1 プロローグ

静かな空き教室。
外は放課後特有の喧騒に包まれている。
校庭からは運動部の元気な掛け声。
校舎からは吹奏楽部の整いきっていない演奏。

いつもの賑やかな放課後。

まこと

ん?まだ誰も来てないのか
カギ取りに行くか〜

さやか

今日も一番乗りね

教室に入ってきた少女はそう呟くと空き教室の中に置いてある椅子に腰掛けると、カバンからブックカバーに包まれた本を取り出し広げる。
その空き教室には真ん中に大きな机が置かれその周りに椅子が設置されている。
普通の教室よりは少し小さいこじんまりとした教室だった。

勢い良くドアが開き、跳ねるように少女が入ってくる。

ひとみ

あ〜さやかちゃんもう来てる!
いつも早いよね

さやか

こんにちは、ひとみさん
ええ、私のクラスのホームルームは早く終わるから
担任の先生がせっかちなの

ひとみ

え〜いいな〜
あたしのクラスの担任の話は長いんだよ
今日はたまたますぐ終わったけど

さやか

早く終わるのが一概にいいとは言えないのだけれど

ひとみ

ええ〜いいじゃん
あたしは早くさやかちゃんに会いたかったよ〜

さやか

そ、それは私もそうだけれど……

ひとみ

やっぱり早く終わるほうがいいよ
こうやって楽しくおしゃべりできるんだから

さやか

確かにそうね、私も早く終わって嬉しいわ

再びドアが勢い良く開き、今度は少年が入ってくる。

まこと

ちょっと〜先に来てるなら言ってくれよ
完全に入れ違いになったじゃないか

さやか

ごめんなさい
でも、あなたが先に来るなんて珍しいじゃない

ひとみ

だよね〜
いつも最後に来てたのに

まこと

い、いやまあそれは……
なんというか今までは友達と喋ってから来てたんだけど……

ひとみ

あ〜
友達いなくなっちゃたんだね

まこと

い、いや違うというか違わないというか……
その言い方だと転校したとか死んじゃったように聞こえて

さやか

なるほど、クラス替えで友達と違うクラスになったのね

まこと

そうだよ、さやかさん
友達はいるんだけどクラスが変わっちゃったからまだ馴染めてないだけだよ

ひとみ

ん〜でもそれですぐに逃げてここに来るくらいだと新しい友達出来ないんじゃないかな

まこと

そ、それはそうなんだけど……
ひとみちゃん可愛い顔して結構言うよね

ひとみ

え〜そんな事ないよ
まことくんに友達いた事のほうが驚きだよ

まこと

おい!

ひとみ

あはは

まこと

あははじゃないよ……
僕の心は傷ついたよ
ま、そんな訳だからこれからは先に鍵取りに行くとき連絡をすることにしよう

ひとみ

あ〜結局友達つくりからは逃げるの?

まこと

逃げるわけじゃないけど、まあそういうこともあるというかなんというか
とにかく、今は連絡のことだ!

さやか

悪いけれど、わたしあなたの連絡先知らないの

まこと

え……?
マジで……
一年も一緒にやってきたのにそうだっけ……

ひとみ

あっ!
あたしも知らないや

まこと

ちょい待って
交換してなかったっけ、確かにメールとか送った記憶はないけどてっきり既に交換してると思ってた

さやか

だから……ごめんなさい

ひとみ

ごめんね……

まこと

なら、ゴメンじゃなくて交換しようよ!

ひとみ

えっ……

まこと

おい、本気で嫌そうな顔すんなよ……
泣くぞ

ひとみ

もちろん冗談だよ、しょうがないから交換しよ

さやか

そうね交換しましょう

まこと

やった〜
女の子のアドレスゲットだ!

まこと

よしオッケー
あれ、2人はいいの?

ひとみ

さやかちゃんとは最初から交換してるよ

さやか

ええ

まこと

僕だけ仲間はずれだったのかよ!

ひとみ

あはは

さやか

さて、今日も文芸部の部活を始めましょうか

まこと

ちょ、軽く流すなよ!

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