MALICE-マリス-

序章

美しく清楚に連なる情景と比例して賑わいを見せる街『ディアーノ』
一見古風だが近年、商業など外交にも積極的に通じ大きく発展してきた街である。
行き交う人々も実に幸せそうで笑顔が絶えず平和そのもの。

しかし、あくまでそれは表の顔・・・



カジノ、売春、麻薬、殺人・・・それらが渦巻く暗黒街ディアーノ
そこを拠点に長年権力を持ち続けた組織


ドン・パルマの名の下
『ヴァイス(Weiss)ファミリー』


この街を牛耳るマフィアである。






街の半数以上がこの組織の色に染まり、民間も金さえ与えれば簡単に協力した。
そのため警察は証拠も身動きも取れずに頭を抱えていた。






そんなディアーノには別の名前がある


『Malizia e Bond Street』

City of malice and bond



悪意と絆の街、と・・・

!!!???

突如轟音が鳴り響く。

街の由来を示唆するように頻繁に起こる悪意が顔を出した。

っっっっやばい!!ふ、伏せろーーー!

キャーーー!!

迅速に身を伏せる者、子供を庇いながら家内に誘導するもの。
商人も娼婦たちも皆身を潜める。

カレンダファミリーの襲撃か!?

だろうな。どっかでヴァイスと揉めてこっちに流れこんできたんだろうよ!

カレンダファミリー、現在ヴァイスとの間に亀裂が生じ度々衝突してきた組織。
最近は抗争が激しさを増し街の至る場所で勃発していたためこの事は安易に推測ができた。


おらおら!どきやがれ!殺されてぇか!!

けたたましい轟音と罵声を浴びせながら、カレンダの一人が無鉄砲に弾を放つ。幸い人がいない場所に当たったものの抗争中に民間人に発砲する事など、普通ではありえない上にそんな暇さえないはずだ。
だが興奮し目が血走りまともな思考になっていない男にとって、そんなのはどうでもいい事だった。



誰が見ても独特な異常さと危うさを感じとれた。

おい、アイツやべーよ!興奮して周り見えてねえ

ああ、こんな事してる場合じゃねえってのに!

仲間の心配をよそに、適当に目に留まった男に銃口を向ける!

!!!!??

お、おい何やってんだ!そんな奴に構ってる場合かよ!!

静止するも男の耳には入っていなかった

ははははーーーー!死ねよ!!!

最悪の事態に周囲が凍り付く




だが

ぐはあああっ!!!

誰もが息を呑み今の現状を確認する。

先程銃口を向けられた男は無事で、向けた方が悲鳴をあげ倒ている。どうなっているのか?事はこの反対ではないのか?


そして次の瞬間この場に似つかない声によって周囲が一変した。

俺の腕衰えていないのが確認できてよかった~。感謝感謝☆

げ!!お前はさっきの!

はーいお待たせちゃん!お前等の相手は俺だろう?

!!!???ヴァ、ヴァイスだ!

今度こそ戦場になるぞ!に、逃げろーーー!

少々砕けた印象のある男の登場に安堵したが、カレンダの者がこの男を知っている。もうそれだけで彼の正体が『ヴァイス』だと悟るのにそう時間は掛からなかった。

そして我先にと散り散りに逃げだす。


そんな者たちを尻目に数人の娼婦だけは先程現れた男を囲む。

やだ!もう助けてくれるならもっと早く来てよ~♪私が撃たれて身体に傷でも出来たらどうしてくれんの?

そんときゃ俺が嫁にもらってやるから安心しな!

それよりお金が欲しいわ~☆

強いね~姐さんたちは。もう危ねえから下がっててくれな♪

ふふっわかったわ♪今度買いに来てね☆

先程の殺伐とした空気は何処へやら。娼婦たちの方がこう言った場面に慣れているのか肝が据わっている。相手が誰であろうと態度を変えない上にちゃっかり自己アピールもしていくのだから大したものだ。
そして淡々と冗談も交えながらその場を後にした。


ははっ女は強ぇっていうか・・・危機感がなさすぎなのも問題だな

彼の名は『フレッド・ゾーラ』、ヴァイスの幹部候補の一人。銃の腕は組織の中でも優秀。要領もよく物事を見極める洞察力にも突飛している。


この物語は彼を中心として邁進していく事となる。

畜生!もうきやがったのかよ!~~~っこいつが余計な事してるから!!

