お客様

ちょっと、コレ見なさいよ!!

お客様

今日はピーマンが六十円の日でしょ!? 話が違うじゃない!!

申し訳御座いません……ですが、そちらの商品は三時からのタイムセールでして

お客様

そうなの? ……って冗談じゃない! だったら返金して頂戴よ、そのお金でまた買ってやるんだから

は、はい。かしこまりました! 少々お待ち下さいませ!!

バイト君

店長のタイプって、ぶっちゃけどんな子なんスか?

店長

清楚系から不思議ちゃん、森ガールでも海女さんでも、フィギュアみたいに可愛い子だったら誰でも良い!!

 結局お客様は、俺がご返金した後にまたピーマンを買い、鼻歌を歌いながら去って行かれた。

 ……いるんだよなぁ、来てはちょくちょくいちゃもんつけてくる人。

赤ずきん

まぁまぁ狼さん、そんな不機嫌そうな顔しないで

でも、あの人来る度にいちゃもんつけてくるし、不機嫌そうだし……その割に、何食わぬ顔でこの店に何度も来るし、一体何なんだろうなって

赤ずきん

ねぇ狼さん、昔の自分を思い出してみて

昔の、俺?

赤ずきん

彼女さんの前で意地張ってた頃の君、何だか常にイライラしてなかった?

ああ、うん……

あの時は、何度も横柄にしてかっこつけてたのに、彼女はその度にどんどん僕から離れて行って……それが更にイライラしていたんだ

赤ずきん

そうでしょ? そんな感じでさ、普段から悩み苦しんでる人が沢山集まるのが、飲食を提供するお店なんだよ

ふむ……

赤ずきん

私だって、安いと思ってたものが安くなかったらショックだし、ちゃんと言いに行くよ? でも、これだって本当は凄く勇気がいることなんだよ。店員さんに嫌な顔されないかな? とか、お客さんに変な目で見られないかな? とか

そうなんだ……

赤ずきん

でもね、私思うの。お店来てカリカリしてる人って、本当は何か嫌なことがあったんじゃないかとか、悶々と毎日を生きているとか。そんな中でも、うちの店を選んで来てくれるのがあのお客さんなんだよ? それも何度も

赤ずきん

だからきっとね、彼女はこの店が好きなんだよ。何だかんだ言っても、つい足を運んじゃうんだよ。だから、もう少し受け止めてあげようよ

……うん!

お客様

これお願い

赤ずきん

かしこまりました。……あら? 素敵なイヤリングしてらっしゃいますね

お客様

分かる? 彼から貰ったのー。ごめんなさいね、彼氏のいないお嬢さんにひけらかすみたいで

 あれ、気のせいだろうか。今、赤ずきんの頭ら辺から何か音がしたような。

赤ずきん

いえいえ、本当に素敵なイヤリングですよー、まさかデパートで売ってた五百円のものとは思えません

お客様

え、嘘よ。だってこれ、彼が何十万もしたって

赤ずきん

そんなはずありませんよ。だって、これ

赤ずきん

私も持ってますから。勿論、デパートで買ったものですよ

お客様

に、似たような物でもこれは違うの!

お客様

……違うのよ

あの人、意地張ってるけどちょっと辛そう

赤ずきん

……違いますよ

お客様

アンタ、まだ言う気――

赤ずきん

お客様の付けているイヤリングは確かに高級品ですよ。こっちは似せただけの安物ですから

お客様

ど、どうしてそうだと言い切れるのよ

赤ずきん

私のイヤリング、実はメーカーが「Nantyatte(なんちゃって)」なんですよ。そっちは「Nosutalgia」でしょう?

お客様

そうだったの……

赤ずきん

本物のイヤリングをくれたんです。きっと素敵な人なんでしょうね。だから、そんなカリカリせずに、お相手さんのこと大切にして差し上げて下さいね

お客様

……

お客様

ええ

お客様

美子(みこ)、これ見たかい!? ピーマン安かったのって、三時以降だったんだって。ごめんね、見落としてたよ

お客様

バカ、泰彦(やすひこ)! そんな大声出さないでよ。それより、返事受けるわ

お客様

へ、返事ってもしかして……

お客様

……貴方に告白されてから、ずっとずっと一人で悩んでた。貴方の愛が本物なのかって。それでずっとイライラだってしてたのよ

お客様

そ、そうだったのか。悩ませてごめんね……

お客様

実は、貰ったこのイヤリングも偽物なんじゃないかって思ってたの。でも、これが本物だって分かった

お客様

……結婚、してくれるのかい?

お客様

はい!!

 それから、僕らだけでなくお客様も巻き込んで拍手をすることとなり、二人は幸せそうに帰って行かれた。が。

やったじゃん。赤ずきんのお陰で二人が結ばれたんだよ

赤ずきん

まぁ、嘘をつくのは良くないからね。けれど

赤ずきん

この借りはいつか絶対返してもらうけどね

 よく分からないけど、あのお客様には絶対にこの店に来てほしくないと感じた俺であった。

47・怒る! スーパー感情迷路

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