樋高探偵は事件にお呼ばれ

四話 解決編

樋高(ひだか)

羽田室 優さんも羽田室 優里香さんも
犯人ではありませんよ




黒田(くろだ)

…何を言ってるんです?
無事な奴の誰かが
今回の事件を仕掛けたんだ

黒田(くろだ)

従業員は不在にしていれば
誰かが見とがめる
招待客がうろうろしてれば
従業員が気付くでしょう

黒田(くろだ)

それともあなたたちが
仕組んだとでも?

樋高(ひだか)

もちろん僕らでも
ありません

樋高(ひだか)

そもそも犯人達は
ここまで大事にする気は
無かったはずです

樋高(ひだか)

今回の事件は
人の命を狙うには
いずれも不確定要素が強すぎる

黒田(くろだ)

犯人達?
樋高さんは犯人が分かっていると?

樋高(ひだか)

ええ

樋高(ひだか)

今回の犯人は
被害者であり、現在病院で手当てを受けている

羽田室会長
羽田室副社長
三津湖社長

の3名が、それぞれ単独で行った嫌がらせに端を発した過失傷害事件です

羽田室 弦(はだむろ げん)
羽田室 弥(はだむろ わたる)
三津湖(みつみ)
黒田(くろだ)

はあぁ!?

樋高(ひだか)

まず、羽田室 弦さん羽田室会長は
三津湖さんが乗っ取った記念式典に
嫌がらせをしたかった

羽田室 弦(はだむろ げん)
樋高(ひだか)

そのために
乾杯のワインにリンゴ酢を
混ぜたのです

樋高(ひだか)

混ぜたのは数日前の可能性もあります。
出すワインは決まっていたのですから。

白佐賀(しろさが)

リンゴ酢のビンから
羽田室 弦氏の指紋が検出されました!

白佐賀(しろさが)

従業員によれば
氏は普段調味料などを
触ることはなく
台所にもほとんど指紋は
残っていませんでした

樋高(ひだか)

ちょっとした嫌がらせのつもりだったでしょう。

しかし、
ここで羽田室 弦氏の誤算が
ありました

樋高(ひだか)

三津湖社長は
リンゴアレルギー
だったのです

白佐賀(しろさが)

三津湖社長の持ち物から
アナフィラキシーの緊急処置薬が
見つかりました!
他の社員も社長がアレルギーだと
知らなかったようです!

樋高(ひだか)

アレルゲンとアレルギーは
まだよく分かっていない部分も
ありますが

樋高(ひだか)

しかし
一度アナフィラキシーが
起こってしまえば
全身の血管の水分が組織中に流れ込み、酷いむくみを起こす。
気道にむくみが起これば
気道を塞いで窒息に至らしめる。

樋高(ひだか)

更には血管の水分がなくなるとは、すなわち出血と同様です

樋高(ひだか)

いわば大量出血と窒息を同時に起こす
恐ろしい猛毒となります




樋高(ひだか)

次は羽田室 弥さんです。
自分を疎み続け
無理難題を言う父親に
嫌がらせをしたかった

羽田室 弥(はだむろ わたる)
樋高(ひだか)

そこで
暖炉掃除の時に
思いついたのが
父の愛用の
クレー射撃の銃弾を
暖炉に入れておくことでした

黒田(くろだ)

それは完全に殺意が
あるのでは…?

樋高(ひだか)

いいえ、
少し調べれば分かりますが
銃弾だけが暴発しても
そこまで被害は出ません
本来は

白佐賀(しろさが)

羽田室 弥のウェブ閲覧履歴を
調べたところ
火に実弾をくべた場合の威力を検索した
可能性があります!

白佐賀(しろさが)

父親のクレー射撃にも
付き合わされており
銃弾の保管場所も知っていた
ようです!

樋高(ひだか)

しかし散弾銃の
ショットシェルの部分は
プラスチック

樋高(ひだか)

耐熱とはいえ
暖炉の火で炙られれば
簡単に溶けてしまいます

樋高(ひだか)

腹いせのいたずらとはいえ
不発では腹いせになりません

樋高(ひだか)

威力が低い事も
確認済みの彼が
どうしたか…

樋高(ひだか)

ガラスの小さな容器に入れ、暖炉の天井に熱で溶けるような素材で貼り付けた

暖炉の掃除を終わらせた優君を追い出した後でしょう

樋高(ひだか)

その装置が熱であぶられて溶けて落下し、暖炉の火に焼(く)べられる

白佐賀(しろさが)

従業員の証言では
ジャムの小分けに使うような
小さなガラス瓶が
無くなっているそうです!

