それは、雨の降る夜だったけど
せっかくなら雪がいいじゃない?

君に会えるのなら、
情けなくて顔を覆える季節がいい

何時も、幾つも、

あの日を最後に、
この國は

昏々と、雪がおちる

……まだ、着氷が下手ね
アイススケートは難しいわ

……

ずっと竪琴を弾いているのね?

あー

悪い?
落ち着くんだよ

その不格好な音色で?

不格好で結構

あら、今も音が外れたわ

毎年、こんなんで
集中出来ないんだけど

なら、別の演奏場所でも
見付けてはどうかしら

他の場所だと観客いないし

観客って猫さん?

そうだけど

虎さんも?

わりと下手に弾いてんのに、
なんで動物寄って来んのかな…?

大体の動物は観客だ

寂しい子ね?

お前なぁ…?

だいったい、お前だって、
なんだあの下手なオディールは?

あれでも、練習中なの

お前は悪くないけど、

上手な人を知ってるから、
お前の見てると腹立つ

そっくりそのままお返しします
この下手

――って、

このやり取り、何年してんのさ

さぁ…?

もう何千年と?

・・・・・・・・

――もし、これで
琴が上手だったら、

誰かに似てた?

馬鹿なこと言うのね、下手なのに

まあ、うん
下手だけどさ

そう、下手

ん?

嘘が、ね?

……!

いや、別人だけど

あら、この機に及んで
まだ誤魔化すつもり?

オルフェの琴は、
どれだけ下手でも分かるわ

何故、黙っていたのかしら

悲劇を
繰り返しそうで

そんなの、本望よ?

初めまして、オルフェ

人違いじゃ駄目か?

次は、私が手を放さない

エウリディケ

改めて呼ばれると
妙な名前よね

未来が、怖い
繰り返されることが怖い

大丈夫

こうやって、
何年も逢ってきているのだから

それで、未来が怖いなんて
今更よ?

……

君は、それで、いいんだ

過去のことは良くないけれど、

「振り返ってはいけない」

――そうでしょう?

――分かった
もう、「振り返り」はしない

……

……っ!

――!

どんな夢を見たのか、
何となく予想が付くから

現実に戻してみたの

……!

もう雪融けを見てもいい

あら、言うけど、
私はアイススケートだったから、
下手だったのよ

とても上手な舞を見せてあげましょう?

貴方が望むのならば、
この季節は晴れるわ

「七夕」雪が降る、逝國のオルフェ

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