全部嘘だった。はなさんの優しさも玲奈が僕に好意を持っているような素振りも全て、僕を騙す為の嘘。作りものでしかなかった。

 そうだ、今この目を開けば僕が経験した事はひょっとしたら全て夢の中であった事なのかも知れない。そうだ!きっとそうに違いない。

 そう思い目を開くと、僕の前には不安そうにしている瀬戸さんがいた。

 さっき叩きつけた、右手が少し痺れる様に傷む。
 やっぱりあの経験した事は本当にあった事なんだ。

 そう思うと胸を締め付けられる様な感覚に教われ吐き気がした。

 そして僕はいつの間にか喫茶店のソファに寝かされていた事に気付いた。
 起き上がろうとするとさらに猛烈な頭痛と吐き気が襲ってくるのを感じる。

痛っうう、痛てててて

大丈夫?さっきはびっくりしたよ松川君いきなり倒れちゃうんだもの......

やっぱり......夢じゃなかったんだ

 カーテン越しの窓から日差し込む光が少しだけ瀬戸さんの顔を照らし出す。

 わずかに照らされた瀬戸さんの顔は一瞬だけ物憂げな悲しそうな表情を見せながら
でも少しだけでも僕を元気付けようと、空元気とも見えるような言葉使いで小声で言った。

でも、良かった松川君顔から倒れていって頭を打ったから一瞬死んじゃったかと思った

他の奴らは?


 あっ清水君や玲奈、はなさんを奴らなんて呼んでる。僕にとっての彼らはもう知り合いでも、生徒会の仲間でもない”奴ら”なのかな......

松川君が倒れたの自分達の責任にされるのが嫌で、出て行ったよ。松川君は残念だけど彼女達には選ばれなかった

そんな!まさか

松川君には本音で接したいからはっきり言うけど、本当だよ

......

でも、心配しないで!私は松川君の見方、田中さんや梶本さんと違って、他のどの男子でもなく私は松川君を選ぶよ、もし松川君が嫌じゃなければね、だから私の事も選んで欲しいな

 僕はその言葉に目から出る熱い感覚が止めることが出来ることが無理になり
恥かしかったけど瀬戸さんに抱きついて子供の様に泣き出してしまった。

 瀬戸さんは優しく僕の頭を撫でながら、抱きしめ続けてくれていた。
 もうこれでいいんだ、最初から僕はこの人と一緒にいる運命だったんだ。

もう泣かないで!ねっ

ありがとう!瀬戸さん

さっき松川君倒れた時に眼鏡を床に落としっちゃったから拾っといたよ眼鏡掛けた方がいいでしょう?

有難う


 僕は涙でぐしゃぐしゃになった顔を瀬戸さんから貸してもらったハンカチで拭いた後受け取った眼鏡をゆっくりと掛けた。

          あれ??どうして......

どうしたの?

何か変だ、上手く言えないけど

えっどうかしたの?

実は僕先月からコンタクトにしたんだけど、眼鏡はブルーライト専用のに変えたんだ。瀬戸さんの車のなかで居眠りする前描けていた眼鏡は、度が入って無いやつだったんだよね

......

だけど今ここにあるのは、度が入ったやつ。ここにある眼鏡は確かに僕が普段掛けている奴と同じフレームだけど、どうして度が入ってるんだろう。

......

瀬戸さんもちろん僕の眼鏡に何があったか知ってるよね?それともっと気になる事があるさっき、僕の記憶の中で、はなさん達がいたとき全員着ていた服が冬服だったんだ。いくら10月でも全員真冬のコートを着ていたんだよ。よく考えたらおかしいよね?

それは

上手く言えないけどひょっとしてさっき僕が経験したはなさんや、玲奈に酷いこと言われたってのは......う~んでもさっき手を机に叩き付けた傷があるし、気絶して床に倒れこんだから、後頭部も酷く痛いんだよね......こんなにリアルな夢ってあるのかな

信じたく無い気持ちは分るけど、あれは本当に怒ったことだよ。私も一緒に見ていたんだから


 その時、頭上から何か金切り音のようなバリバリという凄まじい音が近づいてくるのが分った。

何だ?あの音?


 喫茶店の窓を開けると、駅のロータリーに一機の真っ黒なヘリコプターが降りてきていたのが見えた。

 確か前に関口から写真見せられた事があるけど、アパッチとか言ってたような、あのヘリコプター。

 ヘリコプターから出てきた人物が目に入ると、僕はさっき感じた衝撃と同じくらいの強い驚きを胸に感じた。

清水!玲奈!はなさん!それとあれ?橋上先輩もいる


 喫茶店のドアが開かれると、清水君と玲奈、はなさん、あと何故か分らないけど橋上先輩も入って来た。

やっぱりここにいたねコーキ!やっと見つけた!

