能美の手から溢れるように流れ出す水色の光に思わずオレは目を細める。
光は帯状に曲折しながら蘇芳の体を取り囲むように集まると、さらにその鮮やかさを増していく。
今、能美がクロノスの力を使って、蘇芳の体に、いや、正確には蘇芳の記憶に何をしているのかということを想像するとぞっとした。
人から母親に関する正の感情を奪ったらどんなことが起こるのだろうか。
どんな人間でも誰かに愛されて生まれてきたはずなのだ。
もしかしたら母親ではなくて父親かもしれない。
名付け親かもしれない。
育ての親かもしれない。
近所のおばさん、おじさんかもしれない。
それが誰であれ、人は誰かに愛された記憶を持っているはずなんだ。
オレにとっては、記憶もなく、身元も不明なオレを、名字がたまたま一緒で、知り合いの医者から頼まれたという理由だけで、
もしくは仮に裏である種の報酬を受け取っていたとしても、そんな可能性をひっくるめても、差し引いても、それでもオレを家に置いてくれた、帰る場所をくれたヒサがそうだ。
あるいは、初めて以前の“俺”を知っていると言ってくれ、それに便乗して嘘をついたオレを許してくれた、オレを待っていると言ってくれた、“幼馴染”の緋瀬がそうである。