この現代社会、スマホという文明の利器があるだろうに。
安眠を妨害されたガイアはやや不機嫌。
授業が3限からなのでゆっくり寝れるはずだったのに。
しかもこのパターンは2度目である。
何で昨日は出勤しなかったんですか!?
何でお前は朝っぱらから
いちいち俺の家に来るんですか?
この現代社会、スマホという文明の利器があるだろうに。
安眠を妨害されたガイアはやや不機嫌。
授業が3限からなのでゆっくり寝れるはずだったのに。
しかもこのパターンは2度目である。
ガイアさん、電話だと取らないし、
メールは返信しないじゃないですか!
たまには取るし、希に返信するだろうが
業務連絡に対しては逐一了解返信!
社会の常識です!
こんな奴に常識を解かれる日が来るとは、ガイアは思ってもみなかった。
で、昨日は何故に事務所に来てくれなかったんですか?
ミーちゃんもどっか行っちゃって、1人で寂しかったんですよ!?
知るかそんなん……
ちなみにミーちゃんとはテレサのペットであり、形式上ガイアの同僚に当たる猫である。結構ふてぶてしい奴だが、餌さえ与えれば擦り寄ってくる実に正直な奴だ。
まぁそれはさておき、
昨日はバイト行ってたんだよ
バイトって……辞めたんじゃないんですか?
また始めたんだよ。
今度はカラオケハウス
何故ですか?
何故、と来たか。この野郎。
……強いて言えば、
誰かさんが一向に給料をくれないからだな
うっ……だって、
ウチのお金は受け取りたくないって言うから
そりゃあそうだろ
一般的な良識として、公務員の様に国のために働いている訳でも無いのに、国民の血税から給料がもらえるか。
こいつのアホな会社に入って1ヶ月とちょっと経つが、ガイアはオフィスの掃除と、テレサが一応ダークヒーローを目指して行う行動の軽いサポートしかしていない。
税金から金をもらえる要素が見当たらない。
大体、あの活動内容でどうやって利益上げるつもりだったんだ?
オフィスがあるビルは、土地ごと購入しており、賃貸料金等は発生しない。
土地やら建物やらの税金関係は、テレサの家柄上パスできている。
この辺の電気水道は国営なので同上。
だが、従業員の給料はどうしようも無い。
あの会社では利益を上げる事など不可能だ。今の所、社内と社会のゴミの清掃しかしていない。
うーん……
どうにかなる気がしたんですけどねー……
見通しが甘いなんてレベルじゃない発言だなおい
世の中の悪の組織って、どうやって生計立ててるんですかね?
ドラマ知識になるが……
人殺しとか犯罪絡みの依頼とか受けて
……とかじゃね?
ひ、人殺……
まぁこのほわほわ感MAXのわんぱくお姫様には到底想像もできない世界だろう。
本来悪の組織だのダークヒーローだのに最も縁がない人種だ。
こ、恐いんですね、悪の組織……
まぁ悪の組織だしな
ウチの様な悪の組織(笑)とは次元が違う。
あ、でも良い事思いつきました!
ほう
閃きの瞬間ですよ!
いいからその良い事ってのを言え
はい!
少し勿体ぶって、テレサはパチンと指を鳴らした。
虚空からボフンッと現れたのは、1冊のコミックス。
以前のダークヒーロー物、では無い。
お悩み解決の仕事を請負い、
解決していく万事屋物語です!
……で?
主人公は、普段はのほほんとした中年ですが、暗い過去を持っていて、時にはダークサイドな一面を見せるんです!
一種のダークヒーローです!
……ふーん……
パラパラっとページを捲ってみる。
確かに、普通のシーンではアホ面な主人公だが、戦闘シーンになると血に飢えた餓狼の様に描写されている。
私よくのほほんとしてるって言われるんで、この路線なら行けるんじゃないでしょうか。
悩める方々から依頼を受けて、かっこよく解決!
