早見千恵がそう言って締め括ると、開放感のようなものがその場に走った。そして喜んだような素振りを見せる生徒たち。
ここは東京のある高校だ。千恵は高校の国語の教師で二年二組の担任もしている。職歴は二十年近くベテランの域に達しつつある。もっとも、だからと言って生徒たちを勉強に燃えさせることができるわけではないのだが。ベテランになっても何が変わるわけでもなく、ただ年月が過ぎただけなのだ。
高校の教師とはそんな職業だ。教えることの内容も変わらないし、新しい事業を始めるわけでもない。これが会社なら課長、部長、専務と年功序列で出世していくのだが、高校では平以外の役職は校長と教頭ぐらいしかなく、年季が長くなっても地位や役職が変わるわけでもない。千恵は何かを象徴するように変化に乏しい世界の住人になってしまったのだ。
職員室に戻ると、先ほどの教室とは空気が違っていた。教師は夏休みにも仕事があるせいか、開放感はない。多くの教師はこれから酷暑の中、出勤するのがいかにもしんどいといった表情をしていた。
そんな中、その中の一人がこんなことを言い出した。