幼馴染

見て、収穫の頃ね!

 畑のラードと呼ばれるちんすこうが、あたり一面に咲いていた。
 麦わら帽子をかぶった僕の幼なじみは、両手を広げてくるくる回っている。
 遠出してきた甲斐があった。足元を埋め尽くすちんすこうに、彼女も満面の笑みだ。
 ちんすこうは冬に春に種を蒔けば夏の始まり辺りに収穫の頃を迎える。
 結構なスピードで成長する良い農作物だ。
 おまけにこいつは、二本抱き合わせで袋に詰めて駄菓子屋さんに持って行けば20円で売れる。子どもたちの良い収入源だった。
 ちんすこう泥棒と呼ばれる畑荒らしが頻発することになるが、すぐにチン圧されてしまった。不法売買は禁止になり……というかも元から不法なのだが……今では資格を持っていなければ、ちんすこうを売ることはできない。
 今ではこうして夏になると、たくさんの農家がいちごやミカンと並びちんすこう狩りを開くほど、ポピュラーで生産量の安定した農作物になった。
 幼なじみは白いワンピースを翻し、僕に両手いっぱいのちんすこうを見せてきた。

幼馴染

見てみて、よく熟れたちんすこう!

 長い髪をひょっこと揺らしながら、満面の笑みで言う。
 僕はその幼い髪を撫でてやる。
 こんな夏も、もう終わりか——
 ここも、最後のちんすこう畑。
 僕は後ろを振り返った。
 トウモロコシ油で走るエコカーを転がしてきたは良いが、もう地平の果てまで何も無い。
 広がるのはただただひたすらの荒野、荒野、荒野。海辺まで行けば巨大な蒸留施設があると聞いているが、果たしてそこまでトウモロコシ油は持ってくれるだろうか。
 火傷するような日差しの元で、体の強くない幼なじみを歩かせるのはさすがに気が引ける。
 なによりちんすこうは喉が乾く。
 口の中の水分を持っていかれるし、脂と塩味が喉をひりつかせる。
 美味しいが、しかし水も用意するべきだ。
 いったいどうしてこんなことになってしまったんだろう。
 世界サーターアンダギー宣言から三年。経ったそれだけで、地球はここまで乾いてしまった。
 僕は決して屈しない。乾いた大地に立ってやる。たとえ世界が揚げられようとも——

ぼく

ちくしょう、食われてたまるかってんだ……

 これはたった一人の少女を守るべく、崩壊する世界に抗い続ける、一人の少年の物語……

ちんすこう畑

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