その夜、グレータは少しギクシャクしたものの、いつも通りの食事の時間を過ごせた。

 三人と一匹が、四人になって、少し違和感があるものの、それ以上に衝撃的なことが続いたからか、それ自体はたいしたことがないことに思えてしまった。

 四人は食事をして、暖かいお風呂に入る。

グレータ

色々あったけど……なんとか気持ちも落ち着いてきた……

グレータ

足の痛みもほとんどなくなったみたい

 怪我をした時は、自分は完全な役立たずになってしまったと絶望したが、心配しすぎたようだ。
 グレータはそのことにはとりあえずホッとする。

グレータ

今日はもう、明日のために寝よう

 そう言ってグレータは寝る準備をし始める。

グレータ

今日は、本当に疲れたな……

グレータ

レオの事とか考えることはまだあるけど……

グレータ

明日のことは明日考えよう……

レオ

グレータ

グレータ

え?

 その時、誰もいないはずの部屋から声がした。

 驚いて周りを見渡すと、ドアの前にいた小さなネズミと目があった。

 そのネズミはちょこちょことグレータのところ来ると、今度は白い猫に変身する。

レオ

僕だよ

グレータ

レ、レオ!

 どうやらレオは、小さな動物に変身してドアの隙間をすり抜けてこの部屋に入ってきたようだ。この家はしっかり作られているが、古い家なので小さな隙間が多い。

 一番の悩みの種であるレオが現れて、グレータは一気に目が覚めてしまう。

グレータ

な、何?

レオ

一緒に寝ようかと思って

グレータ

へ!?

グレータ

な!な、な、なに言ってるの!……そ、そそ、そんなことするわけないでしょ!

 猫だと思っていた時なら歓迎しただろうが。男の子とわかった今、そんなことできるわけない。

グレータ

それに、私はお兄ちゃんと一緒に寝るし!

レオ

でもルルーとヘルフリートは恋人同士になったんだろ?さすがにそれはグレータお邪魔じゃない?

グレータ

……う!

 そう言われてみればそうだ、色々あって忘れかけていたがルルーとヘルフリートはやっと昨日くっ付いたばかりのほやほやカップルだ。

 グレータのことがなければもっと一緒にいたかっただろう。

レオ

それに、僕が2人に一緒の部屋に寝るように言っといたから、ヘルフリートは来ないよ

グレータ

で、でも。それでも私とレオが一緒に寝る事にはならないでしょ!

レオ

グレータ、僕のこと撫でたいって言ってたよね?

 そう言ってレオは一歩グレータに近づく。

グレータ

う……

レオ

好きなだけ撫でていいよ

グレータ

!!!

 レオの毛並みは相変わらずとても綺麗でふわふわだ。

 そのふわふわっぷりに思わず手が出そうになる。

 昨日うろの中で少し触った時は本当に、気持ちよかった。

 人生の中で今までに触ったことがないくら、ふわふわのサラサラで、一生触っていられると思ったものだ。

グレータ

うう……ど、どうしよう。そう言われると迷う……

レオ

もちろん一緒に寝るって言っても、僕は猫の姿のままで寝るよ。それでも駄目?

 レオはそう言ってベッドのふちに座るグレータの膝に、二本足で立ち上がると、ちょこんと前足を置いて上目づかいでそう言った。

グレータ

う……か、可愛い……

 しかもレオは耳がぺたんさせ少目をウルウルさせる。猫好きのグレータは簡単に駄目だとは言えなくなった。

 膝に置かれたふわふわの前足や肉球を感じて、さらに触りたくてしょうがなくなる。

 我慢出来なくなって、グレータはそうっとレオの頭を撫でる。

グレータ

うあ~~。やっぱりふわふわだ……

レオ

ね?だから一緒に寝よう?好きなだけ撫でていいよ

グレータ

で、でも……

 好きなだけ撫でていいという言葉に、グレータは心が揺れる。
 ダメだと思う反面、撫でる手は止まらない。

グレータ

今は猫の姿だけど、レオは男の子だし……
猫の姿だからって、いくら何でも……

レオ

そうだ、あと。もう一度、謝ろうと思ってたんだ

グレータ

え?何?

