女子トイレに駆け込んだ瑞希は洗面台の蛇口をひねる。
あまり冷たくはない水道水でパシャリと火照った顔を塗らした。
女子トイレに駆け込んだ瑞希は洗面台の蛇口をひねる。
あまり冷たくはない水道水でパシャリと火照った顔を塗らした。
ったく、まさかあのタイミングで鉢合わせになるとかっ
一度二度では、ちっとも茹で上がった顔を落ち着かせることが出来ない。
何度かパシャパシャと繰り返したあとに、髪の毛をかきわけながら鏡の向こうの自分の顔を覗き込んだ。
――仏光寺のやつ。いったいあたしの、
どこがいいんだよもう……
ひとりごちて瑞希が言った。
父親や従兄弟たちの影響で小学校からずっと空手を続けてきて、その流れから中高の部活でも空手部に席を置いてきた。
身長も、同世代の男子と比べても遜色がない一六七センチの背丈だ。まだまだ伸びそうな気配すらある。
恋愛というか、本音を言うとそういうのに興味が無かったわけじゃない。
女の子らしく、そういう事にちゃんと憧れはあった。
あまり他人には話した事がなかったけれど少女漫画や少女小説ならば、部屋の本棚にびっしりと詰まっている。
その事は小学校からの大親友である高槻茜だけは知っていたけれど、その他大勢の友達には内緒にしていた。
だって気恥ずかしいから。
ずっと空手一筋の瑞希が実は女の子趣味全開で、白馬の王子様が登場するようなファンタジー小説の愛読者だなんて、ちょっと口には出来ない。
瑞希はそんな風に思っていた。
前髪をかきわけると、瑞希が気にしている自分の特徴的容姿があらわになる。
……あたしなんてデコッパチだし
ボソリと続ける。
それに、ノッポだし
空手のやりすぎでそうなったのか、背丈だって高いし割合と筋肉もある方だ。
こんなんじゃ、全然かわいくねーし……
誰かが女子トイレに入ってくる瞬間、はっとして瑞希は背筋を伸ばした。
くそう、それもこれも仏光寺の奴が告白とかしてくるから……
ブツブツとつぶやきながらハンドタオルで塗らした顔を拭いて女子トイレを出る。
うわああああああああああっ。まじどうしよおおおっ
こんなに教室に戻るのが億劫なのは、学校の試験の時ぐらいのものだ。
ドキドキのおさまらない瑞希は、他人の視線などお構いなしに、ついつい叫んでしまった。