かつてとてつもなく強大な力を持った魔王がいた。

 魔王はおっぱいが好きだった。
 世界中のおっぱいを自分の為にする為に、魔王は世界中の男に呪いをかけた。

 それは

語り手

おっぱいを揉んだら死ぬ

という呪い。 

 魔王が亡くなって、千年の時が過ぎたが……人々はその魔王の存在すら忘れてしまった。

 しかし、その呪いは今もなお残っている。

 長い時を経て、男達はおっぱいの感触を忘れてしまった。

 だが、やがて知ることになる。

 世界からおっぱいを解放する一人の英雄……ロイ・モミングの名と共に。

☆☆☆☆☆

ロイ・モミング

本当だよ!! 僕のご先祖様には魔族を倒して世界を救った人がいるんだ!!

ブタゴリラン

うそつけ!! 魔族なんて少し触れただけで死ぬって父ちゃんも母ちゃんもいってたぞ!!


 体格の大きいデブのガキ大将ブタゴラが僕の胸ぐらを掴んで、放り投げる。

ネスオ

へへ

ロイ・モミング

……う、嘘じゃない!! 僕の家にはそういう言い伝えが本当に残ってるんだ!!


 なんで、こいつらは信じてくれないんだよ。
 
 僕の家にはちゃんと世界を救ったときの伝承を記した本があるのに。
 そりゃ凄く古いから多少穴あきがあったり、意味の分からない所もあるけど、最初にしっかり、世界を救ったって書いてあるんだ。

ブタゴリラン

ちっ、もういいや。いくぞネスオ。こんなうそつき相手にしてられねぇよ

ネスオ

そうだねブタゴラの兄貴、こんな奴はあの村一番の嫌われ者の変態女と一緒にいればいいんだ

 そう言って、二人は僕の前から足早に去って行った。

 ネスオが最後につばをめっちゃ連続で僕の顔に吐いてきて、すごいむかついた。

ロイ・モミング

くそっ……なんで僕はこんなに弱いんだ……僕にご先祖様みたいに力があれば……こんな事にならなかったのかな


 服についた土埃や口の中に入った砂をペッと吐き出す。
 そこに勝ち気な顔をした赤毛の女の子がやってくる。
 彼女の名前はエリー・モミング。僕のお姉ちゃんだ。

ロイ……またやられて……あいつら、本当許せない!! お姉ちゃんが滅多打ちにしてこようか?

ロイ・モミング

いや……いいよ。僕が強くなって魔族や魔王を倒せるぐらい強くなって見返してやるからいいんだ!!

ロイ……あんたまたそんなこと言ってるの……こんな片田舎の村人が勇者や英雄になれるわけないじゃない

ロイ・モミング

お姉ちゃんは信じてないの!? 僕達のお父さんやお母さんだってご先祖様は世界を救った英雄だっていっつも言ってたじゃないか

あんな話信じられるわけないじゃない……ご先祖様が世界を救ったなんて荒唐無稽な話……だいたい世界を救った王族の末裔がなんでこんな村にいるのよ……おかしいでしょ、おおかたあの虫食いだらけの本だってたんなる創作に決まってるわよ


エリー姉さんは、小馬鹿にしたような口調でそう言った。

ロイ・モミング

そんな事無い!! ご先祖様は世界を救ったんだ!!


 僕は大声で否定するが、姉さんは呆れるように笑った後、こう言った。

じゃあ、私と勝負してみる?

ロイ・モミング

え?

だって、私達のご先祖様は世界を救うぐらい強くってロイはその子孫なんでしょ? じゃあ、女の子私ぐらい簡単に倒せなきゃおかしいでしょ

ロイ・モミング

そ、それは……

やっぱりロイだって本当に信じ切れてるわけじゃないんでしょ。そりゃそうよね、前の村長さんだって、村の外にでてたスライムに襲われて死んだんだもん

ロイ・モミング

うぅ……そんなに言うんだったら!! 勝負するよ!!

じゃあ、怪我させちゃいけないから……そうね、私の体のどこでもいいわ、一度でも私に触れられたらロイの勝ちで良いわよ


 そう言って、姉さんは地面に落ちていた少し太めの木の枝を僕に投げる。
 姉さんは丸腰だ。

はい、きなさい。言っておくけどお姉ちゃん手加減しないわよ


 姉さんは右の拳を突き出して、左拳を自分の脇に備えるように僕に対して真っ正面に構える。姉さんは剣術と格闘術の得手とするカルディア流と呼ばれる流派を学んでいる。

 街を一歩出れば、危険なモンスターが出るこのあたりでは、大人はもちろんのこと子供も命を守るために、訓練していることがおおい。
 その中でも、姉さんは剣術の腕前と徒手格闘の腕前はピカイチで、大人も顔負けなぐらい強いんだ。

 だからといって、僕だって負けているわけじゃない。
 村の鍛錬所では習ってないけど、その代わりマンツーマンで僕の師匠に剣と魔法を教えてもらってるんだ。

ロイ・モミング

姉さん……僕だって手加減しないよ!!


 僕は木の枝で姉さんに斬りかかるが、それを姉さんは見切ったかのように半身で躱して、僕の腹のあたりで拳を止める。

どう?

ロイ・モミング

まだまだ!!


