アルコールで自分を慰めるような友人だったんだ。ビールが三度の飯よりも好きでさ

ビールのつまみにビールを飲みたい、そんなことを口癖のようにいつもつぶやいていたよ

こいつの命日になると、俺は毎年ビールを奢ることにしているんだ。未成年だけど、死後にお酒を飲んだって法律違反じゃないだろ?

こうやって、夜闇の中だと君の位置からはよく見えないかもしれないけど、俺は彼に

小便ですよね?

ん?

かけてるの小便ですよね?



丑三つ時のお墓から、過去をやり直していく話。

墓標に立ちションしてますよね?

ふ、不謹慎な!!

不謹慎で不衛生ですね

そんなに離れた位置から断言するのか

確かにこんな真夜中だと視覚はあまり働きませんが、においは暗闇でも伝わってきますし

今臭いで判別したと言ったのか?

そ、そうですけど

君は自分以外の人間の小便の臭いを嗅いだことはあるのか

あるわけないじゃないですか

なのにどうして小便の臭いだと判別できたんだ

あの、何を言いたいのでしょうか…

つまり、こういうわけだ

”私は、私が生まれてから垂れ流してきた汚水の臭いと一致する臭いを、あなたに見出しました”

!?

俺の小便の臭いと、君の小便の臭いが同じだと言いたいわけなんだな?おそろいだというわけか!!!

き、気持ち悪い!!

そもそも、手にビール瓶も缶も持ってないじゃないですか!ここからでもそれくらいわかりますよ

じゃあ何を持っていると思ったんだ

えっ?

臭いだけが判断材料ではなかったということだろう?

君は俺の手にしている何かを見て、墓標にかけた液体がビールではなくて小便だと主張するのなら、俺が手に持っていたものは何だと思ったんだ?

べ、べつにここからじゃ、遠いですし…

何だと言うんだ?

月明かりくらいしかないから暗いですし……

さぁ、答えよ!私が今持ってるこれは!

えっ!今も持ってるんですか!

さぁ!!さぁ!!!

と、とにかくビール瓶はここから見えないほどそんなに小さくありません!!

…………………………………………

まだ持ってるならしまってください

…………………………………………

気絶してませんよね?先にセクハラしてきたそっちが悪いんですからね

…………………………………………

というか、墓標に小便してたあなたがわるいんですよ

自分が何をしたかわかってます?どれだけ心の闇抱えてるんですか

私が大声をあげて人を呼ばないだけありがたいと思ってください

今のあなたを見て、あなたの全てが異常だとは思いません。私だって心が苦しい時に、理性の欠片もない悪い行いをしたこともあります

悪いことをしても心が満たされないということもわかってます。今日のあなたが異常な人でも、明日には友人を笑わせる人間に戻っているということも想像してあげます

あなたの気持ちも少しはわかります。だから今日はもう帰って……

立ちション趣味あるんですか!?えっ!?えっ!?

自暴自棄になる気持ちのことです!!どんだけ変態趣味に食いつきいいんですか気持ち悪い!!

それにしても、惜しいな。今日がスーパームーンだったら、もっと明るかった。君も私に生まれつきついているビール瓶の大きさにさぞ驚いていたと思う

何を今更見栄張ってるんですか。というか認めましたね。見栄をはるためにわかりづらい例えを用いながら小便かけてたこと認めましたね

男は狼だというし、狼人間は月明かりを見ると狼になるというが、女性は月の日に限って交尾ができないという矛盾についてどう考える?

私が今考えていることは、綺麗な夜空の下でこんなにも気持ちの悪い男が立っている世界の矛盾についてだけです

君こそ、どうしてわざわざ丑三つ時にこんな墓地で露出プレイをしようとしたんだ。制服の上にコート一枚では冬の寒さに火照りも冷めてしまうだろう

しようとしてません!

律儀に会話に付き合っているのが不思議に思えてきました

こんな時間に自分以外の人がいて俺も内心びっくりしたよ。おかげで漏れそうだった

立ちションはしてましたけどね

してない!!

まだ認めないんですか。さっきの友人のエピソードだって全部即興の妄想じゃないですか

あれは本当だ。ただ、本当は小便が好きな友人だったんだ。ただその事実をありのままに女性に伝えるというのは亡き友人に悪いと思って、ビールという文字に置換していただけなんだ

何をめちゃくちゃな。ありのままを告げたらどうなっていたと思いますか

どうなってただと?

小便で自分を慰めるような友人だったんだ。小便が三度の飯よりも好きでさ

小便のつまみに小便を飲みたい、そんなことを口癖のようにいつもつぶやいていたよ

こいつの命日になると、俺は毎年小便をかけることにしているんだ……

ってになんてこと言わすんだ///痴女か!!

小便かけてた部分は本当ですね

だから何を根拠に

その墓標にかかれている名前見てみてください

……見た

どんな名前でした?

女性の名前だな

友人を男性であることを前提として話していましたよね

そうだったかな。どうだったかな。こうだったかな

というか、そこから名前が見れるなら俺のアレも本当は見てたんじゃないか?

それは見てません!

…………

チッ

どうして今舌打ちしたんですか!あなたこそ露出狂なんじゃないですか

墓標に小便かけるのは犯罪ですよ。もっと後ろめたそうにしたらどうですか

墓標に小便かける精神状態の時点で、もう底なしの状態にいってるのを承知して欲しい。かけてないけど

犯罪者になるほどつらい目にあったから犯罪するのを許してくれってかなりおかしなはなしですよ

むぅ……

かわいくないです。もう見逃してあげますから去ってください

去ったあと警察に通報しないよね?

