―五分後―
こんにちは、ポイントカードお持ちでしたか?
おうおう、持ってるぜ
……ちょっと待ってくれ
はい、良いですよー
―五分後―
これお願い……あら、先客?
お客様、宜しければ此方でお会計どうぞ
そう? 彼女と話したかったんだけどーまぁいっか。お願いします
赤ずきんの方が長引きそうだったので、俺は彼女のレジに休止中の看板を立てて、次の女性の会計を受け持つ。
……無ぇな。嬢ちゃん、すまないけど次来た時入れてくれ
大変申し訳御座いませんが……ポイントカードにポイントを入れられるのはお会計の間だけになるんです
ああっ!? 何でだよ!!
うっそ、あのお客様って赤ずきんに対しても怒るんだ。てっきり女性には甘いもんだと思ってたけど……。
あっちのレジ、ガラ悪い客ね。何か少し前の私と被って胸が痛むわ。前はごめんなさいね、酷い態度取って
いえ、良いんです。俺、昔やんちゃで、凄く店員に横柄な態度取ったことあったりして……でも、その人に最近許してもらえたんです
そう。お互い、人の振り見て我が振り直せだったのね
あのなぁ、ポイントカードは会計中なんて聞いたこともねぇぞ!
恐れ入りますが、このレジの下に太字で書かれているPOP(ポップ)が、その説明文で御座います
訳:ポイントカードはお会計中にお出しください
チッ! この野郎……
あの、もしもう一度ご来店されるようでしたら、この会計保留にかけておきますよ
俺が暇人に見えるってのか!?
ですがお客様、確か昨日は、「明日は休日だ」と仰ってましたよね?
チッ! チッ!!
待ってますよ、何時までも
あーめんどくせぇなぁ! もう良い、そのまま会計しろバカ
かしこまりました。でも大丈夫ですか?
あんっ!?
お客様の大好きな人が、ポイントカードを貯めるのが趣味なんでしょう?
だから怒ってんだろうがよ、それがわかんねーとか頭おかしーのか?
ですからきっと、悲しむだろうな。ポイント入ってない上に、怒っているパパを見るのは
パ、パパ……
うさぎ、どうして此処に……!?
お父さんに……これ届けに来たの
スーパー赤ずきんのポイントカード
でも、パパなんて嫌い!! ポイントだって要らない!!!
……
赤ずきん!! テメェの所為で――
俺と赤ずきん、そして男性のお客様が驚いていた。それもそうだ、なんせ、俺が応対していた女性のお客様が男性の肩を叩いたからだ。
アンタいい加減気づきなさい。彼女が大好きなポイントカード持って帰った理由分からないの? アンタの顔を少しでも立てようとしたのよ
む、娘がそんなこと……
するわけないって? 随分冷たいのね。でも多分、この後アンタがすぐに悪いことしたって気づいて謝るのを、きっと外で待ってるわよ
……
あ、あの。私は別に大丈夫なので……
ちょっと待っててもらえるか
そう言うと、男性のお客様は外を出ていってしまった。それを呆れるように女性のお客様が見つめる。
赤ずきんはと言うと、会計に保留をかけ、次のお客様を呼ぼうとしていた。だが、俺はレジ休止中の看板を再度置いて首を振る。
どうしたの?
あっちのお客様すぐ戻ってきそうだし、少しの間くらいお会計俺がやっとくから。あ、ほら、来た来た
俺が指さした先には、娘さんの手を引いた、男性のお客様の姿があった。二人は赤ずきんのレジの前に来ると、男性のお客様が深々と頭を下げる。
すまなかった。だから……
大丈夫。お気持ちだけで十分ですよ。
ね、ポイントカードくれる?
う、うん
私もしょっちゅう、ポイントカード無いと悔しーっ! ってなるのよ!!
けど、悔しいのは誰の所為でもない。忘れた自分の所為なのよ。だから、怒りをぶつけるべき本当の相手は、自分なのよ
うん、私もそう思う
ねーっ
……参ったな
本当に、すまなかった
いえいえいえいえ! とんでもないです
あ、でしたら、仲良しの握手しましょ!
お、おう……
こうして、親子は手を繋いで笑顔で帰って行かれた。それを見届けた女性のお客様も満足げに帰って行かれる。その三人を、俺達は頭を下げて送り出した。