 僕は何度も懸命に姉さんを攻撃するが、全て躱されるか、簡単にいなされてしまう。
 やがて疲れて息をぜぇぜぇと吐いて立ち止まった僕の頭を姉さんがこつんと叩く。

わかった? ロイは戦うのに向いてないって事が

ロイ・モミング

そんなの……だって姉さんはぼくより三歳も年上だし……村の子供達……いや大人だって姉さんより剣の腕前が立つ人なんていないじゃないか!!

あのね、いくら歳が多少離れてたからって、こんな片田舎で一番にもなれなくて、一体どうやって英雄になんてなるの? そんなんじゃあっという間に魔物に襲われて死んじゃうわよ


 姉さんは僕の頭を優しく撫でながら窘めるように言った。
 それが僕には凄く悔しくて、僕の頭を撫でる姉さんの手を強く弾いてしまった。
 

ロイ・モミング

死なないもん!! 僕は英雄になるんだ!!

ばかっ!! そんなのわからないじゃない!! ……だいたいもしもあんたまで死んじゃったらあたしはどうすればいいのよ!!


 エリー姉さんが僕の顔にビンタする。
 僕はその勢いで尻餅をついて転んでしまう。

ロイ・モミング

……いてっ

ロイ、あんた少し頭を冷やしなさい!! いい加減、英雄になるなんて夢みたいな話やめないとあの無職のみたいに誰にも相手にされなくなるわよ!!

ロイ・モミング

あの人の悪口を言うのはやめてよ!! 僕に剣や魔法を教えてくれる師匠なんだから!!

……それで本当に使えるようになってたら見直すんだけどね、どっちも大して上達してないじゃない

ロイ・モミング

そんなことないよ……さっきだって練習通りにやれば絶対負けなかった

……言い方が悪かったわね、ロイ……落ち着いて聞いて。確かに剣は上達してるけど、それは練習だけでああやって本番になったら相手を傷つけるのをためらって体が動けなくなるでしょ。実際さっきの手合わせだって私に一撃あてられそうな瞬間があったけど一瞬ロイがためらってたのがわかったわよ……ロイ、貴方は戦うのには優しすぎるわ

ロイ・モミング

でも……あの本には戦わずに敵を倒したとも書いてあったよ……


 そう、モミング家に残る歴史書には、魔族や相手の魔王を倒すのに剣や武力を使わなかったとも書いてあった。

もうその話はやめて。父さんがどうして死んじゃったのか忘れたの? 魔族に襲われたからじゃない


 そう、確かに父さんの死因は村の結界の少しだけ外でたまたま魔族に遭遇してしまった事が原因だ。
 その時一緒にいた僕たちを逃すために、魔族と戦った父さんはあっけなく死んでしまった。魔族は父さんを苦しませて死ぬためにあえて魔族結界を解除して懐まで呼び寄せて、自分の体を触らせて体内の魔素を暴走させて殺したんだ。

 魔族に生身で触れれば、体内にある魔素の暴走によって全身が焼けるような熱さと、針で刺されるような痛みが襲って、普通の人間なら一分と立たずに死んでしまうだけど、僕たちの父さんはその状態になっても、魔族の足を握って僕たちが逃げる時間を稼いでくれた。

確かに、父さんは魔族に殺されたけど、凄く勇敢だった!! 常人なら魔素が暴走すれば、一分も立たずに死んでしまうし、体が動かせいほどの激痛があるはずなのに、それにも耐えて僕たちの事を守ってくれた!!


 あのとき、僕たちが村の結界の中まで逃げ込んだのを見届けた父さんの嬉しそうな顔は今でも覚えてる。大切な人を守るためなら自分の命すら惜しまずに勇敢に戦った父さんは今でも僕にとっては最高の英雄なんだ。

私だって、父さんの事は誇らしく思ってるけど……わかってるの? あんなに強かったお父さんでも魔族にはまともに触れることもできなかったのよ? 他の人と同じように死んじゃった


 姉さんは少し言葉に詰まりながら、答えた。その瞳には涙が浮かんでいて、声もすこしだけかすれていた。

 でも、僕が英雄になるためにこの村を出て冒険することは決して認めてくれない。

ロイ・モミング

一緒じゃないよ!! 父さんは魔族に触れても必死に戦ってた!! 魔族に触れられても意識を保って動いた人間がいたなんて聞いたことない!! あれが僕たちが英雄の証明なんだ! 僕だって英雄になれるんだ!!

そんなわけないでしょ!


 しかし姉さんは僕の顔に平手打ちのビンタをして拒んだ。 
 僕はその痛みと姉さんが僕の言葉を姉さんが否定された悲しみとそんな姉さんに手も足も出なかった自分の弱さが悔しくて、瞳が涙でにじんでくるのに、気づいて男として情けなくて、涙を隠すように顔を伏せた。

ごめん強く叩きすぎたわ……ロイ、大丈夫?


 姉さんがそんな僕に心配そうに駆け寄ってきて、優しく抱きしめてくれる。
 柔らかい姉さんの胸の感触が頭に伝わってきたけど、僕はそれが子供扱いされてるみたいで凄く恥ずかしかった。

ロイ・モミング

……ねえさんの……わからずやっ!!


 僕は走って、その場を去った。

 後ろから姉さんの

馬鹿な夢は忘れなさい!!

おっぱい揉んだら死ぬ世界で無双する

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