こうくん!良かったあ~心配したんだよ!

松君!

 僕は事の展開を全く読めず、呆然とその場所に立ち尽くしてしまい、何も言葉を発することができなくなってしまっていた。

 その沈黙を破るように瀬戸さんが4人に荒々しく声を掛けた。

よくもそんな図々しい態度が取れるもんだね!恥じというものがあなた達にはないの?


 その言葉を聞き、さっき感じた怒りが体の中から再び吹き上がり、瀬戸さんに対しての疑念を一瞬忘れてしまい僕は近づいてくる清水君達に思いっきり怒鳴ってしまった。

近づくな!何でまたここに来たんだよ!僕をまたからかって楽しもうってのかよ!

どうしたの?こうくん......私達ずっとこうくんの事心配してたんだよ

コーキ!私達が分らないの?何か変な薬でも打たれたんじゃないの?

玲奈はまた僕をそんなふうに馬鹿にして楽しもうってのか?ふざけるな!

何だって!?

梶本さん......ここは冷静にいこう

そうだね、分った!

瀬戸さんというよりか、本名でそろそろ名乗ったらどうだい?松君にもいつまでも偽名で通す分けにはいかないだろう?

ふふふあっははは、凄いね清水海人君、噂どおりさすがというか......恐れ入ったね。まさかこの場所もこんな早くバレるとは思わなかったよ

まあね、でも君みたいな卑怯が服来た人に比べればまだまだだと思っているよ。あと彩備高校の生徒じゃない人が制服着るのはルール違反だと思うけどね、元彩備高の高梨 葵さん

彩備高の生徒じゃない?高梨?って瀬戸さんってまさか

困惑している僕の表情を読み取りはなさんと、玲奈が大きな声で叫ぶように言った。

そうだよ!そこにいる子は瀬戸副部長さんの兄弟なんかじゃないの!

コーキは騙されたんだよ!


 またなの?また、僕騙されたの?でもさっき経験した光景が鮮やかに蘇る。嘲笑気味に薄ら笑いしたはなさんと玲奈、僕が中学の時女子に取られた態度そのままだった。僕は目の前で経験した事が騙されているとは直ぐには信じられなかった。

だってはなさんと、玲奈はさっき僕にこの場所で、今まで僕の事......玲奈は僕の事からかってただけだって言ってたし、石垣島で玲奈からキスしたくせに冗談みたいな感じで茶化したじゃないかよ!はなさんも僕を二次活動に利用する為に好きな振りしただなんていってたじゃんかよ!

え!

うっわ、それ今いっちゃったよ!

玲奈!!今の事どーいう事!本当なの!!!

えっ!いやあのそれは、え~っとお

二人ともその件は後にしてくれないか!

分ったよ~

(後で覚えてろ~玲奈!)

(不味いなああ!はなあの目死神みたい!怖いよ~)

松君恐らく、君の経験した事というのはそこいる高梨さんが松君に意図的に仕掛けを作って見せていたものだと思う

はっ?見せていた?そんな事ができるの?

ああ、多分な俺の勘が正しければ。映像技術に詳しい橋上部長も大方の検討は付きますよね?

そうだね、恐らく資金力があれば人にリアルな映像を現実と思わせることなんて雑作無いことだよ

 そうつぶやくように橋上先輩が言うのを聞き終わると、清水君はいつぞや永田先輩の家で見せた鋭い眼光になり喫茶店の中を隅々まで凝視していった。そして彼の目は店内のある一点で止まり、その方向にゆっくりと歩きだした。

 そして喫茶店のキッチンの裏にあるスタッフルーム前で立ち止まると、そのドアを力強く開け放った。

 そこにはリクライニングチェアと何台ものパソコンが置いてあり、パソコンから出ている何本ものケーブルがゴツイ感じのゴーグルみたいなやつに接続されていた。

やっぱりな、大掛かりなVR設備だ、よくもここまで金を掛けたもんだよ

ぶ、ぶいあーる?って何?

松君、バーチャルリアリティー、仮想現実の映像の事だよ。つまり簡単に言うと、高度な3Dの映像のようなものだ。松君は乗らなかったけど、6月に皆で遊園地に行った時、宙吊り海底コースターがあったのを覚えてるかい?あれはジェットコースターに乗りながら実際には無い映像を見せてその場にいるような錯覚を起こさせるものだが、ここにあるのはそれよりももっと高度なものだ。

でも、僕にはこんな装置に座った記憶が無いんだけど

よく思い出してごらん?彼女に背を向けた時とか何か無かったかい?

