小鳥遊涙

久しぶりだね。体調はどう?

永久木雫

なんともないよ。

永久木雫

涙くんといい、シェアハウスのみんなといい、ちょっと心配しすぎなんだよ。私は至って元気なのに…

小鳥遊涙

そうかい?つい最近まで、心にもう一人の人格が棲みついていたんだから、そうなるのも仕方ないと思うけどなぁ…

永久木雫

……それも私は、覚えてないんだけどなぁ…

小鳥遊涙

……………

小鳥遊涙

…まあ、いやなことは忘れてしまうに限るよ。

永久木雫

だよね!気を遣ってくれてるなら、ありがたく乗っかることにするよ。

小鳥遊涙

うん、それがいいよ。甘えられるときに甘えるといい。

永久木雫

涙くんも、しんどくなったら甘えに来てね!

小鳥遊涙

うん…ありがとう

小鳥遊涙

ところで…雫。君は今何をしてるんだい?

永久木雫

院の非常勤スタッフとして雇ってもらってるよ。あとは農園の手入れとか。

小鳥遊涙

そっか。楽しい?

永久木雫

うん!
子どもって、私たちが思うより成長が早くて…一週間前一人で昼寝ができなかった子が、次の週ではもう一人で寝れるようになってるんだ!ちょっと感動しちゃったよ…

小鳥遊涙

お昼寝かぁ…久しくやってないなぁ

永久木雫

お昼寝はいいよ…1時間寝るつもりが、気が付いたら2時間3時間…

小鳥遊涙

駄目じゃないか…

小鳥遊涙

ちゃんと寝てるのかい?

永久木雫

うん。9時にはぐっすり…

小鳥遊涙

これは…

小鳥遊涙

雫、今日ってこの後予定ある?

永久木雫

え?ないけど…どうして?

小鳥遊涙

久しぶりに、雫の料理が食べたいと思って…いいかな?

永久木雫

ああ、そんなこと…いいよ!
何食べたい?

小鳥遊涙

そうだなぁ…

小鳥遊涙

シチューとかどうかな?最近冷えるし…

永久木雫

OK!
腕が鳴るね…!

永久木雫

はい、どうぞ!

小鳥遊涙

ありがとう。いただきます

永久木雫

たーんとお食べ♪

小鳥遊涙

………うん、おいしい。

永久木雫

ふふ、褒めてもデザートしか出ないよ!

小鳥遊涙

え?デザート?

永久木雫

葡萄ケーキ!今オーブンあっためてるから、もうちょっと待ってね!

小鳥遊涙

いつの間に…御見それいったよ。

永久木雫

ぼくの手は魔法の手だからね!

小鳥遊涙

オカン…

小鳥遊涙

……さて。

小鳥遊涙

そろそろいいかな、ピーター?

永久木雫

……え?

小鳥遊涙

今は「そっち」なんだろう?

トワギシズク

……えー。もうちょっと騙されててよ。

小鳥遊涙

ならもうちょっとうまく演じてくれよ。
一人称の間違いなんて、初歩中の初歩だよ?

トワギシズク

手厳しいなぁ…雫には甘々なのに…

小鳥遊涙

……どういうつもりだい?夜九時にはまだだいぶ早いけど…

トワギシズク

でも、ぼくに会いたかったんだろう?
あんな…今時女の子だって引っかからないような口説き文句で誘いだして…

小鳥遊涙

いきなり「寝てくれ」っていうのは犯罪だろう?

トワギシズク

ああ、自覚はあったんだ。

小鳥遊涙

何の自覚かはあえて問わないぞ

小鳥遊涙

……雫の記憶をいじったの、君だろう?

トワギシズク

……ああ、そのこと。

トワギシズク

いいじゃない。もう雫にぼくは…「ピーターパン」は必要ないんだから。

小鳥遊涙

……でも…

トワギシズク

いいんだ。

小鳥遊涙

………

トワギシズク

でもやっぱ心配じゃん。雫、すぐ騙されそうだし…あの葡萄集団が血迷わないとは限らないし。

小鳥遊涙

それは…まあ、いえてるね…

トワギシズク

ぼくは雫の「抗体」としてここに残ってるだけだよ。もう誰も殺したりもしないし、雫の体を危険な目にあわせるようなこともしない。

トワギシズク

まだ、なにかある?

小鳥遊涙

………いや

トワギシズク

…雫は、大人になって、大人に恵まれたね。
ぼくは大嫌いだけれど…それを疑うのは、ぼくの役目だ。

トワギシズク

…そろそろ寝るよ。お前が読んだ通り、雫の寝不足はぼくのせいだから。

トワギシズク

悪いけど、今日は泊めてやって。

小鳥遊涙

……僕も、君のような存在に接する専門家のはしくれだ。何かあったら、話しにおいで。

トワギシズク

………君が本当に、雫のお兄さんならなぁ…

トワギシズク

……おやすみ。

小鳥遊涙

……おやすみなさい。

……すう…すう…

小鳥遊涙

……難儀だなぁ…

小鳥遊涙

…オーブン、止めてこよう。

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