ここは新宿歌舞伎町・区役所通り近くの一角 ――

昼キャバの勤務明けらしい女と男の2人連れが
信号待ちをしている。

さしずめ女はキャバ嬢、男はその店の黒服と言った
ところだろう。

女は睡眠不足で先程から大欠伸の連発で ――

咲耶

ふぁぁぁ~~っ……流石、この歳になると二部明けはかなりしんどいなぁ……

すると、男の方が

正紀

何言ってんの ”歌舞伎町の歴史を塗り替えた”って伝説の嬢王様が

咲耶

ハハハ ――!! 伝説の嬢王、かぁ ―― そんなこと言われた時代もあったっけねぇ……キャバ嬢の華は
せいぜい20(はたち)までよ。それを過ぎたら、誰も
ただのオバちゃん

正紀

アハハハ ―― オバちゃんはキツイな

信号が青に変わって2人は歩を進める。

正紀

これから朝飯でも一緒にどーよ?

咲耶

いいけど、奢らないよ

正紀

チェッ ――! 相変わらず堅いな咲夜は。オレなんかの数倍は稼いでる癖にっ

咲耶

何とでも言いなさい。私がおミズで働くのは、ぜ~んぶ妹の為なんだから

すると ”咲夜”と呼ばれてた女の上着のポケットで
スマホが短く振動した。
メールの着信のようだ。

女はスマホを取り出し、そのメールを一瞥すると ――

咲耶

まーくんごめん。用事できちゃったぁ。朝ごはんはまた今度ねー

正紀

あーっ! 今のメールだろ? 男か?

咲耶

フフフフ ―― ご想像にお任せしまーす

正紀

ぜってぇー男だ。先約のオレよか、後約の男取るのかよぉ~

咲耶

じゃあね~。お疲れ様でした

2人は信号を渡り切った所で二手に別れた。
男は女の後ろ姿に向かって叫ぶように、

正紀

次は奢れよ~! お疲れさん

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