ただ歩いていた。

 答えを求め、ただ歩いていた。

 荒野を。草原を。砂漠を。浜辺を。川辺を。森林を。街を。


 どれだけ歩き続けただろうか。

 ただ、答えを求めて彼は歩き続けていた。

 求めるはただ一つの答え。

 それを得るためだけに求道者は道を往く。

 幾つもの夜を越え、それでも彼は往く。


 答えはどこにもなかった。

 求めるものはいつだって失われていた。

 彼の目から光が失われて久しい。

 だがそれがどうしたというのだろう。

 真髄を求めるのに光の有無など大した差ではない。

 それを見極められるのならば彼は幾らでも差し出してきた。


 すべては答えのために。

 ただ、進んできた。

 何もかも投げ出して、

 何もかも捨て、

 何もかも差し出して、

 何もかも受け入れ――。

 それでも、彼は止まらない。


 一心不乱に。

 ただ前へ。

 ただ、前へ。

 世界は廻っている。


 彼が居ても。

 彼が居なくても。


 それでも、関係なく、彼は進む。

 果たしてそれは進んでいるのか。

 戻っているのか。

 止まっているのか。

 何もかもが分からない。

 それでも求道者は征く。

 だが、さすがの彼も時の流れには逆らえない。

 彼は立ち止まり、息を吸った。

 歩みを止め、座った。

 途端、世界は歌い出した。


 大地は踊り、薫る。

 風は詠い、跳ねる。

 水は奏で、揺らぐ。

 炎は弾け、寄り添う。



 すべてがそこにあった。

 すべてが繋がっていた。

 過去と未来を貫く命の脈動が、世界の大いなるすべてが彼を包み込む。


 彼は涙した。

 世界はすばらしさで満ちている。

 世界は美しさで満ちている。

 世界は豊かさで満ちている。

 人たる身はあまりにも器が小さいが故に気づけないだけだ。

 この世界は祝福と愛で充ち満ちている。

 なのに。

 なのに。

 神だけがそこにない。

 世界の美しさなど

 世界の素晴らしさなど

 世界の豊かさなど

 世界の温かさなど

 ずっと見てきた。

 ずっと感じてきた。

 けれども、ないのである。

 神だけがそこにいない。

 神の愛はこの地上にも空にも存在しない。

 あるのはただ世界だけだ。

 世界だけがここにある。

 それがどうしたというのか。

 それに何の価値があるというのか。

 求道者にあるのはただ絶望のみ。

 彼は――。

 

 

 耳を澄ませた。

 光の失われたはずの目を見開く。

 星が瞬いていた。

 星々が次々と降り注いでいた。

 天に映る光はすべて輝き流れる。

 膨大な光が滝の如く流れ落ちては地に充ち満ちていく。

 彼は――。
 
 
 
 
 彼は――。
 
 
 
 
 
 彼は――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 地にいた。
 

 彼はただ立っていた。

 そして、すべてが分からなくなった。

 世界はそこにある。

 だが神は――?

 求道者は理解した。

 やっと始まりの地に辿り着いたのだと。

 そして歩き出す。

 この聖なる世界にすべての愛を捧げながら。

永遠につづく

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