赤ずきん

こんにちは、ポイントカードお持ちでしたか?

お客様

おうおう、持ってるぜ

お客様

……ちょっと待ってくれ

赤ずきん

はい、良いですよー

―五分後―

お客様

これお願い……あら、先客?

お客様、宜しければ此方でお会計どうぞ

お客様

そう? 彼女と話したかったんだけどーまぁいっか。お願いします

 赤ずきんの方が長引きそうだったので、俺は彼女のレジに休止中の看板を立てて、次の女性の会計を受け持つ。

お客様

……無ぇな。嬢ちゃん、すまないけど次来た時入れてくれ

赤ずきん

大変申し訳御座いませんが……ポイントカードにポイントを入れられるのはお会計の間だけになるんです

お客様

ああっ!? 何でだよ!!

 うっそ、あのお客様って赤ずきんに対しても怒るんだ。てっきり女性には甘いもんだと思ってたけど……。

お客様

あっちのレジ、ガラ悪い客ね。何か少し前の私と被って胸が痛むわ。前はごめんなさいね、酷い態度取って

いえ、良いんです。俺、昔やんちゃで、凄く店員に横柄な態度取ったことあったりして……でも、その人に最近許してもらえたんです

お客様

そう。お互い、人の振り見て我が振り直せだったのね

お客様

あのなぁ、ポイントカードは会計中なんて聞いたこともねぇぞ!

赤ずきん

恐れ入りますが、このレジの下に太字で書かれているPOP(ポップ)が、その説明文で御座います

訳:ポイントカードはお会計中にお出しください

お客様

チッ! この野郎……

赤ずきん

あの、もしもう一度ご来店されるようでしたら、この会計保留にかけておきますよ

お客様

俺が暇人に見えるってのか!?

赤ずきん

ですがお客様、確か昨日は、「明日は休日だ」と仰ってましたよね?

お客様

チッ! チッ!!

赤ずきん

待ってますよ、何時までも

お客様

あーめんどくせぇなぁ! もう良い、そのまま会計しろバカ

赤ずきん

かしこまりました。でも大丈夫ですか?

お客様

あんっ!?

赤ずきん

お客様の大好きな人が、ポイントカードを貯めるのが趣味なんでしょう?

お客様

だから怒ってんだろうがよ、それがわかんねーとか頭おかしーのか?

赤ずきん

ですからきっと、悲しむだろうな。ポイント入ってない上に、怒っているパパを見るのは

パ、パパ……

お客様

うさぎ、どうして此処に……!?

お父さんに……これ届けに来たの

スーパー赤ずきんのポイントカード

でも、パパなんて嫌い!! ポイントだって要らない!!!

お客様

……

お客様

赤ずきん!! テメェの所為で――

 俺と赤ずきん、そして男性のお客様が驚いていた。それもそうだ、なんせ、俺が応対していた女性のお客様が男性の肩を叩いたからだ。

お客様

アンタいい加減気づきなさい。彼女が大好きなポイントカード持って帰った理由分からないの? アンタの顔を少しでも立てようとしたのよ

お客様

む、娘がそんなこと……

お客様

するわけないって? 随分冷たいのね。でも多分、この後アンタがすぐに悪いことしたって気づいて謝るのを、きっと外で待ってるわよ

お客様

……

赤ずきん

あ、あの。私は別に大丈夫なので……

お客様

ちょっと待っててもらえるか

 そう言うと、男性のお客様は外を出ていってしまった。それを呆れるように女性のお客様が見つめる。

 赤ずきんはと言うと、会計に保留をかけ、次のお客様を呼ぼうとしていた。だが、俺はレジ休止中の看板を再度置いて首を振る。

赤ずきん

どうしたの?

あっちのお客様すぐ戻ってきそうだし、少しの間くらいお会計俺がやっとくから。あ、ほら、来た来た

 俺が指さした先には、娘さんの手を引いた、男性のお客様の姿があった。二人は赤ずきんのレジの前に来ると、男性のお客様が深々と頭を下げる。

お客様

すまなかった。だから……

赤ずきん

大丈夫。お気持ちだけで十分ですよ。

ね、ポイントカードくれる?

う、うん

お客様

私もしょっちゅう、ポイントカード無いと悔しーっ! ってなるのよ!!

お客様

けど、悔しいのは誰の所為でもない。忘れた自分の所為なのよ。だから、怒りをぶつけるべき本当の相手は、自分なのよ

うん、私もそう思う

お客様

ねーっ

お客様

……参ったな

お客様

本当に、すまなかった

赤ずきん

いえいえいえいえ! とんでもないです

赤ずきん

あ、でしたら、仲良しの握手しましょ!

お客様

お、おう……

 こうして、親子は手を繋いで笑顔で帰って行かれた。それを見届けた女性のお客様も満足げに帰って行かれる。その三人を、俺達は頭を下げて送り出した。

45・忘れた! スーパーポイントカード

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