あっ!そういえば!


学校に止めてあった瀬戸さんのリムジンに乗り込んだ直後からの記憶が無い。そうかそう言う事だったのか。

松君は恐らく高梨さんのリムジンに乗り込んだ後隙を付かれて、後ろからそこにいる高梨にスタンガンか何かで意識を失わされた後、ここに運びこまれたんだ、そしてこのRV装置に寝かせられずっとその映像を見せられていた

だから、さっき起きた時気持ち悪かったのか。おえ~~今更だけど気持ち悪~

そして、学校の裏口の駐車場の近くにこれが落ちていた


そう言って清水君が手渡したのは壊れた僕の眼鏡だった。

恐らく松君を拉致した時、眼鏡を壊してしまったんだろう。松君が度が付いていない眼鏡を掛けていたことを知らない君は、恐らくそれを知らずに度がついた眼鏡で同じフレームのものを購入し彼に手渡したんだろう?ずさんな計画だな。しかも君の行った行為は法律に抵触する行為だ。日本へ帰ったら警察に出頭することになるよ

そんな脅しには乗るとでも?あなたも私と同じグレーゾーンで生きてるから分るだろうけど、私は政治家高梨修一郎の娘、治外法権っやつ。つまりあなた方には私には指一本触れる事はできない。しかも私は高梨修一郎の娘っていうだけじゃないの、議員秘書のパスポートを持つ私は外交官特権を行使して、日本へ帰らなければ捕まることは絶対無い!

えっ?日本へ帰らなければ?何言ってるの?

こうくん、今私たちがいる場所は日本じゃないんだよ

えっどこなの?

......マレーシアだよ。ちひろちゃんが高梨さんが持っていたバッグのブランドの名前覚えててね、そのブランドがマレーシア産だって玲奈が知ってたんだ。そこから笹村先生のツテも使ってここだって分ったんだよ

えええええええ!

この喫茶店よく出来ているでしょう?ヘリでここまで来た時、外国なのに越谷駅前が突然見えた時はびっくりしたんだから

  って言う事は、知らない間に外国へ来ているっていうかラチラレテいたんですね。

 その時僕のの背後で冷たい何かが首筋に押し付けられたのを感じた。首先を見るとそれは包丁、僕はいつの間にか高梨さんに背後に回られ包丁を突きつけられている、うわ!非常事態じゃんかよ!何僕は冷静に解説してるんだよ!どうしよ~!!

その時傍にいた橋上部長が眼光するどく力強く高梨さんに言葉を投げかけた。

いい加減にしなさい!葵!

鬼ガミ!あなたは私の生徒会役員選挙の活動を妨害するだけでは足りず、また生徒会と一緒になってこの私を妨害する気!なんの権限があって私を妨害する!

当たり前でしょう!葵、あおちゃん......あなたはたった一人の私の妹なんだから

そんな嘘に騙されるか!私は施設で育った、選ばれなかった子供だって。だから義父に感謝しろと言われ続けながら育てられてきたんだ

ごめん......葵。お姉ちゃん、妹であるあなたがどこにいるのか最近まで、分かってなかったんだ。でもここにいる清水君と外で待ってる笹村先生に教えられて初めてあなたが実の妹なんだって分ったの

......

私は......私自分でジャーナリストになって世の中を良くするんだなんて正義感ぶってたけど、自分の妹一人救えてなかった。あなたは自分が橋上の家から排除されたと思っているかもしれない。でもそれは違うんだよ

何が違う!私は選ばれなかった、捨てられ追い出されたんだ!その辛さがあなたに分かるの!

高梨家は代々女系家族でね。もし、女子がいない場合、養女をまず迎え入れ、親戚の男子で優秀な者と結婚させる。高梨修一朗には娘がいたけど折り合いが悪くなって出ていってしまったんだよ

私とあなたの父親、橋上秀夫は昔高梨修一朗の秘書をしていたの。自分の上司から養子縁組みを持ちかけられた父は最初は断っていたけど、断れなくなり私かあなたどちらかを差し出さなくなければならなかった。私は当時、持病の喘息が酷くて高梨は健康な生まれたばかりのあなたを選んだ

......

もっと早く、気づいてあげるべきだった、そうできなかったばかりにこんな......ごめんね

う、うるさい!わ、私は政治家高梨修一郎の娘!副首相の娘だ!私は自分の意志で松川君を選択する!誰にも邪魔させない!

高梨さん、そんなのは選択でもなんでも無い。自分勝手な押し付け以外の何物でもない!そんな独りよがりな強がりがいつまでも続くと思っている?甘いよねあたなって


何を言う梶本!あなたも松川君を田中から横取りしようといろいろ画策してきじゃない、そんな事言われる筋合いは無い!


