弓月 葵

電話、誰からだったんですか?

不思議そうな顔で弓月が、こちらを見つめてくる。

綾瀬 亮介

うちの社長。名取をここに呼んでくれたのは
社長だったんだよ。

綾瀬 亮介

それで今までの事、
今後の事を色々話してたんだ

弓月 葵

そうだったんですね。
内容はよく分からないですが、
綾瀬さんが私の事を考えて
くださっているのはよく分かりました

嬉しそうに微笑む弓月を見ると、俺の心が洗われていく。

綾瀬 亮介

いつのまにか、弓月の存在が
大きくなってきているんだろうな

弓月 葵

私の存在ですか?

頭にクエスチョンマークを浮かべる弓月に、

俺は慌てて独り言だと訂正するが、

たぶん俺の顔は真っ赤になっているに違いない。

ルキア

ただいまにゃー

綾瀬 亮介

お、ルキアお帰り。
ちゃんと白猫を送り届けてきたか?

ルキア

もちろんにゃ。僕はやるべき事は
しっかりやる猫にゃよ?

綾瀬 亮介

そうだな。今回は色々ルキアにお世話に
なったし、後で魚屋に買い物に行こう

弓月 葵

ルキア君は本当に良い子だね、ありがとう

弓月がルキアをそっと抱き上げると、

ルキアはふにゃっと蕩けるように身を委ねた。

綾瀬 亮介

それで社長が何かプレゼントがあるとか
言っていたから机を確認してみよう

弓月を二人並んで机に近づくと、

そこには青のリボンのついた鍵と

赤のリボンのついた鍵が置かれていた。

綾瀬 亮介

この部屋の鍵だろうけど……
同棲じゃないんだから

弓月 葵

同棲ってなんですか?

ルキア

同棲とはにゃ……

綾瀬 亮介

弓月君はまだ知らなくてもいいのです!

そう弓月は急がなくてもいい。

ゆっくりと色々知って行ってくれればいいのだから。

綾瀬 亮介

それじゃ赤のリボンの方を
弓月に渡しておくな。
俺がバイトの時もあるだろうし、
うちに来たくなったら勝手に上がっててくれ

赤いリボンの鍵を弓月に手渡す。

弓月 葵

ありがとうございます。私大事にします

嬉しそうに顔を寄せてくる弓月に俺も嬉しくなるが……

いや、顔が近い近い!


そんなこんなで、弓月葵との出会いの物語も

これでおしまい。


まだまだ前途多難。


恋?の方は……まあゆっくり行けばいいさ。

綾瀬 亮介

メールが来たみたいだな。笠原さんか?

スマホを取り出してメールを確認すると、

「無事女の子が生まれた!」と記載されていた。

綾瀬 亮介

弓月。サングラスの男の人、
女の子が生まれたって!

弓月 葵

女の子ですか。お父さんに似た
心優しい子に育つのでしょうね。
私も嬉しいです

ルキア

笠原の兄貴もパパさんになったんにゃね!

自分の事のように喜び、微笑む弓月。


この先どんな出来事が待ちうけているか分からないが、

この笑顔が絶えないよう隣で見守り続けたい。


そして弓月には、桔梗の花にこめられた想いを

胸に歩んで行って欲しい。


そんな事を思いながら、俺は弓月の手を

優しく握りしめるのだった。

最終話 弓月の存在

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