ユベイル城下、噴水前。

兵士が自ら武技を磨いている。

一群の兵士の中で

特に際立つ者がレジーナの目にとまった。



どの兵士よりも速く鋭く力強い。

その明らかに秀でた武技は、

他の兵士の武を寄せ付けていなかった。

ガンツ

隊長補佐殿、
俺の相手してくれないか?

長剣を肩に担ぎ現れたのはガンツ。

そしてその兵士は、

前回の戦闘で活躍し昇格したブルチズだった。

ガンツ

少し攻めが強引すぎる。
俺は嫌いじゃないが、
格上相手の時は
通用しないことは
頭に入れておいた方がいい。

活き活きと剣を交える二人を見せられ、

レジーナも割って入る。

レジーナ

戦場において武技の優劣は
生死を分けるもの。
それに一つの武が切り開くのは
新しい時代そのものだ。

ガンツ

姫……、
その顔はもしかして……

レジーナ

私の相手もしてもらおうか。

言うやいなや傍にあった長剣で

ブルチズに振り下ろす。



レジーナと剣を交えると

思ってみなかったブルチズは、

最初こそ眉を上げ驚いてみせたが、

レジーナの剣を受け止めてから

瞬時に構えを深くした。

レジーナ

確かな技術と経験を
兼ね備えた武は、
煌く玉石のようだな。

レジーナ

……が、修練とて
私を殺すつもりの気を
なぜ発さぬ!

兵士

!!

レジーナの剣が翻った刹那、

ブルチズの剣は宙に浮いていた。

レジーナ

青樽(アオダル)、
それがお前のあだ名だ。
次の機会までに
その玉石を磨いておけよ。

レジーナはそれだけ言い残し、

何かを投げつけその場を後にした。



それはイシュトベルトに伝わる

アミュレットだった。

ガンツ

良かったな、
認められたんだよ。
青樽隊長補佐殿。

兵士

う、嬉しいですけど、
何故、青樽なんでしょう?

ガンツ

ブルチズのブルでブルー。
樽ってのは……

ガンツはレジーナの背中を眺め、

言葉を続ける。

ガンツ

チナ村でお前と契りを交わした
義兄弟の事を、
覚えていてくれてるんだ。

兵士

あの時の……
樽酒……

先立った義兄弟との誓いの酒。

一兵卒の自分を思ってくれている……




そんなレジーナの心に

ブルチズの瞳は潤んだ。

兵士

ナーズ、テリーヌ、
君達は仕事が早いな。

城壁沿いの道を歩くレジーナの頭上から、

良く通る声が聞こえてくる。



どうやら城壁の修理と改築に携わる

兵士の声のようだ。



しばらくその涼やかな声に聞き入るレジーナ。

改築に携わる者達を

よく理解し、場の空気を調整し、

誰よりも率先して動き

全員を自然と纏め上げている。



城壁沿いの道を行く市民と

何気ない話をしながら、

レジーナはそれをつぶさに聞いていた。



市民の元を離れたレジーナは、

近くを歩く側近に

先ほどの兵士の名を確認する。

レジーナ

グーリンというのか……。
ならばその者を
隊長補佐にする
手続きをしてくれ。

レジーナは

涼やかなグーリンの声を思い出す。

そしてそれに似せた声で側近にそう命じた。

城をぐるりと回って

ギュダが居た兵器開発の場所が

もう一度見える。

ギュダ

アスカトゥー、それだ。
それはいいアイデアだ。

ギュダ少し興奮気味だ。

どうやら兵器の開発も進んでいるようだ。

少し離れた場所での

運搬車の開発に掛かっていた者達も

活発に動いていた。

兵士

とんでもない事考えるな
アルシェは。

どうやら、最終段階にまで及んだ考えを

全てひっくり返して案をだしたようだ。


休憩中に何か名案でも浮かんだんだろうか。

レジーナ

おっ、
あそこでもまた
成果が上がったようだな。

レジーナの視線は、

武器の開発に取り組んでいる場所に

戻ってきていた。

兵士

リッジ、確かにそうだ。
死から身を守るのに
武具は重要な要素。
それを少しでも
質の良い物にする仕事は、
実にやりがいがあるな。

レジーナ

出来たのか?

