土岐 吉次

柳生殿、全軍無事に配陣できました

柳生

はい、ありがとうございます

結城 忠政

それで、どうするのだ柳生殿? このまま全軍で山に突撃するか?

柳生

いえ、あの山は妖怪の庭……不用意に突撃しては危険です

柳生

彼らをまずは山から引きずり出し、覚を皆の前で首を斬り落とします

竹内 蘭

どうやって妖怪をおびき出すの?

柳生

この山は彼らの城でもあると同時に弱点にもなります。ここを失えば、彼らは完全に逃げ場を失います。故に、まずはこの山を攻めます

竹内 秀政

……大筒をここに

結城 忠政

南蛮から取り寄せた大型の火縄銃……大火薬、大筒

柳生

島殿、誠にかたじけない。まだ普及もしていないのに、まさか手に入るとは

島 清明

礼には及ばぬ。……拙者とて、弾正様の死に胸を痛めている故

柳生

…………はい

竹内 蘭

………柳

柳生

蘭、今は違うよ

竹内 蘭

分かってるけど……でも一人くらいは柳であることを覚えていてもいいと思うの

竹内 蘭

柳でも柳生殿でも、優しくて忠義に厚い貴方の本質に変わりはない。だから迷わないで。私が後ろから支えてあげるから

柳生

…………

柳生

うん……ありがとう

土岐 吉次

柳生殿、大筒の準備整いました!

柳生

分かりました。まずは麓から狙います。撃ち方、用意!

柳生

放て!!

………ねえ、あれ何かな?

――――え?

土岐 吉次

着弾、確認しました

結城 忠政

よし、第二弾撃ち方、用意!

柳生

まだ山の頂上は狙わないで下さい。着弾距離は未知数ですし、徐々に崩して向こうの戦意を削いでいきます

おぅおぅ、随分とやんちゃしておるわ

柳生

……随分と早いご到来ですね。まるで準備でもしてあったかのようだ

轟鬼

遂に礫を投げ来るか。棒切れ振り回す頭すら無くしたか猿共が

竹内 秀政

おぉ、壮健であったかご老鬼。腰の具合も良さそうで何より

轟鬼

じゃかあしいぞ子守ふぜいが。貴様の首がへし折れておれば笑い種だったろうて

柳生

……貴方が鬼の大将ですか

轟鬼

……何者じゃ。餓鬼。何故人間の前で堂々と立っておる。捕虜には見えんが

柳生

私は柳生。鬼でもあり、人間の将です

轟鬼

なるほどのぉ猿共。勝ち目がないと見て捕らえた鬼に縋りおったか。とんだ喜劇ではないか!

轟鬼

さて、鬼よ。その力で人間を屈服させ、将として認められた……それは評価しよう。だが、何故儂らに刃を向けるのか、聞いてもよいか

柳生

……貴方達が将軍である松尾弾正様を殺めたからです

轟鬼

人の大将が死んだ……それが何の関係がある? 祭り上げられたのか?

柳生

違う! 弾正様は私を救ってくださった。私を育ててくださった。大恩ある方の忠義に応えたいと思うのは当然のことでしょう?

轟鬼

……青臭いことを抜かすな餓鬼。儂ら鬼は己が欲望のままに動き、そして食らう。人への忠義? そんなもので腹が膨らむと思うてか阿保らしい

轟鬼

忠義とは私欲とは縁遠きもの。そんなものの為に刀を振るう貴様など人でも鬼でもないわ

柳生

結構。私も、私欲しか頭にない下賤な者の仲間など願い下げです

よぉ、横から悪いけどよ。今の口ぶり聞いてる限りだと、あんた災禍殿や千狸殿も斬ったのか?

柳生

そうですね、こちらの要求を伝えるのを忘れていました。私は無差別な殺生は望みません。ただ、首が欲しいのです

柳生

覚という、そちらの指揮官の

轟鬼

覚……じゃと? 何故ここで奴の名が

柳生

彼こそ弾正様の真の敵と聞いています。その者の首を差し出してくれれば、以後妖怪に危害を加えないと約束しましょう

ふーん、まぁその辺はどうでもいいわ。俺が知りたいのは災禍殿やその護衛についてた鬼もあんたの仕業かってことだよ。そこんとこどうなんだ?

柳生

災禍……全身を布で覆った鬼のことですか?

柳生

それなら答えは……是です

…………上等。それさえ分かれば十分だ

竹内 蘭

っ! 柳!!

兄弟の仇ーー!!!!!

柳生

…………

な………に!?

柳生

――――はあっ!!

轟鬼

…………!!

竹内 蘭

たっ、たった一撃………!?

柳生

言ったはずです、私は無駄な殺生は好まない。ですが、貴方達が望むのであればいくらでもお相手しましょう

柳生

鬼の底なしの体力はご存知でしょう? 一騎討ちでしたら、たとえ鬼でも全滅させられますよ?

轟鬼

……ちぃっ。胸糞の悪い

…………柳?

柳生

……えっ?

…………っ

柳生

………かえ、で?

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