世の中には怪異・幽霊・奇跡と言った、
人知を超えた現象が確かに存在する……。

時として人は、自ら望む望まないにかかわらず、
その様な不可思議な世界へと足を踏み入れてしまう。

夢見ヶ丘学園☆しんれ~ぶ

第一夜:こっくりさん

ふっふっふ!
ついに私達の部活の認可が降りましたわ!
世の理をもうこれでもかと暴かんとする、『夢見ヶ丘学園心霊部』が!!

【西園寺 綾香】
(さいおんじ あやか)通称:あやか

今どき珍しいお嬢様系JK。
西園寺財閥の令嬢で凄くお金持ってる。
大体いつも500万位持ち歩いている。

えへへ、よかったねあやかちゃん。
でも、良く許可おりたよね?

心霊部なんて部活。先生が許可しないって
私は思ったんだけどなぁ~……

【寺金 手毬】
(てらがね てまり) 愛称:てーちゃん

オドオドした雰囲気がある小動物系JK。
実家が寺。
凄い霊的なアレがあるともっぱらの噂。
あくまで噂。

さーや

まっ、あやかはここの学園を運営している
財閥のご令嬢だからね~。
きっと人には言えない様な裏のアレコレを
使ったんじゃないの??

さーや

【山田 沙苗】
(やまだ さなえ) 愛称:さーや

元気だけしかとりえの無いありきたりJK。
目立つ特徴があるわけでもないが、
そのキャラから初見で
「あ~、この子がツッコミ役なんだ……」と思わせる雰囲気を持つ。

あやか

まぁ、ワタクシがどの様にこの部活を
設立する栄光を勝ち取ったかは良いでは
ありませんか?

そ・れ・よ・り・も!
さっそく部活動をしますわよ!
我が心霊部の!!

てーちゃん

わー! ぱちぱち!

さーや

部活するって言っても何するのよ?
心霊部って言っても結局あやかがこの前
テレビで怪談特集やってたから
思いついた物でしょ?

てーちゃん

あっ、確かにそうかもね?
心霊部って言っても何か怖い話のアテがあるの、あやかちゃん?

あやか

ふっふっふ! ご安心を。
この武者小路綾香! その程度の準備をしてないはずがありませんわ!
これを御覧ください!

さーや

これは……こっくりさんか

目の前にあったのは、一枚の紙と10円玉だった。
こっくりさん――

それは、最近……いや、昔から話題になっている
降霊術の一つだ。

ひらがなと数字、はい、いいえ、が書かれ、
中央に鳥居がある特殊な用紙。
それを用いて狐の霊であるこっくりさんを呼び出し、
様々なお告げを聞くというお遊びに近い物。

けど、本当に動いた。だの、
こっくりさんに取りつかれただの
きな臭い噂ばかりが広がり、
ついには全国的に問題になって禁止された遊び。

何もアテがない彼女達にとっては
オーソドックスな物だと思われたが……。

さーや

なんだか嫌な予感がするけど……。
まぁ、いいか。きっとだいじょうぶでしょ

さーや

それで、あやかは今からみんなで
こっくりさんをする。そう言いたいわけね

あやか

ええ、その通りですわ、さーやさん。
私ネットで見ましたの。

『夕暮れ時の学校でJKが密かにこっくりさんをするシチュとかめっちゃ熱い!』

って! きっと凄い事が起きるはずですわ!

さーや

それ違う意味だと思うけど……

てーちゃん

で、でも! 
本当にお化け出てきたらどうするの?
わ、私なんだか怖くなってきた……

あやか

そこはほら、
我らが心霊部には対幽霊用の最終兵器、
寺生まれのてーちゃんさんが居ますからね!

何かあったら貴方がバッチリ解決してくれると信じてますわ!

てーちゃん

え? わ、わたし!?

さーや

う~ん。まぁ確かにてーちゃんに
任せておけば安心かな?

頼りにしてるわよ寺生まれ。
無いと思うけど、幽霊出てきたら噂の心霊的なパワーでよろしくね?

てーちゃん

えっ! えっと……。
うん! 私がんばるよ! 任せておいて!

あやか

じゃあ早速始めましょうか!
ワクワクしてきましたわ!

ささ、お二人共! ぼ~っとしてないでこの十円玉に指をおいてくださいな!

てーちゃん

は~い♪

さーや

はいはい~

あやか

それで……これがこっくりさんを呼び出す文ですわ。皆で一緒に読みましょう

あやか

こっくりさん、こっくりさん――

さーや

おいでください。
もしおいでになられましたら――

てーちゃん

どうぞ"はい"のところへお進み下さい

――はい

あやか

う、動きましたわ!!

てーちゃん

わ、わぁ!
本当にこっくりさんが来たんだ!

さーや

誰か動かしてるんじゃないの?

あやか

私は動かしていませんわよ?
やっぱりこっくりさんの噂は
本物だったんですわ!

さーや

それで……どうするの?
普通は質問をすると思うんだけど

てーちゃん

わくわく!

あやか

では試しにワタクシから……。
こっくりさん、こっくりさん――

あやか

――私の好きな食べ物を教えて下さいな?