兵士

姫、出来ました。
それに加え防具の軽量化と
強度の向上も可能です。

レジーナ

モルテよ。
君はよく皆を
纏め上げてくれている。
これからは隊長補佐として
ギュダを支えてやってくれ。

レジーナの瞳は真っ直ぐにモルテを捉え、

さらに言葉は続いた。

レジーナ

武具は
自身の分身と言えるものだ。
決してただの武器ではなく、
そこに勇気と誇りが
備わって力を発揮する。
それを皆に伝えるのだぞ。

モルテは頭を垂れ

敬服の礼を示して

胸にその言葉を刻んだ。

懐かしい声がどこからか聞こえる。



先程通った場所からで、

あの戦術論を語っていた者達の輪からだ。

ウル

シルヴァリア、
あんたに固定概念って
のはないのか?
どうしたらそんな盲点と言える
発想が出てくるんだ。

ウルだ。

いつの間にかこのユベイル城に足を運び、

戦術を語る輪に混ざったようだ。



憎まれ口を利きながら

兵士の話した戦術論を褒めたたえている。

ウル

しかしベッチー、
あんたの作戦も侮れん。
オレがレジーナに言って
昇格させてやるよ。

戦術を兵士と語るウルは、

実に清々しく、

そして饒舌に話している。

ウル

つまり戦いとは
相手のしたいことをさせないで
こちらのしたいことを
実行すれば勝てる。
そもそもそれを実行する……

長く続くウルの話は、

日が落ちようとも終わらなかった。

仕事を終えた兵士達が

食事を終え休息し、

明日に備え寝静まる頃。



シンと静まり返ったユベイル城を

月明かりが照らしている。





レジーナは、

まだ一人残った兵士と

ウルの戦術論を聞いていた。



ラビと呼ばれたその兵士の熱は

冷めることがなくウルも同じだった。

ウル

千変万化する戦況に対応し、
その策を瞬時に
全軍に知らしめることが
出来れば……

兵士

そのとおりだ。
敵よりも迅速に
意思疎通した軍が勝つ。

ウル

だが無論それを命ずる将が
優秀でなければならない。

眠気などどこにも感じさせず、

話は広がり続ける一方だ。

レジーナ

それならば、
お主達の思慮深さに負けぬよう
私がしっかりしなければな。

長時間にわたり

二人に見えぬ所で聞き続けていたレジーナが

ついに話に割って入る。

ウル

お前……
いつから……

レジーナ

昼からずっと
聞かせて貰ってるよ。

ウル

はぁ!?
昼!?

レジーナ

なかなか聞かせるから
口を挟むタイミングを
失ったのだ。

ウル

全く飽きれた奴だな

レジーナ

ラビ、
お主がそこまで軍略に厚いと
知らなかったぞ。
ただのギャンブラーかと
思っていたw

兵士

本当はそっちの方が
好きなんですけどw

レジーナ

ハッ♪
ではこれから
ギャンブラビと呼んでやる。
隊長補佐として
スダルギアを支えよ。

兵士

え!?

ウル

めでたく昇格だな。

兵士

ありがとうございます。

昇格の言葉と共に

アミュレットを手渡すレジーナ。



ラビは丁寧に拝受し、

膝をつき忠誠を改めて誓った。

レジーナ

ウルよ……、
どうしてアズール城から
ここへ来た?

僅かな笑みを備えながらも

真剣な声色で問うレジーナ。



ウルは目を閉じ

レジーナに背を向けたまま答えた。

ウル

暇だったし、
オレがいなきゃ
危なっかしいからなお前は……

レジーナ

どうだ?
じっくり兵士達と心通わせ
分かったこともあろう。

ウル

お前がオレに言った
『兵士達は覚悟している』
ということが
分かってきた気がする。

レジーナ

理想の為、国の為、
家族の為、自分の為……
そして我々の為と申す者もいる。
はたまた復讐の為という者も
いるであろう。
彼等が死を覚悟して従軍し
戦うのは重い理由があるのだ。

ウル

そうだ。
重いな……重い理由だ。

レジーナ

このラビにも戦う理由がある。
死のリスクを背負ってまで
戦っているのだ。
その心を理解してやらねば
その覚悟に対して
礼を失することになる。

ウル

……ああ。

レジーナ

そして勿論生き残って
それを成し得て欲しい。
私は心からそれを願っている。

ウル

その為に来たんだ……オレは。
一人でも多く
生き残らせてみせる!

レジーナ

ああ、そうだな。

兵士

姫……、
ギャンブラビという
あだ名で呼ぶのでは……

レジーナ

お……

ウル

あ……

レジーナは

虚を突かれたように目を丸くさせる。




ウルも不意の一撃に時を止める。









三人は月光にも負けぬ明るさで笑いあった。

ユベイル城滞在

≪大活躍≫

アスカトゥー
ベッチー
ナーズ・インジャスティス
アルシェ
テリーヌ



≪大活躍×2≫

シルヴァリア
ブルチズ
グーリン
リッジ
モルテ



≪大活躍×3≫

ラビ



≪隊長補佐昇格≫
(大活躍トータルで3回)

ラビ
ブルチズ
(前回から)
ベッチー
グーリン
モルテ



≪アミュレット受領≫
+姫からのあだ名、命名
(大活躍トータル5回)

ラビ
:ギャンブラビ

ブルチズ
:青樽(アオダル)







各自、
決戦に備え鋭気を養う

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