雨の日は、君が
雨の日は、君が
頭が痛い
と言うから、昼飯の前に自販機へホットミルクティを買いに走らされる。
何度も繰り返した挙句に、雨が降る日は、
君の所属する研究室へ行く途中で、
自販機へ寄る習慣が身に付いた。
梅雨に入り、大学の構内はどこもジットリと湿り、
足元が滑りやすくなっていた。
急ぐ気持ちを抑えて歩き、研究室の扉を開くと、
自分の机に突っ伏している君を見付けた。
はい、ミルクティ。今日も大変だね
彼女の顔のすぐ横に、まだ熱い温度を発する
好物を置くと、ゆっくりと首から上が動き、
いかにも具合の悪い顰め面が見えた。
痛い…ありがと
君はどうにか体を起こすと、コメカミを
押さえながらゆっくりとミルクティを口に運ぶ。
溜息を苛立たしげに吐く彼女の側へ
椅子を引いてきて、痛む頭を刺激しないように、
少し低い声で問う。
雨が降る度に頭痛になってるけど、偏頭痛か何か?
うーん、偏頭痛かも、しれないけど…。
私、2年前に頭に怪我をして…
怪我?
彼女は顰め面(しかめつら)を更に歪ませて、
苦い物を噛み締めるように、嫌な記憶を語りだした。
なんかね、夜道で急に襲われた事があって…。背後から頭を殴られてさ
ええっ?!何それ、事件じゃん!怪我って、酷かったの?
うん、出血が結構酷かったらしいんだけど、私自身が殴られた衝撃で失神しちゃって。犯人も分からなくってさ
じゃあ、もしかして今も…
犯人は捕まってない。というか、特に証拠も無いから、警察も捜査する気が無くてね。
だから、あの日みたいに酷い雨の時は、事件の事を思い出して、気分が悪くなるっていうか…
……
……
そうだ。君は初めて会った時も、
今目の前にいる姿も、
あの日、倒れた血塗れの姿でさえも、
いつも可愛らしい。
……
……
そうか。雨が降る度に、
君は僕を思い出してくれるんだね。
それから僕は、
雨の日が大好きになった。