脇差のような小刀を両手に持った男3人がジグザグと狙いを定めさせないように間合いをつめてくる。


そしてあっという間にオレの懐に入り込んだ男の一人がボクシングのような動きで攻撃してきた。


さらにあとからオレの間合いに入った2人も同様に素早い動きで攻撃を加える。


それらを辛うじて避けながら反撃のタイミングを伺うが、さすが暗部なだけあって、相手の動きも速く、《黎玄》で相手を受け切るのがやっとで、これでは《空牙》でも《刈海神》でも捉えきれない。



じりじりと後退を迫られる。

緒多 悠十

クロ!!

クロノス

どうしたんだい、ユウ?

緒多 悠十

《眼》の力が必要だ! 今すぐ使えるか?

クロノス

あぁ、まぁ、使えるよ。しかしユウの方からワタシの力を欲しがるなんて珍しいこともあるもんだな?

緒多 悠十

くだらねぇこと言ってんじゃねぇ!

クロノス

はいはい、そう怒りなさんなって。

その瞬間。
視界が2つに分かれ、右眼の視界が水色に染まる。




退いていた足を止めると、オレは体重を脚部に貯め、大きく真上に跳躍する。


そして空中で《黎玄》を逆手に持ち替えると同時に複雑に入り組んだ軌道線を何本にも渡って張り巡らす。

そして、自然落下の中で回転しながら、水が完全に充填された《刈海神》を振るう。

一人はその水の刃で捉え、大きく吹き飛び、あとの二人は紙一重でそれを回避する。



しかしその瞬間にヴンッといううなりあげて、様々な軌道線を辿る《空牙》がその二人を捉え、さらに三人に次々と追撃が加わる。

オレは着地とともに、残り半分残っている水の刃を振り払うように薙いだ。


すると轟音とともに射出された龍のごとき水流が三人を吹き飛ばす。


少人数の格闘戦は不利と判断したのか、遠巻きで様子を伺っていた他の10人が様々な銃器を生成し、銃口をオレ一点に集中させ、そして一斉に引き金を引いた。


それに対し、右眼の映像を頼りに飛んでくる銃弾目掛けて真っ直ぐに軌道線を描くと《黎玄》を武将が出陣の合図を下すかのように縦に短く振り下ろす。



すると空中で幾つものの銃弾が刃と衝突し、爆散し、煙で溢れる。




――だが、オレには次の銃撃がどこから、どのタイミングで、どの角度で襲ってくるのかが分かっている。




《黎玄》を肩にかけるように構えると、縦に一閃し、

すぐさま切り返して、横に薙ぎ、

ななめに振り抜き、さらに身体ごと回転して、ななめにもう一度一閃する。

無刃の刀に撃ち落された銃弾が次々と爆散する。

そして最後に《刈海神》の長大な水の刃で煙を断ち切るように横に切り裂く。



すると煙が拡散したかと思うと撃ち放たれたばかりの大きなミサイルが真っ二つになると地面に落下して爆発した。





爆風に吹かれるオレの姿は、刻の罪を負った咎人のようにも見えたかもしれない。

* * * * *

緒多 悠十

はぁ……はぁ……はぁ……。

息が切れながらもオレが《刈海神》の解除命令を頭の中で入力すると、纏っていた水が還元されていく。



無刃の刀となった《黎玄》を地面に突き立てて膝をつく。


オレの周りには色とりどりのリジェクトキューブが展開され、その広い空間は不可思議なアートのような様相を帯びていた。


水色に染まっている右眼の視界がだんだんと元通りになっていくにつれ、目の奥が締め付けられるような、痛みを感じる。


《黎玄》の第二段階である《刈海神》が発動してくれたおかげで、何とか状況は打破できたものの、水の充填によるタイムラグを計算する必要があるこの装備はやはりクロノスの《眼》の能力を使用しなければならなかったのだ。


それに相手もプロの暗部なだけあって、クロノスの力を持ってしても苦しい戦いになった。

想像以上に身体と精神の疲労が激しい。



オレは息が整うのを待って、オレは先ほど能美が消えていったドアに近づく。


しかし、そのドアはオレを外に出すことを頑なに拒むように、押しても引いても、横にずらそうともしても、うんともすんとも言わない。


パスコードを打つための操作盤すら見当たらない。

緒多 悠十

はぁ……。

オレは溜め息をつくと心の中でこう言った。

緒多 悠十

クロ、《指》の力まだ使えるか?