――お子様ランチ

あやか

せ、正解ですわ!!

さーや

可愛らしいわね……

あやか

旗が好きですの!

さーや

あっそ……

あやか

じゃあ次はてーちゃんさんで

てーちゃん

わ、私!? べ、別にいいよ!
先にさーやがやってよ!

さーや

む? 私? う~ん……

さーや

と言っても別に聞きたいこと無いしなぁ……

あやか

ちょっと、遅いですわよ?
何をそんなに悠長に……。
これだからさーやさんは駄目なんですわ……

てーちゃん

はやくっ、はやくっ!

さーや

むっ!!

さーや

…………

さーや

……♪

さーや

じゃあね――
こっくりさん、こっくりさん……

さーや

――あやかの好きな人は誰ですか?

てーちゃん

わぁ!!

あやか

まぁ!

さーや

ふふふっ、折角なんだしちょっとはそれっぽい質問してみなきゃね?

私前から興味あったんだよね~。
あやかって好きな人……いるのかな?

あやか

そ、そんな質問反則ですわ!

さーや

し~らないっと♪


――あやかの好きな人は……

さーや

さぁ、誰が来るかな!?

あやか

だ、駄目です! 駄目ですわ!

てーちゃん

えへへ、えへへへ~♪


――あやかの好きな人は、他ならぬ自分自身

さーや

…………


――あと、自分以外にあんまり価値はないとか思ってる

あやか

きゃ~! きゃ~!
言っちゃ駄目ですのに~!

さーや

いや……。おい


――人を好きになるという概念が理解できない

てーちゃん

わぁ! 本当だったんだ……
あやかちゃんが財閥の力を持って
やがて世界を支配しようとしている噂!

さーや

そんな噂あったの!?

てーちゃん

有名だよ? あやかちゃんが人前以外では
皆のこと蟻とか羽虫とかって呼んでるの

さーや

性格悪いなコイツ!!

あやか

も、もう! お二人とも酷いですわよ!
よってたかって乙女の秘密を暴く
だなんて……

さーや

いや、どう考えても乙女らしからぬ
傲慢さだったわよ……

あやか

もうっ! 明日かワタクシどんな顔してお二人に会えばいいのやら……

さーや

今までみたいに価値はないとか思いながら
付き合えばいいんじゃないの?


――がんばってね

てーちゃん

そんな事より、次はどんな質問する?
私は特に聞きたい事ないから
大丈夫だけど……

あやか

もうワタクシは結構ですわ。
これ以上質問したらもっと聞かれてはいけないことも言われてしまいそう

さーや

えっ、まだあんの?
……まぁ私もいいかな? あやかの面白い話も聞けたし

てーちゃん

うん、そうだね。
結局あやかちゃんの事しか聞いてない
気がするけど……、
こっくりさんに出会うって当初の目的は達成したしね

あやか

ではお帰り頂きましょうか?
あまり時間かけてもどうかと
思いますしね……

あやか

こっくりさん、こっくりさん。
この度は誠にありがとうございました。

こっくりさんの今後のご活躍を心より祈っております。ではお帰り下さいませ

――…………

さーや

…………?


その時だった。
今までどこか緩やかだった雰囲気が……
はっきりと、鋭く冷たいものに変化した。

――いいえ

さーや

えっ!!

てーちゃん

ど、どういうことなのあやかちゃん?
こっくりさん、帰ってくれないって
言ってるよ?

あやか

おかしいですわね。こっくりさん。もう一度お願いします。
どうか帰って下さい

――いやだ

剣呑な空気が教室を満たす。
いつの間にか驚くほど辺りは暗くなっており……。
なにより、不気味な気配がそこかしこから漂っている。

さーや

こ、これって……

あやか

俗にいう、こっくりさんが帰ってくれない状態ですわね。
……皆さん。この雰囲気を分かりますか?
今ワタクシ達はまさしくピンチですわよ!

さーや

そんな嬉しそうにして、どうするのよ!?

あやか

ふっふっふ。安心して下さい。
なんの為に今日このメンバーを用意したと思っているのですか!
今ここには寺生まれがいるのですわよ!?

さーや

あっ! そうか!!

あやか

さぁ、てーちゃんさん!
ビシッとこっくりさんを祓って下さい!

てーちゃん

そ、そんなの急に言われても無理だよ!!

さーや

ちょ、ちょっとどうしてよてーちゃん!
寺生まれでしょ?
このくらい楽勝じゃないの!?

てーちゃん

だって!
私のお家、確かにお寺だけど、
あくまでビジネスとしての寺運営であって、
こういうガチの心霊現象なんて
専門外なんだよ!!

さーや

じゃあなんでアンタホイホイ
ここにやってきたのよ!

てーちゃん

こういう経験しておくと
今度の檀家向けセミナーのネタに
使えるかと思って!

さーや

ビジネス視点で物事判断すんな!

あやか

なるほど……

あやか

早速窮地に立たされましたわね!

