かくて、非処女に厳しい神の使いによってこの世界に勇者は現れず、世界は滅んでしまうのでした。
ちゃんちゃん。
ふぁ……よく寝た。さーて、そろそろ家に帰るか
……ってあれ? ここどこ?
なんか見たことない光景だけど……
聞こえますか……聞こえますか……
うわ、何この声
私は今、あなたの頭の中に直接話しかけてます
うわっ、キモっ、耳を塞いでも声が聞こえてくるっ!?
ふふふ、そういう反応を聞くためだけにこのスキル取りました
なにその不純な動機
実はあなたはこの度、神に選ばれ勇者となる資格を得ました
えー、勇者とかなにそれ? 今の時代にそんなの居る訳ないじゃん
大丈夫です。ここは異世界ですから
えぇっ!? そうなの?! いつの間に?!
貴方が教室で居眠りしている間、つい出来心で誘拐……もといこの世界に召喚したのです
ちょっと、今あんた明確に誘拐って言ったわね
き、気のせいですよ気のせい。そんなことより、ほら、足下を見て下さい
あ、なんか剣がある
抜いて下さい
うわ、なんかすっごい適当
あ、そうです? じゃ、正式版行きましょうか?
あなたは我らが神に選ばれこの世界を救うべく七千の精霊と百万の王と五人の民の加護の籠もった……
ごめん長そうなのでやっぱパス。っていうか、え、ちょっと待って。百万人の王に対して五人の民っておかしくない?
そこに気付くとは……やはり勇者の資質が
むしろ気付かない奴ばっかりなの? この世界?
極論を言えば王様とは民衆の奴隷なのです
あ、なんか難しい話になりそう
なので、奴隷制が盛んなこの世界では、五人のニートを支えるために百万人もの王様が働いてるのです
すごい。本当に働いたら負けな世界だ
でも、スゴイですよ。この聖剣の加護の八割はニートの力で埋まってます
すげぇ! ニートの力ぱないっ!
百万人の王様は普段の仕事が忙しくてあんまり加護してくれません。七千の精霊達も神々に仕えてる普段の仕事が忙しいので、結果的に暇なニートくらいしか力を貸してくれません
……なにこの聖剣。意味あるの?
まあまあ取りあえず、剣を抜いて下さいよ。まずはそこから
うーん、まあいいけど。取りあえず、抜いてみるね
だめ……全然抜けない。無理
ちょ、諦めないで下さいよっ! あなたは勇者なんですからっ!
そんなこと言ったって無理。これ全然硬いし、あたし運動とかしないし
んもう、ほらほら、頑張って。きっと抜けますって。大丈夫、神の加護がありますって
はぁ……まあいいや、とりあえず頑張ってみますか
折れたー!
えーーー!
…………
…………
…………
やった! ついに聖剣が抜けましたね! やはりあなたは勇者様っ!
どこがっ! 肝心な部分なにも抜けてないしっ! 地面に突き刺さったままでしょっ!
いえいえ聞いて下さい
大事なのは『かたち』ではありません
こころ……あなたが剣を抜こうとした、その形、その行為こそが大事なのです
聖剣の刃とは、そう、地面の中に残っている金属ではなく、あなたの清らかなる乙女の心こそが聖剣なのです
いや、別にあたし乙女でもないし
え?
そろそろ帰して欲しいんだけど。カレシも待ってると思うし
アハハハっ! そうですね。これは失礼しました。とっとと元の世界に帰ってカレシとよろしくやってください。はいはい、どうも勝手にこの世界に呼んですいませんでした!
えー、なんでそんな逆ギレしてんの?
いーえ! 別に怒ってませんて
怒ってるじゃない
……ああ、もう! これから神の使いのボクと勇者が様々な戦いを経て強い絆を掴み、いつしかその友情は愛情へと変わりゆくのを期待していたのに……
なんであんた処女じゃないんですかっっっっっっっ!
……うーわ、こいつサイテー。ひくわー
ああもう、ほらほら、帰った帰った! 処女じゃないとニート達も力を貸してくれません!
あ、その台詞は無駄に説得力あるかも
なんですかっ! その発言っ! 馬鹿にしてるんですか!
自分から振ったじゃん、この話題
なんですか、その態度。あんまり舐めてると元の世界に帰しませんよ?
あ、剣を振ったら次元の裂け目的な何かが出来た
うそぉぉぉぉっ! 折れた聖剣ですげぇぇぇぇぇ!
あ、穴の向こうにガッコー見えるわ。じゃ、帰るね
…………よく分かんないけど、マジで勇者としての実力はあったのね、あの子
……いや、でもカレシ持ちはお断りだな、うん。それだけはねぇよ
かくて、非処女に厳しい神の使いによってこの世界に勇者は現れず、世界は滅んでしまうのでした。
ちゃんちゃん。
完