お姫様な魔法使い、テレサが代表を務める『魔地悪威絶(まじわるいぜ)商会』。

 商会とは言うが特に商売はしていない。
 テレサ的にその辺はどうでもいいらしい。

 この組織の目標は、『悪を以て悪を制すダークヒーロー集団』になる事だそうだ。
 だが、現状芳しくは無い。

テレサ

何故でしょう……


 魔地悪威絶商会本社ビル(雑居)の2階、オフィス。
 成金趣味な黄金のライオンの模造頭とか、甲冑だの剣だのも飾られている。

 そんなオフィス内でも一際目を引くのが、大きな高級デスク。
 上質なデスク上には、『ボス』と刻印された荘厳な造りのプレートがポテンと置かれている。

 そんなデスクにちょこんと構えて、テレサは可愛く首を傾げていた。

 デスク上に並ぶのは、いくつかの新聞記事と、警察からの感謝状。

テレサ

活動すればする程、
ただのヒーロー扱いに……!

ガイア

良い事じゃねぇか


 そう言ってガイアは客用のソファーに座ってお茶を呷る。

 新聞記事はどれも一面にテレサの活躍を取り上げている。
 感謝状は、それらの事件解決の度に送られてくる物。

テレサ

ダメですよ!
今更悪い事できない雰囲気ですよこれ!
何かファンレターとか着てますもん!
ガッカリされるのヤですよ!


 テレサが取り出した一斗缶の中には大量の手紙。
 テレサを応援するファンメッセージの山である。

テレサ

これとか読んでくださいよ……拙い文字で
『おねえちゃんすごい。リカもおねえちゃんみたいに、みんなをたすけるひとになるの』って…裏切れませんよこんな純粋な子を

ガイア

じゃあ良い事続けてればイイだろ

テレサ

本末転倒です!
ダークヒーローはダークだからこそダークヒーローなんですよ!?

ガイア

でも、意外と悪い気はしてないんだろ?
めっちゃ笑顔だし


 新聞に掲載されているテレサの写真は、いつだってカメラに向かって笑顔のピース。

 それに「一々お返事書くの大変なんですよー」とか何とか言いながら、何だかんだ楽しそうにファンレターの返信を書いてたりする。

テレサ

ま、まぁそれはそうですけど……
……あ、そうだ!


 何か思い付きやがった様だ。

テレサ

いちいち事件解決する度に
取材に応じるからダメなんですよ!

ガイア

ほうほう

テレサ

なので、顔を隠して事件解決!
名乗らずに立ち去ります!

ガイア

……それはただ単に
『正体不明のヒーロー』だな

テレサ

うっ


 ダークヒーローとは言い難い。

 そもそもダークヒーローの定義ってなんだっけ。
 気になったので、ガイアはちょっとスマホで検索してみる事に。

 すると『ダークヒーローの要素まとめ』とやらが出てきた。

ガイア

テレサ、ちょっと診断してみるか?
今の所どれくらいダークヒーローか

テレサ

わ、面白そうですね、是非!

ガイア

じゃあまず……
ヒーローの王道に属さない独自の行動理念を持っている?

テレサ

はい! ダークヒーローになりたいです!


 ……まぁ、確かにヒーローの王道からは程遠い行動理念ではある。

ガイア

その理念に確固たる信念を宿している?

テレサ

あります!
私とってもダークヒーローしたいです!
月をバックに高笑いとかしたいです!


 本気で言っているのがよくわかる良い瞳だ。
 信念はあるのだろう。

ガイア

目的のためなら悪逆非道も躊躇しない、
敵対者には容赦しない。
必要があれば拷問まがいな事も行う?

テレサ

い、いくら相手が犯罪者とかでも、そこまでするのは酷くないですかね?
だって倒して警察に引き渡せば全部解決しますよ?


 ……まぁそうだけども。

ガイア

悪役・汚れ役・憎まれ役などになることを恐れず、他者の評価に左右されない?

テレサ

出来れば
皆からかっこいいって思われたいです


 …………ダメだこりゃ。

 4つの要素の内、2つは当てはまっていると言えるだろうが……何というか、ダメだこりゃ、とガイアは総評を下す。
 こう……当てはまらない2つの当てはまらなさ加減がすごい。

ガイア

…………

テレサ

どんな感じですか?


 何かワクワクしている所悪いが、期待に胸躍らせる事すらおこがましいと思わないかお姫様よ。
 ガイアは溜息を吐き、「こいつと会ってから、1日あたりの溜息の回数増えたなぁ」と心中つぶやく。

ガイア

あ、そうだ

テレサ

どうしたんですか?

ガイア

あれだ、普通のヒーローじゃ裁けない悪を裏で裁く、とかどうだ?

テレサ

あ、それダークヒーローっぽいです!


 しかし、ここでテレサもガイアも首を傾げる。

テレサ

……ヒーローに……

ガイア

……裁けない悪……

テレサ

……無くないですか?

ガイア

俺もそんな気がする


 悪い奴をヒーローが裁けないなんて有り得るのか。
 少なくともガイアとテレサが想定し得る限り、無い。

ガイア

うーん……裁判で、明らかに有罪なのに、汚い人脈や金で無罪になった人、とか

テレサ

でもその人が本当に無罪だったら、
ヤバくないですか?


 それは確かにかなりヤバイだろう。

 それに何より、その手の輩は法的に裁けない以上、直接ダークヒーローが命を断つ以外断罪方法が無い。
 この少女に、それは無理だろう……とか言いだしたら、そもそも無理な話という事になるが、その通りだから仕方無い。

ガイア

……頭痛くなってきた

テレサ

風邪ですか?


 お前のせいだよこののほほんプリンセス。
 ガイアは少し遠い目で窓の外に視線をやる。

ガイア

……もうあれだ。
なる様にしかならんよ

テレサ

あれ、ガイアさん?
もしかして今匙を投げました?

ガイア

………………

テレサ

ちょ、待ってくださいよ!
一緒に考えてくださいよ、ダークヒーローとして認められる方法!


 さっきの診断通りなら他者の評価に左右されないのがダークヒーローの要素の1つらしい。
 なので「ダークヒーローとして認められよう」という考えの時点でもう不可能である。

 不可能なモンは不可能。以上。

ガイア

今日は晩飯何食おうかな……

テレサ

聞いてます? ねぇ! ガイアさーん!?


 そんな感じで、ダークヒーローに一歩も近づく事無く、今日も1日が終わる。

ダークヒーロー(遠い目)

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