みつきお願いっ!
論文としてまとめるには
まだまだデータ不足なの
お願いだから協力して〜
みつきお願いっ!
論文としてまとめるには
まだまだデータ不足なの
お願いだから協力して〜
夏!
真っ盛り!!
ーーとはまるで無縁な
築78年のボロアパート
「ブロッサム田所」
殺人事件起こりまくりな
このアパートには、現在
二人の探偵と一人の刑事
が住んでいる
コンコン
ガチャリ
こ、こんにちは〜
や〜暑いですねぇ
本日も都内は37℃
超えですとか……
佐藤様、いらっしゃいませ
お外はさぞかし暑うござい
ましたでしょう
ささ、涼しい室内へどうぞ
お、女子大生が
こんなところに
ヒトを川辺で見かけた
小豆洗いみたいに言う
のはやめて下さい
小豆洗いのほうがまだマシ
だろう。君が来訪するたび
に定期的に面倒事が起きる
のは揺らがぬ事実だからな
ぼっちゃま、お客人に
対して失礼ですぞ
佐藤様、どうぞお荷物
を下ろしてお寛ぎを
じいやさん
やさしーい
……チッ。仕方ないな
じい、冷えた飲み物
を一杯出してやれ
おぼっちゃまも
やさしーい♡
……やーん、美味し!
さすがはじいやさん
ですねぇ!
この麦茶、国内産の
超高級な物だったり
します?
いえいえ、近所の薬局で
購入したよくある市販品
でございますよ
しいて言うならお湯出し
しましたので、味が多少
はまろやかになっている
のかもしれませんね
もう一杯いかがですか?
やたっ♪
いただきまーす
おいおい
わが事務所に麦茶を
美味しく淹れるコツ
講座を拝聴しにきた
わけじゃあるまい?
ゴクリ
確かに美味だな!?
さすがはじいだ!!
光栄にございます
お邪魔しますよっと
いやはや、毎日こうも
暑くてはやってられん
これはこれは
いらっしゃいませ、
土奴目鬼警部殿
警部さん、こんにちは〜
どーもどーも
おや、佐藤君も?
じいやさん、ここへ来る前に
ちょっと挙動の怪しい若いの
がウロウロしてましたから、
お出かけの際にはくれぐれも
用心して下さいよ
警察(うち)ももちろん巡回を
強化するつもりですが、毎年
この時季はねぇ、どうしても
おかしいのが増えますから
…………
うちは避難所兼集会所
じゃねーぞ!!
なるほどなるほど
お友達に頼まれてこの
暑い中、怖い話集めに
奔走しているわけか
そうなんですよー
協力してくれたら今大人気
の甘味バーで3m級のビッグ
和菓子特大盛り盛りパフェ
を奢ってくれるらしいんで
いかにもJDっぽいフワフワ
した動機でありつつ、中身
はかなりヘヴィだな……甘味
限定の大食い選手権かよ
いいねぇ!
ナウなピチピチの女子大生
さんたちは毎日がアオハル
っぽくておじさんうらやま
だよシャリシャリ
おいコラ、じい!!
昼休み休憩しにきた奴に
見事な大玉西瓜を切って
出してやることないぞ!
あいすみません
ぼっちゃまにはお三時
にお出ししようかと
西瓜は腹壊すから
いらんいらん
おぼっちゃまは扱いが
むずかしいなぁ
じいやさんご馳走様です
いや、旨かった牛負けた
ーーで? 佐藤君は
ネタ集めをするため
にここを訪ねてきた
ってのかね?
そのとおりです
お礼はさせていただき
ますので、経験豊富な
皆様からお知恵を拝借
できれば……と
私も富士の樹海にひとり
で泊まり込んでみたり、
杉沢村を探しにいったり
とひととおり動いてみた
んですけど、残念ながら
成果は捗々しくなくて
すごいなこのオンナ
いっそのこと、その体験を
自分の論文としてまとめて
しまったらどうだ?
ん〜む……
お役に立てるかわからん
けど、同僚からこんな話
を聞いたことがあるぞ
怖い?はなしその1「河原の足」
その同僚の息子は夜何となく
眠れず、近所の河原をぶらり
ぶらりと散歩していたそうだ
いくら近所とはいえ田舎
の山の中にある河原だし
月のない夜ということも
あり、安全のために懐中
電灯をしっかりと点けて
いったそうだ
静かな漆黒が支配する中
せせらぎの音やカエルの
鳴き声に耳を傾けながら
夜散歩を楽しんでいた
ところが、そこまで高さ
のない橋の近くまで差し
掛かった時ーー
!?