随分と余裕だよな~?俺とのデート中に逃げ出しておいて!・・・んで?鬼ごっこはもう終わりって事でOK?

~~~っ

あんま余裕なさすぎると・・・モテねぇぜ!!

余裕の表情を見せ相手に挑発的に対話する。心に隙のできてる者にこの態度はよく効く。フレッドは経験上それを把握していた。

ちくしょーーー!!!

半分ヤケクソ気味に怒りに任せて銃を取り出す

とことん余裕ねぇな!

ひっ!

男が銃を取り出す前にフレッドが威嚇射撃をしてみせた。当たるか当たらないかのギリギリで。

一緒に来てくれるよな?楽しくデートの再開といこうや

相手に詰め寄る・・・


距離3mといったところか。
相手も半ば諦めかけ、優勢はこちらにあるとフレッドは確信してた。









だがここで変な違和感を感じた。

真下・・・
銃口の向きはそのままに目線を下に向ける。


へ・・・へへへ

こいつ!気を失ってたはず!?

そこには先ほどフレッドの弾で倒れた男が瀕死の状態にも関わらず、狂気に満ちた眼で銃口を向けていた。

っっ死ね!!!

!!?ッチ!!

思わず避けようと体をグラつかせたが、この弾を避けてる隙に目の前の男に発砲されてはマズイ。しかしどちらかを迎撃すればもう一方の餌にされるのも必至。

それまでに3人の距離が近すぎた。

やべっしくった!

撃たれた


辺りに鮮血が流れる







だがフレッドに来るはずの痛みはない

!?

フレッドの真下から血が噴出していた。

続いて目の前の男もその場に崩れた。






まさに電光石火の如くの早業。

また命中率の高さもあってか既に二人は絶命していた。

おりょ?

な、なな何が起こったんだ!!

仲間がやられ一人残され焦燥感に苛まれる男。






フレッド自身も一瞬思考が止まったがすぐに理解できた。
こんな正確な早業ができる者は一人しかいない。

ジーノさん

何やってやがる

キャー☆あれジーノじゃない!?

素敵!!今度買ってくれないかしら

何処からともなく歓声が上がる。
あの娼婦たち、まだ逃げていなかったのか・・・こういう時女は呑気なものである。

流石。助かりましたよ

無駄口が多いからこういう事になる・・・己の力量を慢心して隙を見せるな

へ~い

フレッドはこのジーノの配下に属し、行動を共にするのが多い事からとても気に入られているようだ。
その分ダメ出しを食らう事は他の者より多々あるが・・・。

『ジーノ・カランドレッリ』、ヴァイスの幹部。性格は常に冷静。あまり多くは語らないが常に沈着に物事を見据える姿勢と行動力から組織の信頼も厚い。
数年前に一つの組織を一人で殲滅している。だが他人にその経緯について詰問されるのを嫌っているため、上層部以外にその真実について知るものは少ない。

ジーノ・・・って、あの組織を一人で殲滅したっていう!?

・・・・・・

あ、死んだ

常に冷静なジーノの唯一の忌諱・・・知らなかったとはいえ、そこに触れてしまった男の末路を悟ったと同時にジーノの右腕が動いていた。

お前も無駄口が多い・・・

当たり前のようにジーノが外す筈もなく、男の鼓動が止まる。

殺っちまってよかったんですか?情報、なくなっちまいましたよ

・・・行くぞ

有無も言わせずその場を去るよう促す。




こういう時のジーノに何を言っても無駄、そのまま放置される事は分かり切っていた。ここは命令に従うのが定石と咄嗟にフレッドは判断する。



・・・了解

そして去り際にジーノが何処から来たのか、一人の男に耳打ちする。

後は頼んだぞ

はい、問題ないです

もう用なしと判断すれば早急に行動に移さなければならない。この現場に組織が関わった証拠を残し、もしそれが警察や別組織の手中に渡れば、けじめと証拠隠滅として死より恐ろしい〝粛清〟を受ける事となる。これはこの世界のルール、誰も破ることも拒む事も出来ないのだ。





