クレスを祀った礼拝堂には、等身大の銅像が祀られていた。

アコード

…これが、英雄クレスなのか…

アルモ

そう。この銅像は、魔法によってクレスがまだ存命の時に作られたそうよ

アコード

魔法で?

アルモ

ええ。魔法でその人物の型を作り、そこに原料となる銅を流し込むらしいわ

アコード

なるほどな。ということは…

アルモ

そう。素材が銅というだけで、それ以外はその人そのものって訳

 威厳のある、それでいて優しさも感じられる顔立ち。長髪を後ろで束ね、今にも動き出しそうな姿勢で、その銅像は祀られていた。

アコード

…それにしても、この銅像…何かが欠けているような気がするのは、気のせいか?

アルモ

このクレスの銅像には、『月明りの剣』がないのよ。理由は不明だけど…

 銅像の右手を見ると、それ自体は剣を握っている形になっているにも関わらず、そこにあるはずの剣の姿だけが見当たらなかった。

アルモ

左の腕には『ガーター』があるのに、どうして…

 その時、突如として銅像が黄金色に輝き出し、同時にアルモが持つ『月明りの剣』もそれに共鳴するかのように輝き出した。

アコード

アルモ…もしかして!!

アルモ

ええ。きっとそうに違いないわ!!

 アルモは、輝き出した月明りの剣を鞘から抜き去ると、銅像の右手にそれを納めた。

 次の瞬間、銅像の左腕にあったガーターが銅像から離れ、銀色のガーターへと姿を変えた。

 そして、剣とガーターは俺とアルモの足元まで移動すると、激しい輝きは失われ、月明りのような優しくほのかな輝きへとその姿を変えた。

アコード

アルモ…これって、もしかして…

アルモ

…間違いないわ。このガーターが、アーティファクトの一つ『月明りの盾』に間違いないわ

 そう言ってアルモが月明りの盾を拾い上げようとした、その時だった。

 礼拝堂の入口の奥から、何者かが近づく足音に気づいて俺とアルモは、入口に目をやった。

 すると…

アコード!それにアルモ!!無事だったか…

アコード

シュー!シューじゃないか!!

アルモ

どうしてあなたがここに?

 礼拝堂に姿を現したのは、グルンニードの宿に居るはずのシューだった。

アコード

サリットはどうした?それにザイール殿は?

シュー

サリットは少し調子が悪くて、宿に待機している。ザイール殿は俺にアコード達への言伝を頼むと、街に情報収集に向かった

アコード

サリットは大丈夫なのか?

シュー

ああ。休んでいれば、大丈夫みたいだ

アコード

そうか…

アルモ

それで、ザイールの言伝って?

シュー

それなんだが…二人の後ろにある月明りの盾…それは罠だ!!

アコード

罠…だって?

アルモ

どういうこと?

 駆け付けたシューによれば、封印を解除した直後に現れるアーティファクトは罠で、それを破壊することによって、真のアーティファクトが姿を現すのだという。

アルモ

ちょっと待って…ザイールは、確か総帥からアーティファクトの封印について引継をしていないから、詳細は分からないと言っていたわよね…

アコード

確かに…詳細が分からないから、アルモが直接本部に行けば何か分かるかも知れないってことで、俺とアルモのみで本部に潜入することになったんだったよな…

 疑いの眼差しでシューを見る俺とアルモ。

シュー

い…いや………ザイールが昨晩本部から持ち帰った資料を整理していたら、封印について分かったらしくてな…

 明らかに、動揺した面持ちでその場を取り繕おうとするシュー。

 その時だった。

 礼拝堂の入口から、今度はかなりの人数の足音が木霊してきた。

 そして、100人は収容できるであろう礼拝堂に、50人余りの教団兵が姿を現した。

アルモ

アコード!

アコード

シュー!今は言い争いをしている場合じゃなさそうだ!!お前は俺とアルモの援護をしてくれ!

シュー

了解した!!

 俺とアルモの前にいたシューが、不敵な笑みを浮かべながら俺たちの後方に下がろうとした、その時…

アコード

アルモ!!

アルモ

ええ!分かっているわ!!

 アルモは足元に置かれた月明りの剣を右手で拾い上げると同時に、月明りの盾を左手で拾い上げようと試みた。

 ところが、あと一歩のところで拾い損じてしまい…というよりも、即行で動いたシューのスピードに負けてしまい、月明りの盾を拾い上げることは叶わなかった。

 そして月明りの盾は、シューの両手に納まっていたのだ。

アコード

シュー!!

アルモ

それを返して!!

シュー

いやいやお二人さん。これは罠だと言ったじゃないですか!

アコード

罠だったとしたら、シュー!お前も危ないんじゃないのか?

シュー

俺?俺は大丈夫さ。なぜなら、教団が長年かけて研究した、対アーティファクト魔法によって守られているのだからな!!

 次の瞬間、アルモが持つ月明りの剣と、シューに成りすました人物が持つ月明りの盾が再び共鳴し、輝かしい光を放ち出した。

…何だ、この光は……あぁ…私の魔法が解除されていく……

 まるで春先に凍った湖面が割れる時のように、シューの姿の複数個所にヒビが入り、ボロボロと剥がれ落ちていく。

 そして、数秒後にはシューの姿は跡形もなく崩れ去り、光を放っていた月明りの盾は、本来の持ち主であるアルモの手に瞬間移動していたのだった。

第11話 に続く

Episode7「三日月同盟」第10話~月明りの盾~

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