クロノス

別に限りのある力じゃないさ。
だがいいのか?
さっきので随分と記憶を使ってるじゃないか。

緒多 悠十

仕方ないだろ?
もうここまで来て引き返すわけにもいかねぇんだ。

クロノス

それは正義のためか?
規範のためか?
それとも……私怨か?
刻の罪を犯した自分への。

緒多 悠十

…………うるせぇ。

クロノス

まぁそんなことはワタシにとってはどちらでもいいことだけどな。

右手の人差指にクロノスの力が炎のように灯る。


その指でドアをなぞるとパリンと音を立ててヒビが入り、オレがさらに蹴りこむと粉々に砕けた。


薄暗かった空間から明るい空間に出たことで視界が明るさの変化についていけなかったのか、一瞬視界が眩む。


思わず閉じた瞼を開けたそこには――

* * * * *

蘇芳 雅

あなたはこの前うちに来た――。

自宅マンションの扉を開けた蘇芳怜の母親、雅は少し困惑したように言った。

葵 香子

葵香子です~。

香子はにこりと笑って答える。

葵 香子

少し聞きたいことがあって来ました~。ちょっとだけ時間いただけますか~?

蘇芳 雅

別にかまわないのですけど、今日は怜、塾に行ってていないですよ?

葵 香子

だいじょ~ぶです~。
今日は~お母さんにお話を伺いたくて~。

蘇芳 雅

私に?

葵 香子

そ~です~。
それで~ここじゃなんなので~、ちょっとカフェでも行きませんか~?
もちろんお金はわあたし持ちで~。

蘇芳 雅

そんな気を使わないで?
それにごめんなさい、夕飯の準備をしなきゃいけないから家を離れるわけにはいかないのよ。
だから上がっていってもらって構わないから、ここで話してくださらない?

葵 香子

あくまで御縞学院の管理下から外れる気はないということかな~……。

香子は御縞学院の影を感じつつ、再び笑顔を浮かべる。

葵 香子

じゃあ、お言葉に甘えて~。
お邪魔しますね~。

雅は香子を招き入れると扉を閉めて、鍵をかける。

そして護身用のナイフをエプロンのポケットに滑り込ませた。


一方、香子は雅の死界になるようにしてペン状の黒い小さな装置を玄関の隅に置くと、何事もないかのように奥に入っていく。

蘇芳 雅

じゃあお茶入れるから、テーブルにかけて待っててもらっていいかしら?

葵 香子

あ~!
ほんとですか~?
ありがとうございます~。

雅がキッチンに入ると、香子は携帯を確認するのを装い、先ほどの黒い装置が正常に機能していることを確認する。


そして雅がダイニングに戻ってくると、素早くそれを隠す。

蘇芳 雅

緑茶で良かったかしら?

葵 香子

だいじょ~ぶです~。
突然押しかけたのにお茶まで出してもらっちゃってすいませ~ん。

蘇芳 雅

それで、お話って何かしら?

葵 香子

え~っと~端的に言いますと~、怜さんとお母さんの関係が良好に進んでいるかのかお聞きしたいんですよ~。

蘇芳 雅

怜と私?

葵 香子

は~い。そうです~。

蘇芳 雅

えっと、そうねぇ。
特にこれと言って反抗するような子じゃないし……。
至って普通の関係じゃないかしら?
うちは母子家庭だから、なかなか裕福な思いはさせてあげることはできなかったけど……。

雅は肘をついて右上の宙を見つめた。

葵 香子

知っていますか~?
人って何かを思い出す時は左上を、新しいことを考えるときは右上を見る習性があるんですって~?

蘇芳 雅

……新しいこと?

葵 香子

そうですね~。
例えば、






『嘘をつくとき』、とか~?

数秒の沈黙。



空気が重たく張り詰める。


そして先に口を開いたのは雅だった。

蘇芳 雅

私が何を嘘ついてるって言うの?

葵 香子

お母さんが本当に大事にしているのは~娘さんとしての怜さんでもなければ~息子さんとしての怜さんでもない~MERとしての怜さんなんじゃないんですか~?

蘇芳 雅

何を言っているのか分からないわ。

葵 香子

教えて欲しいんですよ~、どうしてそんなことをしなきゃいけないのか~。

蘇芳 雅

黙りなさい!!

バンッとテーブルを叩いて立ち上がった雅はエプロンから護身用のナイフを取り出し香子に突きつけた。

蘇芳 雅

あなたのような子供に、恵まれた子供に、何が分かるって言うのよ!?

突きつけたナイフは雅の心の振れ幅を示すかのようにわなわなと震えている。


品の良い雰囲気を醸し出していた雅が、恐慌状態となり、今や見る影もない。

葵 香子

子供だからって~、何もできないわけじゃないんですよ~?

すると、突然に。


パリンッという音と共にナイフの刃先半分がテーブルの上に落ちた。

葵 香子

念のためサイレンサー付けてきてよかった~。

香子はいつの間にか取り出していた拳銃を眺めながら言った。






彼女は銃弾で打ち抜くだけでナイフの刃を折って見せたのだった。

分離実験―Dividing Plan―(2)

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