいい』って

タクヤ

はいはい、姉ちゃんもかわいいかわいい

……今なら死んでもいいわ

タクヤ

やめてよ、何でそんな話になるんだよ

今なら幸せ絶頂で逝ける

タクヤ

いいから、何度でも言うからさ、やめてよ

そこまで言うなら……

タクヤ

頼むよ、本当に、もう。
ほら、来たやつを食べようよ

うん。美味しそうね

タクヤ

姉ちゃんのサンドイッチ、美味しそうだね

ほしい?

タクヤ

うん、頂戴

じゃあさ、私もたぁ君の、硬くて熱いモノの上にグチョグチョしたモノを乗せて作って、最後にたぁ君がフィニッシュとしてドロドロした液をかけた、その甘い物、頂戴

タクヤ

なんで、そんなに回りくどく言うんだよ!
普通に『ホットケーキ』って言えばいいじゃん!
表現が変だよ

でも、事実でしょう?

タクヤ

そういう問題じゃないよ!姉ちゃん……頼むからそういうのやめてくれよ

だって、たぁ君が困るところを見るのが楽しくって……

タクヤ

人の困る顔を見て楽しいなんて、どうかしてるよ

そんなことないわ。たぁ君だってわかる筈よ。他人が自分の掌でオロオロしてるのを見るっていう快感がね

タクヤ

わかんないよ、そんなの……。俺、そんな風に喜ぶ姉ちゃん、嫌いだな

えっ……

タクヤ

だって、そうでしょ?人の不幸を喜ぶなんて……人としてどうかしてるよ!

……

タクヤ

そんなだから、大学生になっても彼氏も出来なくて、今日みたいな休日に遊ぶ相手がいなくて俺と出掛けることになるんだよ

……だってぇ

タクヤ

『だってぇ』じゃない!

ううっ……ごめんなさいぃ……

タクヤ

姉ちゃん、これでわかった

うん、これでわかったよぉ……お姉ちゃん、たぁ君の重荷になっていたんだね……ごめんね……

タクヤ

違うよ

……えっ?

タクヤ

自分以外の人が掌でオロオロする感覚、っていうのがさ

たぁ君……!

タクヤ

まったく……俺が姉ちゃんを嫌いになるわけないよ。
血を分けた姉弟だし、なんだかんだ言って、俺を常に気にかけてくれる優しい姉ちゃんなんだからさ

……ありがとう

タクヤ

でもさ、姉ちゃん。今度そういうことやったら本当に嫌いになるよ、いい?

はぁい……自重します

タクヤ

よろしい、じゃあさ、料理食べよう?

ええ!

タクヤ

じゃあ、いただきま

あっ!

タクヤ

どうしたの?

ミルク、間違ってそっちに行ってない?

タクヤ

あ、本当だ。
俺のココアに付いてる

それ、このコーヒーに入れてくれない?

タクヤ

うん、いいよ

じゃあ……お願いよ。たぁ君が持ってる濃いミルク……私の中にたっぷり注いで……

タクヤ

この、バカ姉!

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