その、呪文の詳細については分かったんですけど

なんでこの呪文が使われたって分かったんですか?

疑い始めたのは『樹海に奇妙な跡がある』って情報がきっかけだ

えっ?

――DAY 1「奇妙な人々」――

俺は確かに獣じゃない、おぞましい足跡だって見たんだ

消えたばかりの人間が不自然に目撃されたら、別人が化けている可能性がある。
当然、「噂を聞いた瞬間」から姿を変える呪文は候補にあった

早……

まあ、俺が来るまでの数日に目撃されていたのは嬢ちゃんが[平凡な見せかけ]を使った結果だったわけだが……

……それでも、『この情報』には意味があった

普通の足跡をつけて動き回ることができない『何か』が、樹海に潜んでいる

神話生物ってことですか?

少なくとも、ただの獣の足跡じゃない。……そして、樹海

もちろん身を潜めるのに樹海は好都合だろうが、他に意味はないのか

……?

まあ、こんなことに気づいたのもしばらく経ってからだった。ここに来た当初は、この町に入り込んでいた教団の方に気を取られていたからな

こんな手記を見つけてからは、なおさらだ

……アダムスキーさん、その日記、いつ手に入れたんですか?

アダムスキーは答えぬまま

口の端を上げた。

質問に答――

『アルセニー』は、人を襲おうとした際、反撃を受けると必ず、すぐに逃げた

町人たちの被害も、『気づいたら壊れていた』『窓から見た』なんてものばかりだ。復讐にしてはやることが小さい

そう、かもしれませんね

『怪我を負わないよう、接触を避けていた』……そうは考えられないか?

……?

さっき言いましたよね、[似姿の利用]は死んで間もない人に成り代わるためのものだって

ああ

アルセニーさんが死んでから3年も経ってるんですよね?
[似姿の利用]はさすがに使われてないんじゃ……

ここサスリカの土は永久凍土だ。埋葬には三日かけて掘り返した土の中に埋める必要がある。
その間誰も屍に傷一つつけていない

じゃあ、やっぱり

俺はなにも、『犯人がアルセニーに化けるのに[似姿の利用]を使った』なんて言ってないぜ?

でもさっき、『怪我を負わないよう、接触を避けていた』って……

「[似姿の利用]をよく用いているから、そうでないときも無意識にそんな行動を取ってしまう」
……ってのはどうだ?

?!

あの魔術は、ただの人間の身で何度も用いることができるほど対価の少ない魔術ではない

つまり、『犯人は[似姿の利用]の儀式を何度も行える神話生物の可能性が高い』

神話生物……

これだけなら想像に過ぎないがな

だが、細かなピースを考え合わせると繋がってくる……

出来上がった景色に、組み立てるだけの価値はあった

よくわかりません。さっき言ったことで、何が分かるんですか?

分からないなら、『知らない』からだ

化ける魔術を多く知り、特に[似姿の利用]を用いる、ある動物に似た姿を持つ神話生物の存在を

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