女は頼んだ酒を片手に男の話に耳を傾けた。

 男は悠々と語りだした。

まず、全員が食堂に集まったのは夕食の一度だけでした。後は各々別室で過ごしてましたね

犯人は食後のコーヒーに毒を仕掛けました

おや、どうしてコーヒーに? と思っていますね

解決済みだからでしょう

 女の反応を楽しみに待っていたが思っていた反応は帰ってこなかった。

おっと、先に言われてしまった

あくまで問題なんでしょう?

ええ

 女はすんなりと答えた。

 少し拍子抜けだったが男は問題の続きを話した。

さて、問題に戻しますね

誰が犯人か何に毒を入れたかで争いは起きましたが被害さんのコーヒーに毒を入れるタイミングは誰にもありました

そこで私は探偵であることを告げ持ち物検査をしました

えーと、快く持ち物検査のために荷物を持ってきたAさん、Bさん、Cさんの持ち物を言いますね

あ、着替えとか財布とかの日常品は除きます

写真を撮りに来ていていたAさんの持ち物はカメラとその一式、虫除けスプレーです

登山に来ていたBさんの持ち物は登山グッズですね。コンパス、医療グッズなどなど沢山ありましたね

作家のCさんの持ち物は万年筆と原稿用紙、小説です

この持ち物の中に毒を隠していました。私に言わせれば簡単なトリックでしたね。さてさて誰が犯人でしょうか

 一度、手を叩いて問題の答えを待つ、男はニヤニヤしながらお酒に口を付けた。

……そうですね

 この人の話だとAさん、Bさん、Cさんの持ち物の中に毒を隠している? なら毒を隠す物は何?

あの、持ち物は持ち物検査をするために持ってきたの?

はい。そのとおりです

では、食事の際に持ち物は部屋に置いてあったの?

ああ――それは

 質問に男は上手く答えない。どうやら聞かれたくないようだった。

 この様子だと置いてあったようね。だとしたら食事の際に持ち込んでも不自然でない物に毒を隠していた。

――なるほど

 女の様子を見て男は緊張していた。

……もしかして

解りました。犯人はCさんです

……その心は?

 女は堂々と推理を話し出した。

食事の際に違和感なく毒を持ち込むにはあって何が適切なのか? 持ち込んでも怪しまれない物――

――それは万年筆よ。万年筆なら胸ポケットに刺していてもポケットの中に隠していても持ち込めるわ

 男は女の推理に食い下がった。

それなら虫除けスプレーとかでも大丈夫じゃ

食事に必要あります?

ないです

 男が黙ると女は話し出す。男は黙って推理を聞いた。

詰替用の万年筆ならインクの代わりに毒を入れられる。後はこっそりコーヒーに毒を入れるだけでしょう

うーん、正解です

 軽く拍手で祝福をした男は微笑んでいた。

いーや流石、探偵ですね

では、私はこれで

 女は席から立ち上がると財布を取り出してレジに向かって歩いた。それに応じてバーテンダーもレジに向かう。

帰ってしまうのですか

ええ、流石に雨は止んだでしょう

 男の問に容易に答える。男は首を傾げ質問をした。

降っている……かもしれませんよ?

――止んてますよ

 会計を済ませドアを開ける。外は雨の音は聞こえなかった。そのまま女は店から出て行く。

 女を呼び止めることもなく男はコートを脱いだ。コートは肩周りしか濡れてなかった。男は少し濡れた髪をかいてお酒を飲んだ。

――雨は降っていたんだけどね……。

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