白佐賀(しろさが)

時限装置の跡らしきものも暖炉の天井から発見されました

樋高(ひだか)

破裂させて驚かせようとしたのでしょうが
結果
割れて跳んだガラス片により
羽田室 弦さんは重傷を負いました










樋高(ひだか)

最後に三津湖さん
羽田室 弥さんがサウナ室に入った所を
見計らって
手近なモップで
つっかえ棒を設置しました

三津湖(みつみ)
白佐賀(しろさが)

三津湖社長は
以前から癇癪で
突発的なトラブルを起す事と
事件直前に
口論になっていたという
証言があります

樋高(ひだか)

式典が始まったら
何か理由を付けて中座し
早々にサウナの扉を
開ける気だったのでしょう

樋高(ひだか)

しかし三津湖さんは
アナフィラキシーで運ばれてしまい
弥さんの発見は遅れてしまった

警部!

黒田(くろだ)

何だね?!

病院で意識を取り戻した被害者たちですが…その…
状況を知るなり、自分が犯人だと自供し始めまして…

黒田(くろだ)

…大筋は分かった、被害者たちから聞き取りを続けたまえ


後で行く





山辺(やまのべ)

警察何もしてねーな

黒田(くろだ)

金魚の糞よりは役に立つとは自負しておりますな

黒田(くろだ)

そもそも
樋高探偵が羽田室会長のリンゴ酢の件を
我々に伝えていれば
すぐに全貌が分かったんですよ!

山辺(やまのべ)

伝えてたけどそれを無視したのはあんただろ

黒田(くろだ)

聞いておりませんね
録音でもしてあるのですかな?

山辺(やまのべ)

・・・・・・ふーん…
じゃあ俺は営業のために
名刺配りでも
しとくかね

とりあえず
奥さんと坊ちゃんに

羽田室 優(はだむろ ゆう)

え?

羽田室 優里香(はだむろ ゆりか) 

はぁ…

山辺(やまのべ)

樋高の相棒
弁護士の山辺だ

相談してくれれば
刑事事件から
公権力の横暴
不当圧力に不当捜査から
ブラック企業案件まで
お答えするぜ

羽田室 優里香(はだむろ ゆりか) 

羽田室 優(はだむろ ゆう)

白佐賀(しろさが)

そーだったの?

黒田(くろだ)

!?

白佐賀(しろさが)

黒田警部も知らなかったっぽいな…
























羽田室 弦(はだむろ げん)

わしは
立場を笠に着て
弥をはじめ他人に甘えていた…
甘え過ぎていた…

それが良く分かったよ…
















羽田室 弥(はだむろ わたる)

閉じ込められたときは
優か?と思っちまったんだ

羽田室 弥(はだむろ わたる)

馬鹿だな俺は
あいつまだ小さいし
大変なのに
腹いせなんてせずに
腐らないで生きててさ…

羽田室 弥(はだむろ わたる)

これじゃ
いい年した大人が
情けない…
俺もちょっと周りへの態度を
改めるよ…




















三津湖(みつみ)

誰にも
弱みを見せないようにと生きてきた結果
死にかけるなんて…

三津湖(みつみ)

皮肉ですね…
これだけ恥を曝したなら…
もう少し…生き方を変えられるかしら…






被害者の3人は
まるで憑き物が落ちたように
態度を改め
今は協力して
会社を盛り立てているらしい

凶悪で
子供じみた嫌がらせの
応酬の果てに解決した事件の話は
これにて

白佐賀(しろさが)

っと




樋高(ひだか)

やっぱり僕は必要なかった気がするなぁ…

白佐賀(しろさが)

何言ってるんですか!
黒田警部に任せてたら
『羽田室弦が真犯人で銃弾は狂言だ!』
とか言って
大迷走してましたよ!?














四話

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