真狸

………災禍の旦那が亡くなりました

………嘘だろ? 昨日まであんなにふんぞり返ってたのにか?

真狸

なんか悪意を感じなくもないっすけど、事実っす。その災禍の旦那が討たれたんす

……ちょっと待て。討たれたってどういうことだ?

真狸

誰が討ったのかは不明っす。化け狸や護衛についていた鬼さんも皆死んじまってます。何があったかは皆目分からないっす

護衛の鬼まで……ってことは普通の人間じゃねえのは確かだ。災禍は腐っても鬼の仲間だ。実戦に向いてないにしても人間なんかに後れを取るとは到底思えないが……

真狸

ってことは、まさか身内に斬った奴がいるってことっすか? 災禍の旦那を快く思わない誰かさんが闇に紛れて――みたいな?

……分からねえ。けど、轟鬼の爺や他の主だった鬼は災禍に賛同してるし、小さいい奴らはそもそも災禍と面識はねえ。他に考えられる可能性は…………

真狸

……それ、一番可能性あるの楓譲さんじゃないすか? 彼女かなり強いらしいし、覚の旦那の気持ちを知って…………みたいに

万が一にもねえ。あの娘は……そんな器用な奴じゃないさ

真狸

………そっすね

まぁいい。どのみち状況が元に戻っただけだ。人間が攻めてくる可能性もあるし、爺さんと軍議しねえと

真狸

あ、状況で思い出したんすけど……松尾弾正が死んだそうっす

はあっ? それこそ何故だ?

真狸

災禍の旦那の指示で師匠が暗殺したらしいっす。師匠も死んじゃったので本当かは分からないっすけど

あの狸がか。どうりで………

お前に落ち着きがないわけだ

真狸

…………何のことっすか?

顔に出てるぞ、忍さんよ

真狸

……そんなことないっす。あっしは忍っすから。忍に情なんて…………

嘘つくな。隠したって俺には意味ないさ。……千狸の仇が憎いんだろ?

真狸

師匠は……みなし子狸だったあっしを忍びとして育ててくれた、楓譲にとっての旦那みたいな存在なんす。きっと戦が終わってもお互いに生き残ってただの狸に戻って、山を追いかけっこできたらいいなとか、そんな馬鹿げたことを願うくらいには大事な人だった

それで?

真狸

…………言わせないでくださいよ、旦那

……もう答えてるみたいなものだけどな

真狸

……すいやせん、旦那。一日だけ暇をもらってもいいっすか?

一応理由を聞こうか

真狸

災禍の旦那が討たれたのは山の麓っす。一度山を下りてしっかり情報を探りたいんす

真狸

もし災禍の旦那や他の鬼を倒せるような奴が人間軍にいたら、こちらが圧倒的に不利になるっす。せめてこれが人間側の闇討ちなのか、それとも仲間割れなのか……それくらいは明確にしといた方がいいんじゃないっすか?

……まぁ、もっともらしい理由だな

分かった。任せる。頼んだぞ

真狸

了解っす。旦那も頼みましたよ

あの……

ん?

真狸さん、私もついて行ってもいいでしょうか?

真狸

楓譲? どうしてまた……?

人間軍の中に柳が……私の探してた鬼がいるかもしれないんです。先の戦でも参陣してたようですし、もしかしたら……と

そうか、2年前から探していたもんな……

真狸

……分かりました。ただ、正直に言うなら楓譲の探してる鬼さんの方は期待しない方がいいとは思いますが、まぁ行動することに意味はあると思いますし

真狸

物見のろくろの姐さんを中心に聞きこんでみましょうか。早速行ってみましょう

……はい

んじゃそっちは任せた。鬼共が荒れてるだろうから俺は軍議行ってくる

轟鬼

おぅ、やっと来おったか

あぁ。まぁ揃いも揃って。そんなに軍議を楽しみにしててくれてたのかね

…………っ!!

轟鬼

覚よ、報は届いてような。災禍と配下の鬼が何者かに討たれた

あぁ、勿論だ。だからこうやって集まってるんだろうが。一応そちらの意見を聞こうか

聞くまでもないだろう。災禍や討たれた鬼の仇討ちだ。この山を下り、人間を虐殺する

却下だ。許可できると思ってんのか

おい待てよ! こっちは兄弟まで斬られてんだ。頭から否定するのはよしてくれ

……あぁ、そういやあんたは俺達の監視で山の上にいたのか。兄弟のことは残念だが、それだけで動くことは出来ねえ。分かってくれ

轟鬼

…………なあ、覚よ

轟鬼

儂らは、いつまでお預けを食らえば良いのだ?

先の戦でたらふく食ったんじゃねえのか

轟鬼

生憎食欲が旺盛でのぅ。あれでは一晩寝たらすいてしまうわ

……あんたらは同胞の災禍の死すら食うための理由づけにしようってのか。仇討ちよりも食い意地とか、どうかしてるぜ

轟鬼

飢餓というのは日常的な死の病だぞ、覚。決して軽視すべきものではない

覚よ、分かっただろう? もう我らは待てぬのだ。人間の力が数がどれほどあろうと、我ら鬼にはそれを凌駕する個の力がある。最初から人間を蹂躙していれば、災禍も他の鬼も死ぬことはなかった。違うか?

それは違うな。これは元々時間が経てば向こうから手を引くべき戦だった。人間達も人間同士の戦で手一杯のはずだ。放っておけばこちらに構う暇も無くなって戦も終わる。それにちょっかい出して長引かせたのは、元はと言えばお前らの方だろう?

轟鬼

もうよい。覚よ、すまぬが主の出番は終わりじゃ。鬼はもう我慢できぬ。夜に全軍で進軍させてもらう

冗談じゃねえ! そんなことしたら更に戦火が広がっちまうだろ! 無駄に死体を増やしてどうするんだ!!

忘れたか覚!! 先に戦を仕掛けてきたのは人間の方だ! 我らに干渉してきたのは奴らの方だ!! もう根源を食い尽くす以外に術はないのだよ!!

轟鬼

今までご苦労じゃった。後は儂らが決着をつける故、牢屋でおとなしくしていてくれ

よっと。すまないねえ覚殿。そういうわけだからさぁ

天狗……お前らまで…………!?

申し訳ないけど、あっしらも待てなくなったのさあ。いつ終わるか分からない戦は、戦から逃げてるのと何も変わらないのさぁ。だったら、あっしら天狗は轟鬼の爺様達に賭けることにするよお

轟鬼

そういうことじゃ、覚。早い隠居と思ってのんびりしていてくれ

ふざけるな!! 待てお前らーー!!

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