レオ

実は猫じゃないって黙ってたこと。本当にごめんね

グレータ

う……

 申し訳なさそうに膝に前足を置いて、上目づかいで謝るレオはあざといくらいに可愛い。

 しかも、人見知りの理由を聞いてしまった今、素直に謝るレオを責めるなんて出来ない。

グレータ

べ、別に怒ってないし……いいよ

レオ

本当?じゃあ一緒に寝よう

グレータ

ちょ、ちょっと。それとこれとは別問題でしょ!

レオ

えー?駄目?

レオ

でも元々このベッドは僕のベッドなんだよ?

グレータ

え?そうなの?

 そうなのだ、実はこの部屋は元々レオが使っていた部屋だった。

しかし、グレータとヘルフリートが来た所為でレオはこの部屋を使えなくなったのだ。

グレータ

……あ。そうか、だがら私たちが初めてこの家に来た時、すぐに使えるベッドがあったのね。ベッドメイクも完璧で驚いたのよね。あれはレオが使ってたからだったからなのか……

グレータ

うう……そう聞くと、なんだか悪いことしてる気分になってきた……

レオ

……駄目?

グレータ

う……うぐ

 コテンと小首を傾げてそう尋ねるレオは殺人的に可愛くて、またもやグレータは言葉に詰まる。

グレータ

わ、わかったよ……

グレータ

……ね……猫のままなら……いいよ……

レオ

本当?!

 それを聞いたレオは、しおらしかったのが嘘のように明るい顔になって。

ぴょんとグレータの膝に乗る。

レオ

ありがとう

 そうしてスリスリと顔を寄せると、ついでのようにグレータの唇をペロリと舐めた。

グレータ

うわ!

レオ

じゃあ寝ようか

グレータ

え?ちょ、ちょっと……さ……さっきの……何?く唇舐めた……え?き……キス?……え?

