リョウタがネットの海から古いゾンビ映画のライブラリを掘り出してきた。
おれたちはそいつをプロジェクターで上映し、連日連夜鑑賞しながらゲタゲタと声をあげて笑った。
リョウタがネットの海から古いゾンビ映画のライブラリを掘り出してきた。
おれたちはそいつをプロジェクターで上映し、連日連夜鑑賞しながらゲタゲタと声をあげて笑った。
「大昔のやつらってのは、なにを考えてこんな代物ばかりを作ってきたんだ?」
発掘者であるリョウタ自身が、そんなことををいう。
「リアリティってもんがないな」
笑いすぎて目に涙を滲ませながら、ミシマもいった。
「第一、人間が全滅しちまったら、ゾンビだって食うものがなくなるだろうに」
「え?」
ヨウジが目を丸くする。
「これ、最初からギャグとして作ってるんだろう?
考証なんて無茶苦茶だし」
「いや、この手の映画が作られているのは、本物のゾンビが出現するようになるずっと前だから」
トマオが断言する。
「ゾンビが出てはじめた頃には、映画なんて娯楽はすっかり衰退していたし」
「映画って、動画という意味ではないのか?」
「違う、違う」
ヨウジが疑問を口にすると、リョウタは顔をしかめた。
動画をこう、大きな専用の劇場で上映して大勢の人間で鑑賞する、そういう娯楽形態があったんだよ、大昔は。
今、おれたちがプロジェクターで動画を映し出しているように
めんどくせ
ミシマが吐き捨てるようにいう。
動画なんか、さっさと網膜にでも投影すりゃあいいだろうに
その頃は、直に網膜する技術なんかなかったんだ
トマオがゆっくりと首を横にする。
電子媒体さえなく、映像といえば有機フィルムに焼きつけるもんだった
ふーん。
そうなんだ
ミシマがゆっくりとした口調で答えた。
あれだ。
つまり、そんな大昔からゾンビはいたってわけだな
そろそろ行くか?
といつものようにヨウジが合図をして、おれたちはのろのろと立ちあがってバギーに乗り込んだ。
今日は、どっちに行く?
この前は西にいったから、今度は北にいってみるか
どっちにいってもかわんねーよ。
どうせ、ゾンビだらけだ
おれたちはバギーに乗り込みながら、各自の銃や強化服を点検する。
あんまりクスリが回りすぎると注意力が散漫になって危ないからな。こういう点検はできるだけ早い時期にやっておくんだ。
おれたちはクスリをキメながら、バギーを西へと走らせた。
そこで適当なショッピングモールへバギーごと乗り込み、そこにたむろしていたゾンビどもを片っ端から潰していった。
パワーガンや強化服を使って、片っ端からプチプチと。
もちろん、たかだかゾンビ程度、そんな道具を使わずとも素手でも十分潰せるさ。
だけどやはり、効率ってもんがある。
やつら、ゾンビの実物は、大昔の映画とはかなり違っていた。
昔の映画とは違う点。その一。
やつらはそう、どちらかというと乾いている。骨が折れ、砕けるときの音も。
やつらの骨は脆い。おれの腕がサーボ音を残してぶんと一閃すれば、それでももう終わり。
ポッキリパッキリ折れて、あうあう訳の分からない音をだしてその場にうずくまる。
昔の映画とは違う点。その二。
やつらの中にも痛覚や恐怖心、判断力が残っている者が居る。
おれたちがやつらを始末しようと近寄っていくと、のろのろとした動作で逃げようとする。
もちろん、そんな逃走をむざむざ許すほど、おれたちも間抜けではないが。
おれたちは逃げまどうゾンビどもを蹴散らし、潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し潰し続けた。
ふう。
最近、人間と区別がつかないゾンビが増えてきたと思わないか?
帰り道に、バギーの運転席でリョウタがそんなことをいいだした。
そうか?