ではこの惨状の後始末は・・・
ジーノやフレッドの管轄ではない、組織の中でも最も闇の深い者の仕事。
このような状況にも関わらず、彼らの動きは素早く丁寧。一つの証拠も残さないその道のプロ集団。

組織でもその者に触れる事は、幹部以外禁忌としてそこに落とされた者以外誰もその素性を知る事はない。





全てを彼らに任せ、ジーノが乗ってきた車に乗り込んだ。

そろそろいいでしょ?何があったんですか?

車を走行させながら少し間を置き、去り際に投げかけた質問を口にする。
内容の変更、あの場では言えなくもその仕事に携わって命まで落としそうになったのだ。フレッドにはそれを聞く権利が十分ある。

カレンダはもう終わりだ

え?

ジーノも伝えるつもりだったのだろう。すんなり返答した。

先程上から通達がきた。カレンダの上層の奴等が失態を晒して自滅しやがった。

うわ~ざまあねぇな

が、追尾した連中の情報はカレンダに関わるもの以外に、うちの組織の重要機密もあった。だからカレンダが自滅しても口を封じる必要はあったわけだ

あんな低能な者がいる組織だ。〝自滅〟と言う言葉に妙に納得させられる。それに元々弱小マフィア、うちと並ぶには年季が違う。


しかしそんなド素人に近いチンピラに情報を持っていかれた事にはゾッする。

成程。それじゃあ仕方ねえな

それにヤツ等は暴れ過ぎだ。民間に手を出されては色々と面倒なんでな。

全く余計な手間掛けさせやがって。ま、どの道カレンダに俺等の情報を持って帰っても別組織に売ってもあいつ等じゃ利用されたまま・・・やっぱ口封じに殺られてたでしょうけどね

そう結局彼らの末路は〝死〟だったのだ。捨て駒にされている事を最後まで知らず散っていった者に少し同情はするが、これもこの世界の常。
そうならないよう要領よく生きていくしかないわけだが・・・

お前も無駄口叩きすぎて足元掬われないようにしろ、早死にするぞ

おっかねえなジーノさんは。でも命は惜しいんで肝に銘じておきます

お前は物分かりがいい。そして良いも悪いも正直だ・・・

そりゃど~も

ジーノはよく人を見ている。どこまでも食えない男だが、その目敏さは生き延びる術を心得てるからこ信じられるものだった。

そして次の瞬間フレッドの人生が大きく変わる事となる。

フレッド

先程の通達以外に指示がおりた。これは最重要任務になる

じゃあジーノさんはそちらの指揮にあたるから現場には暫く来れないという事ですか?

察しがよくて助かるな。そうだ、正確には優先事項として俺は掛け持ちになる。そこで俺の部下から2名ほど同行させる事にした。フレッド、お前を連れて行く

ふぇ!?俺が!

・・・・・・・

そんな目で見つめないでくださいよ☆っと、え~と・・・了解

あまりに唐突な言葉に素っ頓狂な言葉を発してしまい、ジーノに睨まれた。そしてすぐに弁解の言葉を伝えたが・・・先ほど無駄口を叩くなと言われたばかりだというのに・・・自爆してしまった。


静かに了承しなんとかその場を治める

内容は今から本拠に行き、そこで改めて説明する

い、今から!?

・・・・・・・・・・・・

やっと寝れる~とか、興奮の余韻が残ってるからちょっと女を買っちゃおうかな~とか施策していたのに・・・という思いはあったものの、言い返しや弁解をしてる場合じゃない

~~~わっかりました!!

こうしてフレッドとジーノは目的地へと車を走らせ夜の闇に消えていった。

この物語はフィクションです。実際の国・地名・人物・団体とは一切関係ございません。





寧ろ色んなものが混ざってデタラメです。

MALICE 序章 前編

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