 ひとりでわたわたしているグレータを尻目に、レオは何もなかったかのようにベッドに乗ると、枕もとでくるりと丸くなってしまった。

グレータ

……

 それでも一度一緒に寝ると言ってしまった手前、今更出て行けとも言えない。

グレータ

うう~~しょうがない……のかな?うむむ……

 グレータはなんとも言えない気持ちになりながらも。
 こうなったら元を取ってやらなくちゃと、やけくそ気味にグレータは丸くなった、レオを撫でることにした。

グレータ

好きなだけ撫で倒してやる……

 撫でるレオの毛並みはふわふわで気持ちがいい。

 よく見ると白いと思っていたその毛並みは白銀で、ここは人間のレオと同じなんだと気がついた。

 やり返すつもりで一生懸命撫でていたが、レオはむしろ気持ちよさそうにゴロゴロ喉を鳴らし始めてしまう。

レオ

ゴロゴロ

グレータ

うう……やっぱりなんだか色々騙された気がする

 しかも暖かいレオを撫でていたので次第に眠くなってきた。

グレータ

もう、疲れた……明日、ルルーにどうにかしてもう一つベッドを作ってもらえないか聞いてみよう……

 グレータは諦め、仕方なくベッドに入って横になる。

 それでもふわふわの毛並みが気持ちよくて、撫でる手は止まらなかった。
 そうして撫でているうちにだんだん意識が遠のき、グレータは眠りについた。

 撫でる手が止まり、規則正しい寝息が聞こえてきた頃。

 レオは起き上がりグレータが眠ったことを確認してから人間の姿に変身した。

レオ

寝たみたいだね……

 無防備に眠るグレータを眺めながら微笑み、人間の手でそうっと頭を撫でる。

レオ

グレータがこの家に来た時のこと、思い出すな……

 グレータと初めて会った時、レオは正直グレータのことは嫌いだった。

 ルルーが言ったように確かに顔は可愛らしいけど。うるさくて騒がしいし、ジロジロ見ては無遠慮に触ろうとする。

 何よりルルーのお人好しなところにつけ込んで、平穏な生活を乱されたのが腹が立った。

 ただグレータの境遇には同情するところはあった、娼館に売られるなんてきっと怖かっただろう。

 でもレオから見れば血の繋がった兄に、あんなに愛されていて助けてもらっている。
 自分に比べたら充分幸せだとも思った。

レオ

だから、絶対に春まで積極的に関わらないでおこうと思ったのに……

 でも何日も一緒に過ごしていたら、意外な面も見えてくる。

 グレータは騒がしいし図々しいところがあるが、嫌がったら無理矢理触ったりしなかったし、薬草摘みも街育ちのグレータには慣れないことだらけだろうに一生懸命だった。

 変な歌を歌う癖があったり兄に対して罵詈雑言をはくくせに、本当は大好きだって事も分かった。

レオ

だから、そんなに嫌な奴でもないんだなってわかっていったんだよな……

レオ

それにお化けの件で怖がらせたのはちょっと罪悪感も感じたし……

 レオはそれを思い出し、少し笑ってグレータを起こさないようにそっとシーツの中に入り込むと、グレータを抱きしめた。

レオ

グレータ、あの時は本当にごめんね

 レオはそう呟き、更にグレータをぎゅっと抱きしめる。

 それでもあの時、レオはグレータの存在をみとめただけで、仲良くしようなんて少しも思っていなかった。

レオ

それでも、決定的に印象が変わったのは森で迷子になった時だな……

 心細かったせいだと思うが。呆れたことに、家を出て娼館で働くなんて言い出した。

ほとんど森を出たことがないレオでも、それが無謀な考えだとわかるのに。

 挙句にグレータは1人は寂しいとポロポロ涙を流して泣きだし。心配して慰めると、無理して笑って大丈夫とか言い出した。

レオ

本当にグレータはばかだな……

 レオはその時のことを思い出し、グレータの頭を撫でる。

レオにとって親に捨てられて以来、全てに絶望してルルーとおばあちゃん以外は恐ろしい存在だった。
 だからずっと殻に閉じこもって誰にも関わりたくないと思っていたのだ。

 ましてや誰かを守るなんて考えたこともなかった。

レオ

でもあの時、『この子は僕が守らなければ』と思ったんだよな……

 その後グレータが、自分を犠牲にしてまでレオを守ろうとしたのを目の当たりにして、レオはグレータのことが好きだとはっきりと自覚した。

レオ

おやすみ……

 レオはそおっとグレータのおでこにキスをする。

腕の中にいるグレータはとても暖かくて柔らかくて心地がよかった。

ずっとこうしていたいと思ったし、この先も離さないとレオは心に誓った。

 グレータは暖かいものに包まれながら、ベッドの中でぬくぬくと幸せな夢を見ていた。

グレータ

ZZZZ……

 実は、グレータには昔から大好きな絵本が一冊あった。

グレータはその本が本当に大好きで。ずっとそれを大事に隠し持ち、たまにこっそり読み返したりしていた。

 その絵本というのは、意地悪な継母や継姉にいじめられている主人公がいい魔法使いに助けられて舞踏会に行き王子様と恋に落ちるという話。
 最後に主人公は王子に見つけられて幸せになる素敵なお話だ。

グレータ

継母にいじめられる主人公の境遇が少し自分と似てたり、素敵な王子様が迎えにきてくれるところが好きなんだよね

 とはいえグレータは、本気でいつか王子様が迎えに来てくれると思っていたわけじゃない。それが幻想だと言うのはわかっていた。

グレータ

でも、物語の中くらい夢があってもいいじゃん

 なぜそんなことを思い出したかと言うと、実はレオはその絵本に出てくる王子様にそっくりなのだ。

 ハンサムで優しげな顔の銀髪の素敵な王子様。

 レオは絵本と同じように、自分に微笑みかけてきてくれた。

だからグレータ余計に素直になれなかった、というよりどうしたらいいかわからなかったのだ。

グレータ

レオは絵本と同じように微笑みかけてきたんだよね……

あんなの、いきなりは無理過ぎる……

 憧れの王子様がいきなり目の前に現れたのだ、パニックになってもしょうがない。

グレータ

でも……好きって言われたのは…………嬉しかった…………

 ぼんやりと夢うつつに、グレータはそう言えばあの絵本は自分の家を出る時に、置いてきてしまったんだと思い出した。

あの本はどうなっているだろう?

