幻想都市とお金をくれる神様







 

 



 

 私の名前はマルーネ。
 幻想都市フェルオンの住人。

 と言っても、私が住んでいるのはいつでも薄暗い最下層。
 お金がないと明るい上層地区で暮らすことはできないの。

 お金を手に入れる方法は一つだけ。
 がんばっているのをアピールすることで、神様がお金をくれる。

 だけど私はもちろん、最下層の多くの人がお金をもらえてない。

マルーネ

今日も一日、がんばらなきゃ

 いつかお金をもらって、上層地区に行くために。



 

 



 幻想都市フェルオン最下層にはお金がない。
 上層地区から配られる最低限の食料と生活必需品で暮らしている。

 配給があるから最下層の人たちは特にすることがなかった。
 なにもしなくても生活できちゃう。
 だから普通に生活しているだけじゃ神様にがんばってるアピールをすることができない。

 

マルーネ

メテオ・エクスプロージョン!

マルーネ

クロスジャッジメント!

マルーネ

エターナルブルーストリーム!

 

 なのでこうして得意の魔法で必殺技の練習をする。
 必要かどうかはわからないけど、上層地区に行った人のほとんどは必殺技を持ってた。
 でも毎日毎日練習してがんばってるけどお金はもらえてない。

マルーネ

練度が足りないのかしら? もっとがんばらなきゃ

 


 



 幻想都市フェルオンの上層地区に暮らす人たちの情報は最下層にも届く。
 それは主に、あの子は神様からいくらもらったとか、いま一番もらっているとか、そういう話だ。
 羨ましいな。私も早くお金が欲しい。お金があればなんだってできるんだって。
 美味しいご飯をたっくさん食べることも、可愛らしい服を着ることも、ふかふかのベッドで眠ることも。好きなことができるんだ。

マルーネ

神様お願いします。私は毎日がんばっています。どうかお金をください

 羨ましすぎて私はつい神様に祈ってしまった。
 こんな姿を見たら神様はお金をくれないかもしれない。だけどもう、祈らずにいられなかった。



 

 




 

マルーネ

えっ……!

 その願いが届いたのか、私の周りがパッと明るくなった。
 神様からお金をもらえる人は予兆がある。
 薄暗い最下層にいながら、突然周囲が明るくなるというのだ。
 もしかして、これが?

 


 チャリン――。


 

マルーネ

あ、お金!

  
 チャリン――チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリ!!
 

 私の足元に次から次へとお金が落ちてくる。私はそれをかき集めた。

マルーネ

やった! 神様ありがとう!

 私はその日のうちに、上層地区へ移住することができた。




 

 




 幻想都市フェルオン上層地区に移住した私。
 だけど神様がくれたお金は思ったよりも少なかった。美味しいご飯は食べられるけどたくさん食べてるとすぐにお金が無くなってしまいそう。

 上層地区に住む人は私に色んなことを教えてくれたけど、不穏な噂も聞いてしまった。

最近、神様がくれるお金が減ったの

わたしもわたしも。みんな言ってるよね

 実は私たちを見ている神様はいっぱいいるらしい。
 たくさんいる神様が少しずつお金をくれるから私たちは裕福な生活を送ることができる。

たぶん神様が減っちゃったんだと思う

 神様が減っちゃったからもらえるお金も減ってしまった。
 私はそのちょうど減ったところに来たようで、とてもタイミングが悪かった。

マルーネ

少しがっかりしたけど、もっとがんばればいいだけだと思う。神様、ちゃんと見ていてね

 
 ――チャリン。
 

 足もとに落ちたお金を慌てて拾う。すると、

 

『愛してる』

 
 お金から小さな声が聞こえた気がした。

マルーネ

なんだろう、いまの?

 不思議と温かい感じがして。胸の前でぎゅっと握った。



 

 



 それを最後に、神様がくれるお金はピタリと止まってしまった。
 上層地区に住む私たちはいままでのお金で細々と生活している。

マルーネ

最下層のみんなはどうしてるんだろう

 私たちでさえこうなのに、最下層はちゃんと食料配られているのかな。
 移住したのも私が最後だったから、誰かに話を聞くこともできない。

それより自分たちの心配をした方がいいよ

マルーネ

うん……

 お金はいつか尽きる。その時、私たちはどうなっちゃうんだろう。



 

 



 そのいつかは突然やってきた。

 ううん、噂はあった。幻想都市フェルオンは泡のように消えるという出所のわからない噂が。
 そして噂通りに幻想都市フェルオンは消えてしまった。

 でも泡のように消えたのは都市ではなく光だった。
 突然世界の光が消え、真っ暗になってしまったのだ。

マルーネ

なにもない。周りに誰もいない。真っ暗闇

 私もこの闇と一体になって、消えてしまうのかな。

マルーネ

それは嫌だな……

 こうなってしまったのは、見てくれる神様が一人もいなくなってしまったからなのだろうか。
 でも、だとしたら……。

 私は胸元から一枚のお金を取り出す。拾った時に声が聞こえたお金。使わずにずっと持っていた。真っ暗で見えないけど確かにある。
 

マルーネ

これをくれた神様も、いなくなっちゃったのかな……

 いまでも温かい気がするお金を抱きしめる。すると、

ついに終わったんだって?

うん……

お前すげー入れ込んでたのに残念だったな

正直かなりショックだよ。
でも大丈夫、マルーネは俺の中で生きてるから

……いやそれはさすがに引くわ

なんでだよ!
俺はマルーネを愛しているんだ!

 


 気が付けば、真っ暗だった世界の先に小さな光が灯っていた。



 

マルーネ

そっか……あなたが私の神様なんだ。待っててください、いまそちらに――

 


 私は光に向かって駆けだした。



 大丈夫、握ったお金が導いてくれるから。

 ――神様のいる世界へ。

 






 


Fin.

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