どうやら、さっき話に出た「悪の組織は犯罪絡みの『依頼を受ける』」という文言からこの作品を思い出したらしい。
まぁ、何でも屋って方向性は良いと思うぞ
それなら、金も入ってくる。
つまり利益が生まれる。=給料が発生する。
ガイアとしては是非ともそうしていただきたい。
でも、お前暗い過去とかあんの?
えーと……あ、昨日、独りぼっちにされて寂しい思いをしました!
この漫画の主人公に謝れ
えぇっ!?
あと、ダークサイドな一面ってのも出せねぇだろお前
頑張ります!
頑張って出すものじゃないだろう。
それではただの「悪ぶってる」で終わりだ。
ダークヒーローどころか、最悪ただの痛い奴で終わる。
この前もこんな感じのやり取りをした気がするが、根本的にダークヒーロー的要素が足りない。
とにかく、今は少しでもダークヒーローに近づく道を模索すべき時です!
んじゃ、とにかくあの会社は便利屋業にシフトするってのは決定事項でいいのか?
はい! それで行きましょう!
目指せダークヒーローです!
多分ダークヒーローには一歩たりとも近づいちゃいない。
その辺も理解できていない辺り、果てしなく遠い目標だという事がよくわかる。
でもまぁ良いだろう。
今までと違い、利益が見込める様になるのだから。
日曜日の昼前、オフィスにて。
んじゃ、確認してみるか
で、どうなんですか、ガイアさん!
お仕事の依頼きてますか!?
今から確認するっつってんだろ……
オフィスの端っこに導入された、まぁまぁ上等なデスク。
その机上には、『幹部』と刻まれた大理石のプレートと、ノートPC。
便利屋業の開始を機に、ガイア用に用意されたデスクだ。
とりあえず、便利屋を始めるからには、告知して世間に知ってもらう事から始めるべきだと考えたガイア。
『些細な家事手伝い事から国家を揺るがす大事件まで、何でも気軽にご相談ください。指をパチンと魔法で解決いたします!』
そんなダラダラと長ったらしい宣伝文句を添え、ガイアはチラシを制作しホームページとかも作ってみたのだ。
そして、依頼があるならメールでアポを取ってね、という意図を込めてチラシにもHPにもアドレスを載っけてみた。
ガイアは今、そのメールボックスを確認している。
早く早く!
まだ電源入れたばっかで
プログラム立ち上がってねぇっての
そうは言っても、
早く見たいじゃないですか!
本当、見た目相応にガキだ。
一応「義務教育は受け終わりました!」とか言ってたから、15歳以上ではあるんだろうが……
テレサの外見・中身両方を踏まえて精査してすると、ガイアは首を傾げざるを得ない。
ったく、
そんなに急かすんなら、お前がやれよ
起動中の画面で何か出来るというのならやってみろ。
ひぇ? あ……いえ、私はー、その、こういう機械とは、反りが合わないというか……
ヤケに目が泳ぎまくるテレサ。
…………
な、何ですか?
……ああ、そういう事か。
少し、妙だとは思っていた。
何でもかんでもアグレッシブに取り組むこの魔法少女。そんな彼女が まるで遠ざける様にノートPCをガイアのデスクに置いた事。
ガイアがホームページの作成をしている時、何の口出しもして来なかった事。
今朝から「もうメール着てるんじゃないですかね!」とガイアを急かすだけで、決して自分でPCに触れようとはしなかった事。
考えられる事は、1つ。
……今時PCの一つもいじれねぇのかよ……
ち、違いますよ!?
そ、そんな子供じゃあるまいし……
あれです! 『けんたいき』って奴です! 決してキーボードって何がどうなってんの、とか、そんな事は一切…その、あの!
別にPC操作できないくらいでそんな馬鹿にしねぇよ
…………本当ですか?
ああ
…………はい、実は私、
その…ちょっと複雑な操作がいる機械類は、こう、チンプンカンプンで……
……今時小学生でもネットサーフィンする時代なのになぁ……小学生でも。
そう、小学生でも
やっぱり馬鹿にするじゃないですか!