 そう思いながらグレータは目を覚ます。

 目を開けると、またもや目の前にレオの顔が現れた。

グレータ

……へ?

 相変わらず綺麗な髪が朝日に反射してキラキラ輝いて眩しいくらいで、すぐに目を開けられない。

なんだか暖かいと思ったが、グレータは昨日と同じように、レオに抱きしめられていた。

グレータ

ぎゃーーーー!!!

 グレータは慌ててベッド離れようとしたが、がっしり抱きしめられていてなかなか出られない。

グレータ

は、離れられない!

ルルー

グレータ!どうしたの?

ヘルフリート

大丈夫か。グレータ!

グレータ

ルルー!お兄ちゃん!またレオが~~~

 ジタバタしながらも、グレータはなんとかベッドから出た。

ルルー

あ!レオ!昨日は暖炉のところで1人で寝るからって、言ってたくせにこんなところで!ダメでしょ!

レオ

あ、おはよう

 やっと目が覚めたらしいレオが寝起きの声で言った。

 どうやらレオはルルーたちには別の場所で寝ると言って、グレータのベッドに入るために色々画策していたようだ。

ヘルフリート

こらー!俺の妹に何してくれてんだ!

グレータ

お兄ちゃん……

 グレータはその剣幕を見て久しぶりに兄を頼もしく感じた。

レオ

あ、おはようございます。お兄さん

ヘルフリート

お、お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはないぞ!妹は渡さん!

レオ

え?だって好きな子が自分のベッドに寝てたら、そりゃあ抱きしめるでしょ?

ヘルフリート

!……っく!

 まっすぐな目で言われたその言葉に、ヘルフリートはがっくりと膝をつく。

グレータ

お兄ちゃん?

ヘルフリート

すまんグレータ……お兄ちゃん反論出来ない……!

グレータ

お、お兄ちゃんのバカーーーー!!!

 爽やかな朝にグレータの叫び声が響いた。

 今日も魔女の家は賑やかに始まった。

静かな森には鳥が羽ばたき、囀りが聞こえる。

森はこれから厳しい冬が訪れるだろう、だけど魔女の家は騒がしく楽しそうな声が響きわたる。

そうしてこれからもずっと響き続けこうして四人は末長く幸せに暮らしました。

 めでたしめでたし

エピローグ

 それから数年後、ルルーとヘルフリートの間にとても元気な男の子が生まれた。

その三年後グレータとレオの間にも女の子が生まれる。

 男の子は父親ほどの鍛冶の技術はないものの長じて剣の才能を伸ばし大陸一の剣士になった。

女の子は魔力の高い魔女として生まれ、珍しいことに二つの魔法を持って生まれ、長じて大陸一の大魔法使いになる。

 そして2人は力を合わせて魔王を倒し。その後、英雄と呼ばれるようになったのですが。

 それはまた別のお話。

 おわり

あとがき

「魔女はオオカミに美味しく食べられる」を読んでいただきありがとうございます。
この作品は「小説家になろう」にも投稿している同名の小説と同じ内容です。
イラストを加えて作り変えてみたらどうなるだろうと思って投稿してみました。最初はストーリーも出来ているしもっと早く作れるだろうと思ってましたが、思いのほか時間がかかったし、同じ内容なのに文字だけとは違って少し印象が変わるのが面白かったです。
間をどれだけ開けるか文章をどこで切るかでまた読んだ印象が変わるのも面白かったです。
今後小説を書くにあたっても勉強になった気がします。

今後ストリエで投稿するかどうかはまだ何も決めていませんが、もし投稿したら読んでいただければ幸いです。

あらためて、最後まで読んでいただきありがとうございました。

ガラスの靴をはいた猫 3

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