おれはクスリをキメながら、適当に相づちを打っておく。
そうさ
リョウタは頷いた。
今日潰したゾンビにしたって、そのすべてが本当にゾンビだったのかどうか、おれは疑っているんだ
はは。
なんだ、そりゃ
おれは、力が抜けた笑い声をあげる。
おれたちが普通の人間とゾンビを見間違えるわけがない。
ゾンビって、ひと目で見抜けるだろう。
あんなのろのろとしか動けないもの……
動きからして、人間とはまるで違う。
それに……。
おれたちが大量殺人犯だとすれば、とうの昔に警察に捕まってるさ
今日だって、白日のショッピングセンターであれだけ暴れてきたっていうのにおれたちを捕まえようとしてきたやつはいなかった。
それどころか、周囲に居合わせたやつらもおれたちを遠巻きにするだけで、誰も近寄ってこようとはしなかった。
俺たちから逃げようとするやつもいなかった。
危機意識の欠如は、ゾンビの大きな特徴といえる。
普通の人間ならおれたちのようなやつらが近くで暴れ出したら、危害を加えられる前に慌てて逃げ出そうとする。
しかし、ゾンビは違う。人間とは違って、物音に対する反応が極端に鈍い。
パニックさえ、起こらない。
おれたちが追いつき、潰しにいくまで大人しく待っていてくれる。
そう、それなんだよ!
リョウタは唐突に大声をあげた。
お前、最近、警官を見たことがあるか?
いや、警官だけではない。
おれたちとゾンビ以外の生きた人間に!
おれはリョウタがいうことを笑い飛ばそうとして……その途中で、凍っちまった。
そういえば……おれたち以外の人間に最後にあったのって、いつだっけ?
ねぐらに着くと、トマオは拘束して連れ帰った女のゾンビを肩に抱え、そのままベッドのある部屋へと直行した。
女のゾンビには猿轡がかましてあり、手足も縛っている。それに、そのゾンビは、あくまでゾンビにしては、という但し書きはつくも程度ではあるものの、それなりに整った外見をしていた。
そうしたゾンビを生け捕りにして……というのもおかしいか。
ゾンビの生け捕り。はは。
なんといってもやつらは、すでに死んでいるんだからな。
とにかく、そうして捕まえて来たゾンビをさんざん犯してからバラバラにするのが、最近のトマオのお気に入りの遊びなんだ。
この遊びに対して、ミシマはトマオに何度も
止めろ
といっていた。
トマオの趣味が悪いから、ではなく、ねぐらにゾンビを連れ込んでそこでばらすとなると、どうしたって室内に地肉が付着して汚れるからだ。
おれもトマオに誘われて、一度だけゾンビをやったことがある。
反応はほとんどないし、あそこは濡れないしで、あんまりいいもんじゃないかった。
だからたった一度だけつき合って、それ以降はまったくやっていない。
正直、トマオは悪趣味だとは思うのだが、おれは他人の趣味に口出しをする趣味はなかった。
……そういや、最近、おれたち以外の人間、見てないな
それからしばらくして、おれはそんなことを呟く。
そうだったけか?
クスリをキメながら、ヨウジがぼんやりと答えてくれた。
そういや……そうかもな。
いれてみれば、おれ、もうかなり女とやってないし……。
あれ?
おれ、最後に女とやったの……いつのことだっけか?
知らねーよ!
ミシマが吐き捨てるようにいった。
案外、おれたち以外の人間はとうの昔に絶滅してて、今はゾンビとおれたちしか残っていなかったりして
トマオはそんなことをいって、ゲタゲタと笑い出す。
クスリが回ってんな、こいつ。
そりゃねーよ
おれは苦笑いを浮かべながらいった。
この世にゾンビしかいなかったとしたら、どうして水道とか電気とか、そういうインフラが維持されているんだよ
だけどよ……
ヨウジがなにか考え込む顔つきになる。
……最後におれたち以外の人間に会ったのって、いつだった?
気がつかないうちに、おれたち、ゾンビだと思いこんで人間を殺していたりして!
そういって、トマオはまたゲタゲタと笑い出した。