くっ、そう、ここまで残念な人じゃしょうがないよね、分った

そういうと、玲奈はノートパソコンを広げウェブニュースの動画を再生した。

次のニュースです、参議院 は今日14時 高梨修一郎副首相に対する 逮捕許諾請求を可決しました。高梨大臣は以前から贈収賄容疑について一環として否定をしていましたが......

え!そんな馬鹿な.....

高梨さん、あなたの特権を与えてくれる後ろ盾は無くなったよ。どうする?

そう、もうだから......こんな事やめて......葵ちゃん。橋上の家に戻って


 橋上先輩が泣き崩れると同時に高梨さんの手から刃物が力なく床に落ちる。清水君がその刃物をそっと拾い上げるのを見届け僕はその場でがっくりと膝をついて座り込んでしまった。

それから、僕達は橋上先輩と高梨さんを二人きりにして喫茶店から外に出た。
僕達は越谷駅によく似せてあるハリボテの街を出てしばらく辺りを散策した。

しかし、よくこんなもの作る気になるよなあ、信じられない!

まあ、それだけ松君が大金を掛けても良いって思われていたって事だよね

いやそれにしてもおかしいでしょう?

人の欲望は単純なものばかりじゃないからね。それは俺にも言えることかも知れないけど

......

松君、ひとつ頼みがあるんだけど

分ってるよ。僕は高梨さんとここに自分の意志で来た。それでいいんでしょう?

済まない。橋上部長にここに来る前頼まれてね

まあ、彼女もこれから父親があんなことになったから大変だろうしね」

......

まっまさか!!

清水君まさか、あのウェブニュースは!

清水君はいつもどおり唇を片方にや付かせて何も言わない。

「コーキごめんね、でもああいう状況になる事は少なからず予想していたんだ。だからそのための保険は用意しておいたほうがいいかなあと思ってさ。それにあっちが最初にコーキを騙したからこのくらいのお返しは許されるって清水君やはなあと笹村先生も許可をくれたの」

 慌ててさっき視たウェブニュースを再度再生してみる。
「あああ!」

 やられた。よく見ると、ニュースのアナウンサーの顔に見覚えがある。瀬戸副部長だった。

こうくん、酷い目にあったよね。やっぱり高梨さんの事許せないよね

はなさん、もういいよ。彼女も僕と同じで歪んだ家庭で育った犠牲者だと思うから

松川君!さすがカッコいいね~モテル人は違うね~

あっ笹村先生いつのまにっていうか先生ヘリコプターの操縦なんてできたんですね

まあね~うちの実家が武道修練所とスタントマンの養成所みたいなとこ兼ねているからね~私も若い頃はかなりやんちゃでしたからいろいろやったよ

今でも見かけは中学せ

あ”っ?何か言った清水海人?

まあまあ先生、ここにいるゲス海の事の言う事なんか気にしないで下さいね

でも、あの二人上手くいくかな?姉妹ってただでさえ難しいところが結構あるのに......私のところみたいに

まあ信じようよ

そうだね


 ハリボテの街を出るとそこはのどかなスリランカの田舎街の田園風景が広がっていて、農家の人が忙しそうに農作物の刈り取りの作業をしていた。

 2時間くらい散策をしてハリボテの越谷の街に戻ると、橋上 綾乃、高梨 葵の姉妹は僕達に深く頭を下げて謝ってきた。
 
 困ったことに高梨は泣きながら僕に抱きついてずっと謝り続けていたことだ。後ろから二人の怖いオーラを感じる。ああ怖い~。
 

 その日の午後、僕達は梶本家のプライベートジェットの乗り込み帰国した。
 ジェットの中でいろんなことを考えた。

選ぶ、選ばれるか

そうだね、選択の問題だね

うわっまたいきなり背後から。まあもういいか。そうだね

まあ、まだ時間は少しだけどあるから良く考えるといいよ松君

そう言ってもらえると助かる

俺も例外じゃないからね


理由が分らないけどその言葉の後が聞けなかった。

ところでさあ~こうくん?あと玲奈さん?ちょっと聞きたい事があるんだけどお?

ああああああああ~裁判が始まるよ!!

僕はいつの間にか入国していたスリランカの観光を楽しむことも無く日本に戻った。羽田空港に着いた後が大変だった、僕は出国手続きを取っていなかったらしく、パスポートには日本出たことを証明する判子が無かったので、僕だけ荷物室にあった機材コンテナに入り込み機材として日本に密入国した、トホホホ...

 こうして橋上 綾乃先輩の件は僕の首筋にうっすらとした電撃跡を残してクローズとなった。
 

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