さーや

立たされましたわねじゃないわよあやか! どうするの?
ちょっとマズイんじゃない……


――殺す殺す殺す殺す殺す……

てーちゃん

そうだよ、これヤバイよ。
こっくりさんもなんだか凄く殺気増やしてるし、これ早めにリスクヘッジしないと
良くないことが起こるよ。

てーちゃん

――あくまでビジネス視点からの
アドバイスだけど……

さーや

一々ビジネスを話に絡めんな!!

あやか

…………分かりました。私にお任せください

さーや

あ、あやか!? 何か良い案があるの!?

あやか

この窮地を乗り越える秘策を、
実は持っておりますのよ!

さーや

……っ!? それ本当なの!?


――憎い憎い憎い憎い憎い

あやか

ええ! そしてこれがその秘策ですわ!!

あやかがおもむろに取り出し、
机の上に投げつけるように置いたもの。

それは、相当な金額になるであろう
紙幣の束だった……。

さーや

これは……札束!?

あやか

ここに五百万ありますわ。
……こっくりさん。
これで帰ってくれませんでしょうか?


――えっ!?

あやか

五百万。詫び金として差し上げます。
これで、どうかその怒りをおさめて下さい。
こっくりさん……

――…………

さーや

ちょ、あやか!
そんなんで許してくれるはず――


――はい

さーや

帰っちゃったぁぁぁ!?

てーちゃん

帰った! こっくりさん帰った!
良かった! 皆助かったんだ……

さーや

ってなんで帰ってるのよ!
現金関係ないでしょ!? 幽霊でしょ!?
お金貰っても使えないでしょうが!!

あやか

落ち着きなさい。さーやさん。
その質問には私が答えましょう

さーや

……納得行く答え、
聞かせてくれるんでしょうね?

てーちゃん

うん。私も今後の参考に聞きたいな。
どうしてこっくりさんは五百万で帰ったの?

あやか

ふふふ。じゃあ例えばてーちゃんさん。
もし貴方がこっくりさんだとしましょう

てーちゃん

はい

あやか

貴方は凄く怒っています。
なぜなら、勝手に呼び出され、くだらない質問をされた挙句、
もう用は済んだとばかりにぞんざいに帰れと言われたからです……

てーちゃん

……うん! なんだか気持ち分かる。
それ、凄い失礼だよね!

あやか

貴方はもう何がなんでも相手を許すつもりはありません。

もし許すとしたら、相手の命の炎が消え去った時だけでしょう……

てーちゃん

許さない! 絶対に許さないよ!

あやか

……でも

あやか

でも、もし五百万積まれたら?

てーちゃん

……はっ!

さーや

え? 何よその気がついたと言わんばかりの表情は。今ので閃く事があったの?

あやか

てーちゃんさん。
もし、五百万積まれた上で帰ってくださいってお願いされたら……。

こっくりさんである貴方はどう思いますか?

てーちゃん

……っ!! 確かに! 帰る!
五百万だったら許してあげようかなって思っちゃうよ、あやかちゃん!

あやか

ふふふ? そうでしょう?
だって五百万はそれだけ価値が
ありますもの……

てーちゃん

五百万だからねっ!!

さーや

…………

あやか

確かに私達はやってはいけないことをしました……。
無闇矢鱈と降霊術を行い、遊び半分――

いえ、遊び全部で質問を繰り返すなど、
彼にとっては到底許されないことだったのでしょう

あやか

けど、絶対に許されないことなど
世の中にはありません。

なぜなら――

あやか

――大体の事は、
お金で解決出来るのだから……

てーちゃん

うん! 分かる! 分かるよあやかちゃん!

お金って大事だよね! 大抵のことはお金を積んだらなんとかなるよね!

あやか

ふふっ、最初の部活動からこんなスリリングな展開になるなんて……。

夢見ヶ丘学園心霊部。なかなかおもしろくなってきましたわね!!

てーちゃん

うん! 私もなんだか楽しくなってきた! これからも一緒に頑張ろうね!
あやかちゃん!!

てーちゃん

あっ、もちろん――

てーちゃん

五百万は常に用意しとこうねっ♪

あやか

まっ! てーちゃんさんったら、
無事だと思ったらすぐ調子に乗って、
現金な子ですわ!

てーちゃん

えへへ、現金で解決しただけに……かな?

あやか

うふふふふ♪

てーちゃん

えへへへへ♪

さーや

……ねぇ

てーちゃん

どうしたの、さーやちゃん?

あやか

どうかしましたか、さーやさん!

さーや

私、さっそく退部させて
もらっていいかしら?

てーちゃん

ええっ!? 決断力高いよ、さーやちゃん!

あやか

ご、五百万あげるから
考えなおして下さい!!


――こうして。

JK三人を襲ったこっくりさんは、無事五百万円によって撃退された……。

世の中には不思議な事がある。
時として、それは無垢なる少女たちに抵抗の余地さえも残さずその牙を突き立てるだろう……。

だが、その凶暴な危機すらも超越する加護が……、
信じるものが、幸運な彼女達には存在した。

――現金五百万円

図らずもこの事件は、資本主義の力が危険な怪異より強力である事を証明する結果となったのであった……。

第一夜:こっくりさん

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