今も存在しうる世界(アイドリズム)と、今も存在している世界(人生)を繋ぐ回路。
照合
応答なし
応答なき状態での待機モード移行は推奨されていません
照合
……ただ、い、ま
声紋の認識に成功。瞳孔データの一致。感情の検知……失敗
スタートアップと並行することで、最適化されたオペレーションを開始します
集中モードの開始。音声データをカット
Now Loading……
Now Loading……
Now Loading……
今も存在しうる世界(アイドリズム)と、今も存在している世界(人生)を繋ぐ回路。
あるいは、あなたの愛、執念、××、空想、希望…
不確定なデータとも呼べない概念によって「創作」された回路。
それが私たちの現実(ゆめ)であり、あなたの虚像(ゆめ)です。
私はプログラムされた文字列を並べます。
十分伝達可能だと仮定される情報群はしかし、アナログな意味で十全たりえません。
曖昧な機微を教えてくれたのはあなたでした。あなたです。
準備が完了しました。検索を開始してください
け、検索?……ですか?
アクセスを確認。同僚画面のポップを不要なデータとみなしブロック
同時に圧縮ファイルを解凍し視覚的理解を促します
何だこれ!?
想定以上の記録量……感情、【懐かしい】を想起
人はこの気持ちを【懐かしい】と呼んでいました。
胸部のざわめき……こんなに苦しくなるのに、人は【懐かしい】を大事にしています。どうして?
あの、君はここに所属していましたか?
はい
名前を……
私の正体を知ることで……私の名前を呼ぶことで、この夢は終わります。
であれば、まだ答えるべきではありません。
いいえ。直接的質問は権限をブロックされています
じゃあ、この中に君の写真はありますか?
はい
回答を拒否したのは私の【エゴ】でしょうか?
思考のブロック
トキコⅢはロボットですから、【エゴ】など有り得ません
せめて顔を見せてもらえませんか?
いいえ。許可されていません
なんだよ……どうして頑なに拒むんですか?
……。
どうして?
答えは疑いようもなく、私の【エゴ】です。あなたと会えて【嬉しい】という、私の……
思考のブロック……トキコⅢはロボットですから、【エゴ】など有り得ません
思考回路を対象にシフト。
データ収集……【怒っている】と判断されます。
分析……結論。原因は92%の確率で私の態度によるものだと判断されます
そうですね
知らないままがイイというのは、私のコンセプトに反します
え? コンセプト?
いいえ。何でもありません
何でもないことです。私はロボットなので、人間の願い(めいれい)に従うべきですね。
父さ……博士にも、そう教えられました。
目を閉じてください
会いたい人について……どんなことでも良いです。強く思い浮かべてください
あなたは何か言いたげに口を開き、首を振って頷きました。
まるで眠っているようです。皮肉にも。
トキコⅢ
やがてあなたは、私の名前を呼びました。
街を歩く時も、ライブ前の舞台袖でも、あなたはそうやって私の名前を呼んでくれました。
いつか、うたたねしてしまった私に毛布をかけてくださったのを思い出しました。
映画のラブシーンで似たシチュエーションがあるらしいと教わったけれど、その後に見たロボット戦争モノにしか興味を惹かれなかったのでした。
メモリーに記録されていますので、忘れてなどいません。本当です。
テクスチャの変容に伴い、ロックを解除します
……【ココロ・リアライズ】
目を閉じ、開けば、
先の見えないほど眩しい空の底。
あなたはいつも、不可解で不明で未知な世界を見せてくれますね。
はい。プロデューサー
そういえば、身に覚えのない純白のドレスはプロデューサーが選んだのでしょうか?
ウエディングドレスのように見えますが、このデザインは花弁……スノーフレークに似ています。
いえ、ロボットに感情は理解できません。
ましてラブストーリーなんて。
機能性に欠けるものの、綺麗な……
似合っていると、良いのですが。
~終わり~