学校が終わった夕暮れ時、明彦はインコの入ったゲージを手に帰宅した。

明彦

ただいま

 そう言っただけで幼い弟妹が駆けて来る足音がする。
 この後の事を考え、明彦は肩に掛けていた鞄とインコの入ったゲージを玄関先に下ろした。

???

おにーちゃんだわーい!

???

おかえりおにーたん!

 嬉しそうに駆けてきた小学校3年の弟、良彦(よしひこ)と小学校1年の妹、陽菜(ひな)が両側から明彦に抱き付く。
 明彦も同じように笑顔でそれを受け入れながら、もう一度言った。

明彦

ああ、ただいま

 そんな明彦の様子に更に嬉しそうな表情をした弟妹だったが、何かに気付いたように兄から離れた。

 2人の視線が捉えていたのは明彦が先程下ろしたインコの入ったゲージ。
 普段家で見る事の無いインコが珍しいのだろう。

良彦

あれ、おにーちゃん。
その子なぁに?

陽菜

かわいーね!

 不思議そうに・・・だけど嬉しそうに尋ねてくる弟妹を微笑ましく思いながら紹介してやる。

明彦

ああコイツはインコのマル。

旅行に行く友人から預かったんだ。
3日間だけだが

 明彦の言葉に賢いインコのマルが反応する。

マル

ヨロシク、ヨロシク

 そんなマルを見て弟妹達は更にはしゃぐ。

良彦

わーい本当?

陽菜

あたしもお世話頑張るよ!

 白峰家はペットを飼っている家では無く、誰一人欲しいと言った事も無い。
 小学生の弟妹は余計に好奇心を刺激されたのだろう。

明彦

そうか、ありがとな。
じゃあまずはエサやりからだな

 明彦は弟妹の頭を撫でてやりながら友人に教えられた餌量を思い浮かべた。
 それから餌入れに自ら出して見せる。

明彦

この量をしっかり見てあげるんだ。
間違えないようにな

陽菜

うん!

良彦

わかった!

 笑顔で答える2人の頭を再び撫でた明彦は、マルの世話を弟妹に任せる事にした。

 インコの世話の基礎を教え込み、それから留守番を頼んで家を出る。
 当然その目的地は・・・隣の彼女の家であった。

 結月の家での勉強会を終えて帰宅した明彦は家のドアノブを捻るが、未だ鍵が掛かっていた。

明彦

父さんと母さんはまだか

 そう思いながら鍵を開けて家に入るが、弟妹の駆けて来る足音はしない。

明彦

これは・・・寝てるか

 そう考えながら廊下を抜ければ予想通り。
 突き当たりの部屋で仲良く隣に並びながら、良彦も陽菜も寝ていた。

良彦&陽菜

すーすー

 静かに布団を掛けてやりながら呟く。

明彦

・・・ユズの家から戻ったらインコと遊び疲れて寝てるとは。
やっぱり子供だな

 そうして微笑んだ時。

マル

アキニイチャン、アキニイチャン

 聞こえて来た高めの声に思わずゲージを振り返る。

明彦

何だ、マル?

 声には出さないが不思議に思い、円らな瞳を見つめる。
 しかし続くマルの言葉に無言ではいられなくなった。

マル

ユズチャンノコトスキ?

明彦

ぶっ!

 不意打ちの・・・しかも予想外過ぎる言葉に驚いて思わず呻く。

明彦

良彦と陽菜は一体何を覚えさせてんだ!

 思わず寝ている弟妹に視線を向けながら・・・1人で赤くなったり青くなったりしてしまう。
 そんな明彦に対し、更にマルは繰り返した。

マル

ユズチャンノコトスキ?

 続けられれば慣れてくる。

明彦

ったくしょうがないな

 思わず溜息を漏らすが・・・全く起きる気配の無い弟妹達から視線は外し、マルへと戻す。

 そして明彦は・・・苦笑交じりに答えた。

明彦

・・・ああ、好きだよ

 静かに・・・そして大事に繰り返す。

明彦

・・・大好きだ

そうして珍しく浮かべた笑顔は・・・マルと明彦の秘密になった。

#1 fin

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Until next time!

#1 うちの子がインコを飼ってみた『白峰明彦《オタク彼女の面倒彼氏》編』

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