ふいに響いてきた激しい
水音
誰かが入水でもしたのか
としばし息を殺して様子
をうかがってみたけれど
何かが動く気配や音は特
に感じられない
豊かな自然音にまぎれて
しまった可能性もあるが
おそるおそる散歩を再開
しかけた時に彼はやっと
気付く
さっきの水音にたまげた
拍子に頼みの懐中電灯を
落としていたことに
ええと……
お、あったあった
良かった〜
探すまでもなく、懐中電灯
はすぐに見つかった
弾みで少し離れたあたりに
飛ばされていたけれど灯り
もちゃんと点いている
彼は小走りでそこまで行き
、かがんで拾い上げようと
してーーそのまま固まった
電灯が描くちいさな円の中に
血まみれの裸足の足がぼぅと
浮かび上がっていたからだ
細い足首は青白く生きた人間
のものとは到底思えない
彼が固まっている間にも、水
のしたたるパタパタという音
が絶えず鳴り続けている
で、溺死者の霊……!?
えっと……この川で誰か
死んでたっけ?
さすがは刑事の息子、まずは
事実確認から始めたが、岩場
だらけのこの川は水深も浅く
夏ともなると子供らの遊び場
になっているくらいだから、
そんなところへわざわざ自殺
をしにくる酔狂な奴はいない
しかし、事実がそうだからと
いって、顔を上げて目の前に
いる“何か”の正体を確かめる
勇気など彼にはなかった
ナンマンダ
ナンマンダ
は、早く行け
行け行け行け
行っちまえ!
前屈みの窮屈な姿勢のまま、
どれ位の刻が流れただろうか
我慢しきれず痛む首をそーっ
と上げてみると、青白い足は
音もなく消えていた
ヤバい……
ヤバいヤバい
クッソやべぇ
「今のヤツの正体がつかめる
まで周辺のガキどもがここで
遊んだりしないよう、親父に
注意喚起してもらわねぇと」
彼はそう叫ぶなり、懐中電灯を
すくい上げてダッシュで家まで
帰ったそうだ
冷静な分析やら近所の子らへの
配慮やら、彼はさぞかし優秀な
警官になるにちがいないと父で
ある同僚や私は今からおおいに
期待しているのであります
幼少のみぎりからよく
知っているが、あの子
は観察眼が鋭く、運動
神経も抜群でーー
…………
そいつが警察学校を無事
卒業できたあかつきには
お頭付きの鯛の一匹でも
送ってやるからとっとと
オチを言え
おーそうだった
そうだった!!
すまんすまん
第六感とやらが働いたのかな
彼はその時に顔を上げなくて
正解だったと思うぞ
と、いいますと?
同時刻、ヤクをキメに山まで
来ていたヤク中が川をプール
だと思い込んで、低い橋から
飛び降りていたんだとさ
頭から岩に叩きつけられたっ
てのに、やっこさん、上物を
吸ってハイになっとるから、
痛みも何も感じない
だからうめき声ひとつ立てず
に上流へ向かってフラフラと
歩いているところを朝近くに
発見されたそうだ
えっぐ!!!!
もし、互いをしっかり認識
しあっとったら、息子にも
何らかの危害をおよぼして
いたかもしれん
大振りなアーミーナイフを
所持しておったそうだから
まぁ、危害云々よりも顔面は
陥没、頭蓋骨の割れ目からは
脳みそが盛大にこぼれている
状態を目の当たりにしなくて
良かったねと、ま、こういう
オチなんだがね!
浅瀬に飛び込んだとしたら
パタパタ音がしていたのは
水音よりも、ひっきりなし
にしたたる流血の音である
可能性のほうが高いな
お、そのとおり!
一夜が明けた後の河原
は一面血まみれだった
そうだ
そ、そのヤクをおキメ
になった方の安否は?
ああ、亡くなったよ
(あっさり)
ーーさてさて
時間がないからもう行くが
佐藤君、こういう系の話で
よければ、またいくらでも
集めておくからな!
遠慮なく聞きにきてくれ!
あー……はい
ありがとう……
ございました
ま、ありがちなタイプ
の話だったな。12点
ひっく!! 私は
充分怖かったです
そうだ、忘れないうち
にネタ帳に書き残して
おかないと……
何だ、このレベルの話
で良ければ僕もいくつ
か提供できるぞ?
えっ! それは
すごく助かりま
ーー待てよ?
もしや……
この人たちに頼ると、すべて
「やっぱり生きている人間が
一番怖いんだよネ♡」に帰結
してしまうのでは……!?
す、すみません!
私ちょっと、他の方
にも話を聞いてきて
みますね!
他の方って?
ここには探偵×2と刑事
しかいないんだが?
しかも、どいつもこいつも
職業柄似たり寄ったりな話
しか持ち合わせていないと
思うぞ?
う〜……
千駄木探偵とか梨元刑事
ならあまり生々しくない
話をしてくれそうだし、
とにかく行ってきます!
ガチャ! バタン!
…………
無駄足だろうけど
……ま、好きにする
がいいさ