「卒業証書、授与」
15回目の春が来て、僕らは卒業した。
隣の席は、今日も空だった。
修学旅行も、学園祭も、普段の授業だって、いつもあの席は空だった。
校長先生の話も終わって、在校生代表の言葉も終わって、
卒業生代表として、生徒会長としての僕の話も終わって、、、
...内容はあまり覚えていないけど、みんなは、泣いてくれていた。
「卒業証書、授与」
15回目の春が来て、僕らは卒業した。
隣の席は、今日も空だった。
修学旅行も、学園祭も、普段の授業だって、いつもあの席は空だった。
校長先生の話も終わって、在校生代表の言葉も終わって、
卒業生代表として、生徒会長としての僕の話も終わって、、、
...内容はあまり覚えていないけど、みんなは、泣いてくれていた。
長い義務教育が終わって、僕らは、自由になった。
帰りに初めて寄り道をして、花屋で花を買って、
そのまま、僕はあの子のもとへ急いだ。
彼女がいるのは7階の103号室だった。
彼女は体が弱いから、ほとんどを病院で過ごしていた。
部屋に入ると、いつも通り彼女は外を眺めていた。
ただいま。
...返事が返ってこなかった。
不思議に思った僕は、彼女を覗き込んだ。
___彼女は、泣いていた。
__...ねえ、
彼女は、ぽつりぽつりと話し始めた。
ねえ、翔ちゃん。
私ね、私。...もう、長くないんだって。
今まで頑張ってきたけど、もう、どうしようもないんだって。
...ねえ、やだよ。やだ。
私だって外に出たい。学校にもいきたい。
...ねえ、
...みんなと、卒業したかった、
...翔ちゃんと、翔ちゃんともっと一緒にいたかったッッ!!
彼女は、ベッドに崩れ込んだ。
泣きたいのに、それを必死に抑え込んで、それでも抑えきれなくて、、
...彼女は、静かに泣いていた。
僕はただ、そばで手を握って、
...背中を、さすってあげることしかできなかった。
そうしてそばに寄り添って、
ふと、あることを考えた。
きっとこれは思いついてはいけないことだったんだろう。
きっとこれはたどり着いてはいけない答えだったんだろう。
___だけども、僕にはこれが最正解のように思えた。
...ねえ、小雪
___卒業、しよう。
ずっと一緒にいられるように、ずっとずっと、幸せでいられるように、
___だって、僕らはもう自由なんだから。
___卒業証書、授与。
2人っきりの病室で、小さな卒業式が始まった。
___貴方は、9年間の義務教育を終えました。
僕らは向いあって、窓から吹く風に、少し、目を細めた。
___よって、ここにそれを記します。
春の匂いが微かにして、口元から笑みがこぼれた。
___平成××年。3月1日。
___代表、...榎本、翔。
卒業証書が君の手に渡った。
涙ぐんだ顔で、ありがとう、と言われた。
僕らはどちらからともなく手を繋いで、
____病室の窓から、飛び降りた。
...一緒にいることができないのなら、
.....幸せに、なれないのなら。
幸せになれる世界を探しに行こう。
君から離れないと誓ってやろう。
だって僕らはもう自由なのだから。
...僕らは、目を合わせて笑いあった。
お互いをたぐり寄せあって、いつしか僕らは抱きしめあっていた。
....7階なんて、あっと言う間に過ぎて行った。
......さよなら。愛しき君よ。
......さよなら。...また、会えるその日まで。
___今日、僕らは、
_____この世界から、卒業した。