まぁ、何というか、テレサはいちいちリアクションが大きいので、そこそこイジリ甲斐がある。
い、いいですもん!
スマホさえ操作できれば日々快適ですもん! PCなんて贅沢品です!
多くを求めすぎるのはよくない事です!
まぁスマホだって充分贅沢品の部類ではあるのだが、それ以上に突っ込むべき事がある。
スマホ操作っつっても、お前メールと電話しかできねぇだろ。メールも誤字多いし
し、失礼な!
パズルゲームだってやってます!
インストールしたのは?
いんすとーる?
そのゲームを、
スマホで遊べる様にしてくれたのは誰だ?
…………兄様です
……つぅか、インストールって単語自体を知らないのは流石に予想外だったわ。
今時小学生でも知ってるぞ。小学生でも
もういいです。私の負けです。
好きにしてください
拗ねるなよ。
俺も意地が悪かったよ…………子供相手に
本当に意地悪ですね!
はいはい、と適当に流し、ガイアはマウスを操作。
メールボックスを開き、新着を確認してみる。
……お前のファンは熱心だな……
え?
メールボックスには、結構な量のメールが届いていた。
しかし、どれもテレサのファン達からの応援メッセージ。要するにファンレター的な物。
ちょくちょく迷惑メールが混ざっているくらいで、依頼のメールなんぞ1通も無い。
皆さん、困り事とか無いんですかね……?
まぁ、基本ノー天気なのが
国民性みたいな国だからな
良い国ですね!
ああ、王族がこんなんだからな
こんなんって何ですか!
正直、スタートはこんなもんだろうとガイアは予想していた。
犯罪が絡む問題は警察に相談するだろうし、手近な問題はご近所さんにでも頼めば結構どうにかなる。『便利屋を利用する』という、半端な度合いの問題は、日常生活ではそうそう発生しない物だ。
テレサの「正義の魔法少女」としてのネームバリューに、少しばかり淡い期待はしていたが、まぁ想定内。
便利屋だろうと客商売。地道に信頼と実績を獲得していく事が大切だ。
ま、気長に行こうぜ
あれ?
ガイアさん、どこか行くんですか?
バイト
本日はお昼から夕方までのシフトである。
私をまた1人にするんですか!?
慣れてるだろ
慣れてても寂しいですよ!
ぐわしっ、と必死にすがり付いてくるテレサ。
よっぽど独りぼっちが嫌なのだろう。
気持ちはわかるが、ひたすら邪魔くさい。
ミーちゃん! せめてミーちゃんが帰ってくるまで待ってください!
あの猫、1度出てったら数日とか平気で帰って来ないじゃん
つまりそういう事です!
ふざけんな!
私よりバイトの方が大事なんですか!?
だから、
迷わずバイトに行こうとしてるだろうが
殺生な!
天秤にかけるまでも無い。というか行動で察しろ。
お金がそんなに大事ですか! お金じゃ買えない物ってあると思いませんか!
ああそうだな。いっぱいあるだろうな。
でも家賃だの学費だのは金でしか払えないんだよこの野郎
家賃と学費……
つまり、ガイアさんがこのビルに引っ越して学校を辞めれば、私は寂しい思いをしなくて良くなるって事ですか!
ああ…そうだな、そして俺の人生は取り返しの付かない事になるだろうな
ちゃんと養いますから!
結構だ
テレサを引き剥がし、ガイアはPCの電源を落とす。
本格的にバイトへ向かう準備を始める。
酷いです……
もっと大事にされてると思ってたのに……
冷静に今までの自分の行動を振り返って、
そう思ってたのか?
だとしたらもうお手上げだ。
…………うぅ……うぅぅぅううぅ……
…………あーもう、わかったよ。
バイト終わったらまたここ来るから
本当ですか!? いつですか!?
今!? 今なんですか!?
お前な……
とにかく待ってます!
そしてそれまで感じた寂しさを力の限り愚痴ります!
…………
やっぱもう1度来るの辞めとこうか。
面倒くさくなってきた。