例えば、靴箱にこんなものが入っていたとしよう。

男子諸君…いや、女子の諸君でもいい。
一発目に何を思う・・・?

僕ならこうだ。

呪いの手紙だ!!!

誰だってこう思うだろ?
勿論、誰かに恨まれるようなことなんてしてないけど

冴えない僕に来る手紙なんてそんなもの以外考えられない・・・。

中学のときだって、机の中にあった手紙は呪いの手紙だったし。
ほら、なんかしらないけど一回は流行るじゃん?あれだよ、あれ。

どうせここらへんでいいやーって入れたんだろうなぁ。

靴箱ならどこへでも入れ放題。選び放題。
広めるにはベストの場所ってことか・・・。

なるほど、よく思いついたものだよね。

なになに…?太郎くんへ…私、1年K組の…

とりあえず、手紙を読んでみることにしよう。
なるほど、相手は1年K組の桜井 美々子ちゃん。
学年は一緒だけど、この学校クラスやたら多いし、この子とは面識はない。
てか、あれ?呪いの手紙なのに差出人書いちゃっていいのかな?

って、これラブレター!?!?

ラブレター…あぁ、なんて甘美な響き。
今時ラブレターなんて、そんな清楚な子がこの世に存在したなんて…。
それも僕宛…おぉ、神よ、僕はまだ見捨てられてなかったのですね

放課後、校舎裏で待ってるのでよかったら来てください。

…えっ。

放課後、校舎裏で待ってるので…?
これは…

ま、まさかの告白キタコレ!?

地味な主人公がいきなりラブレターをもらい、いきなり告白され、いきなりリア充になる・・・

何そのお約束!?どこのドラマ!?アニメ!?それとも少女マンガあああああああああ!?

よぉ、おはようっ!地味男くん!!そんなところで口を開けてどうしたのだね!

あ、あっ…

おいおい、千と千○の神隠しで出てくるカオナシじゃあるまいし、日本語喋れよ。

お、おはよう、山崎くん…じ、実はさ…

彼は、山崎 徹くん。僕の友達。しょっちゅう僕を地味男くんって呼んでからかってくるんだけど、まぁ、彼に比べたら地味には違いないし、気にしてない。

僕とは違って山崎くんは明るくてハッキリしてる。
バレンタインデーだってチョコレートを5つ以上はもらうし、よくは知らないけど多分モテるんだと思う。

とりあえず、この手紙がラブレターなのだとしたら彼ほど今頼れる相手はいない。
そのはずだ。

あの、これなんだけど、らぶ、れたー・・・ってやつみたいなんだよね。

らぶ・・・れ・・・たぁ・・・?

そうなんだよ…。放課後、校舎裏で待ってるって書いてあったんだけどさ。山崎くんは美々子ちゃんって知ってr・・・

…!?

突然の山崎くんの笑い声で僕の質問は途切れた。

お前にラブレタぁ?笑わせんなよ!それなんかのドッキリだってぇ

ど、どっきり・・・?

そうだよ、お前知らないの?最近、そーゆーの流行ってんの!お前みたいな地味男にラブレターくるわけねぇじゃん!

そ、そりゃ、僕は地味だけどさぁ…でも丁寧な手紙だし…

やめとけって!どっきりに決まってんだから

山崎くんはケラケラと笑う。
さすがにムッとする。だって、いくら地味だからってそんなに笑ってバカにすることないじゃないか。

そんなに笑うことないじゃないか!!僕にだってラブレターくるかもしれないじゃないか!!!

あまりに笑うものだから声を荒げてしまう。
すると山崎くんは俯いた。

…わけねぇじゃん。

…え?

山崎くんが珍しくボソボソと喋る。

…のに…わけねぇじゃん。

山崎くん・・・?

・・・。

行きたいなら行けばいいんじゃね?

なんだかあからさま不機嫌そうだ。
なんだっていうんだろ・・・。

気になった僕が不機嫌になった理由を聞くより先に、山崎くんは、捨て台詞のようにそう言い残して去って行ってしまった。

…何かまずいこと言ったっけか。

やっば!!僕も教室に行かなきゃ!!

時計を見ると8時15分…。

20分には教室に入ってないと遅刻扱いだ。
僕はダッシュで教室に向かうことにしたのだった。

ラブレター…魅惑の響き。僕に届いた一通の手紙。
この時、僕は少し浮かれていた。いや、結構浮かれていたかもしれない。

これから、こんな地味な生活とは真逆の生活を送ることになるなんて知りもしないままに。
こんなに地味って、普通って素晴らしいって思うようになるなんて思いもしないままに。


僕はその日の学園に身を投じていくのだった。



つづく

不幸の手紙

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