こんな時間にお墓に訪れるほど私も世界に失望しているので、世界がどうなろうが知ったこっちゃありません

墓標に小便かけるほど俺も世界のこと知ったこっちゃない。かけちゃいないけど

お墓は手始めなんじゃないですか?そのうち無差別小便かけ魔になって逮捕されてしまえばいいんです

そんな発想が……

え、ちょ、本当にやんないでくださいよ

世界に関心がないんじゃなかったのか?

…………

世界に未練たらたらなのを無関心って言い聞かせてごまかしてる乙心くらい読み取ってほしいです

俺だってそうだよ

…………

俺だって、乙女だよ

えっ、そこが同じなんですか

というか、そっちこそ去らないの?

はて

こんな時間にお墓うろついているがいるだけで怖くない?

大丈夫ですよ。だってこんな時間にお墓にうろついてるんですよ?

ん?

そんなの、幽霊に決まってるじゃないですか

ニヤニヤ…

(えっ?どういうこと?この人怖い)

触れようにも触れられないんですもん。掴もうが殴ろうが

スタスタ…

(あれ、俺幽霊だと思われてる?)

(たしかに卓球部の幽霊部員ではあるが)

(A.幽霊だから殴ろうがかまわない)

(B.卓球部員の幽霊部員だから殴ろうがかまわない)

(多分Aの思考回路だろう。Bなら人間として最悪だ。いずれにせよ俺は殴られそうになっている)

というか、普通幽霊であること自体に恐怖を感じないか?幽霊と生者間で暴力が通じる通じないの話の前にさ

何をしても何も起こらないから何をしてもいいって最低の贅沢ですよね

ちょ、うわ、近い近い!怖い

えへへ。何してみようかな

落ちつけ!!卓球部員は触れられるし痛覚もある!!

あ、当たり前じゃないですか!何を馬鹿にしたようなこと言ってるんですか!!

気づいてくれたか!!よかった!!さぁその拳を下ろ…

か、身体つきでわかるものなんですかね…でも私途中で部活行かなくなったし…もしかして雰囲気とか…

ん?

べ、別に卓球だっていいじゃないですか!バドミントンをやるだけが女の子の全てじゃないですよ!!

(卓球部員だったのか…しかも幽霊部員の)

思いっきり頭にスマッシュ打ってやります

ちょ、うわ、落ち着け

全国の幽霊卓球部員に謝罪して下さい

鏡に謝ればいいのかな!?っていうか足元!!

足元?注意をそらそうとしても無駄ですよ。幽霊に足がないっていうのはある時期を境に流行り始めた演出なんだそうですよ

幽霊なら蹴ろうが踏もうが……

ビチャッ

あっ

…………

大丈夫。大丈夫、大丈夫。

…………

だってそれ、ビールだから。あんたが今踏んでる液体

…………

ビールだから。ビールだと思えば、ビールだから……

…………

うん。雨水だって元はくじらや人間のおしっこが蒸発したようなものだしね

まぁ、どっちにしろそれビールだからね。雨水を濾して水にして、麦とか使って発酵させたビールだからね

だから、ビールももとをたどればおしっこみたいなものなんだ。ビールを飲んだ人間が放尿して生まれた雨水によってできたビールだから。うん、ビールも、ビールに似た液体も、ビールなわけだ。

…………

さっ、そろそろ帰ろうか。丑三つ時ももう過ぎた。昼夜逆転した幽霊部員もお家に帰る時間だよ

ということで、さよなら。ビールを踏んだお嬢さん

ちょっと

おっと?

ドグッ!!

いてぇええええええ!!!!

いたぁあああいいいい!!!!!

ちょっと!!なんで殴れるんですか!!しかも硬い!!

俺ただの幽霊部員だからね!!幽霊部員も頭蓋骨はかたいからね!!まぁあんたも幽霊部員だけど……っていてぇえええ!!!!

馬鹿にしないでださい!!しかもまた痛いです!!

そりゃあお前が殴って来るからな!!右の頬をうたれたら左の頬をさしだすまでもなく、殴った方の拳も痛いからな!!

うぅううう、もう帰ってください!!!

帰るわ!!!あんたも露出仲間と遭遇しないように気をつけるんだな!!

あなたといる以上に危ない目になんてあいません!!

そりゃどうも!!小便踏みつけたお嬢さん!!

ああああっ!!ついに認めました!!!認めてほしくなかった最大の瞬間に認めました!!!

今度はスーパームーンの時にあいましょう!

この変態っ!!!!

 











学校に行かない日は、趣味でもないのに映画を観ていた。

名作と呼ばれる映画のヒーローとヒロインの出会いはどれも最低か最悪だった。

例えば雪の上を裸足で立っているところや、いじめっこに見立てた大樹をナイフで刺しているところを見られる、等。

私と彼の出会いがそれ以上に滑稽だったのは、あまりにも二人がヒーローとヒロインににつかわしくなかったからだろう。

けれど。

救う人のいない世界で、救われない二人が出会ったことは、真夜中の墓地に到底似合わぬ明るいはじまりを迎えた。

雨のあとの、虹のように。

次回「そんなにカリカリするなよ。もしかして今日……、スーパームーンの日?」

お互いを救い合おうとした丑三つ時のはなし。

「お墓に立ちションしてますよね?」

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