私の名前は明智耕助。
　東京で私立探偵をしている。

　今日は幼なじみの現役アイドル、万雪《まゆき》と、お忍びで長野のペンションにやってきた。
　１１月だと言うのに急に降りだした大雪でペンションに閉じ込められた私たちの目の前で、客の一人が刺殺体で見つかるという事件が起こったのはほんの数分前。

　電話もケータイも通じず、交通も遮断されたペンションの中。殺人犯と共に密室に閉じ込められた私たち、ペンションのオーナーを含めて８人は、食堂に集まった。

　私は左手で帽子のつばを掴み、右手を客達の方へ向けると指をつきだした。

　胸の前で手を握りあわせて、キラキラとした目で私を見つめるまゆきに一瞬視線を向けると、私は唇の端を歪め、笑った。

　突然、ヨレヨレのトレンチコートを着た男が話しに割り込んできた。
　自己紹介によれば、たまたま休暇でやって来た警視庁の西山警部だそうだ。念の為に身分証を確かめたが、確かに本物だった。

　ザワつく客達を見回し、ポケットに手を突っ込んだ私は、落ち着いて椅子に腰掛ける。

　指をパチっと鳴らすと、その「食事を」が自分に向けて言われていることに気づいたペンションのオーナーが、恐ろしそうに客を見ながら台所へ向かう。まゆきは私の後ろに逃げてきた。

　客の一人が二階の部屋へと逃げてゆく。
　ドアが閉められた後、鍵のかかる音が聞こえた。

　一瞬のシンとした空気の後、西山警部が客の女性を指さす。

　取り押さえようとする西山警部と女性がもめている中、玄関の方からドサリという物音が聞こえた。

　まゆきが怖がって私の首に抱きつく。
　全国数百万のファンが夢見る胸が、私の顔を圧迫した。

　他の客も一様に身をすくめて、気にはなっているようだが、ただ玄関の方を見つめるだけで、行動を起こすものは居なかった。

　客の一人、若い男が玄関の方へ向かう。

　結局、食堂に残ったのは、私と万雪、西山警部と容疑者の女性、それともう一人の客だけだった。

　それを待って、私はその最後の一人に向かって真っ直ぐに指をさす。

　私はまとわりつくまゆきの手を外すと、立ち上がる。

　怒鳴る西山警部を軽く手をあげて制し、推理の説明を続ける。

　まゆきは何度もうんうんと頷くが、西山警部は納得がいかない表情でこちらを見ている。
　私は無視して話を続けた。

　女性は警部の手を振りほどくと、腕組みをして私の話の続きを待った。

　玄関から戻って来た男を見て、西山警部はますます首をひねる。

　私を褒めちぎりながらグリグリと抱きつくまゆきと、私に詰め寄る西山警部の背後で、プルプルと震えていた犯人はガックリと膝をついた。

　スープを運んできたオーナーが、ひざまずく犯人と仁王立ちになった私を見て、「どうしました？」と恐る恐る状況を訪ねて来る。
　私は胸を張ると、高らかに宣言をした。

　私は席に座り、軽やかにナフキンを止めると、まゆきと一緒の食事を楽しんだ。
　西山警部は犯人に手錠をかけたが、いつまでも首をひねっていた。

――終わり