立川 伊月

……うん? 誰だ?

彼女からだろうか。


これから会うとはいえ、何か電話するようなことでもあっただろうか。

遅刻するとか?
それなら別に構わないが。

0*0-****-****

立川 伊月

知らねえ番号なんだけど……間違い電話か?

無視してやろうか、とでも思ったがバイト先の新人とかだったら後が面倒くさい。


立川 伊月

あー、もしもし?

あ!やっと繋がった! もう連絡取れるようにっていつも言ってるじゃん! もうすぐ作戦時間なんだけ――――

立川 伊月

…………どちらさま?

…………

ホワッツ?

立川 伊月

いやそれ俺が言いたい

えっと、あなたダレ?サリュじゃないの?

立川 伊月

さゆ?誰です? 番号間違えてるんじゃ?

うーん……登録してあるはずだから間違えようがないんだけど

まぁいいや。アナタにお願いすればいいから♪

立川 伊月

嫌です

いや即答はちょっと

立川 伊月

いやいや俺関係ないしサユ?でもないしこれから彼女とデートだし

爆発すりゃいいのに

立川 伊月

そりゃどうも

でもねえ、ちょっとでいいから話聞いてよ。アナタが動いてくれるだけで沢山の人が救われるの

立川 伊月

んなこと言われてもねえ……

引き受けてくれるなら、サリュに渡す分の報酬もアナタに支払うわ。どうかしら?

立川 伊月

金……ちなみに、どれくらい?

数百万はくだらないわね

立川 伊月

心が動く!!

……割と素直ね、アナタ

立川 伊月

分かった。とりあえず、話は聞こう

助かるわ。じゃあ、今日の夜に向かってほしい場所があるの

立川 伊月

ここか…………

立川 伊月

話聞くだけのつもりだったんだけどなぁ……なんでここまで来てんだ俺

まぁ、金が手に入るならいいか。

……なんて切り替えられるわけがない。
夜にこんなコンテナだらけの倉庫に来させるとか、まさか薬の運び屋とかだったのだろうか。


内心ビクビクしながらゆっくり足を進める。

立川 伊月

あった。アレだよな?

コンテナだらけの中で明らかに浮いている、大きな木箱。

うずくまれば、大人一人余裕で入れそうだ。


まさか、あの中身を運ぶとか?
いやいやいや、どんだけの量の薬だよ!?


今更だけど、安請け合いしてしまったことを本気で後悔してきた俺。


……木箱からの圧が半端ないんですけど。


ごめん、みんな
俺・立川伊月、金欲しさに犯罪の片棒担ぐことになっちまいました……


立川 伊月

と、とりあえずブツのか、確認はしないとな

おいおい、手が震えてるぞ俺……


なんてことはない、ただ箱を開けて中を見るだけじゃないか……。


大丈夫だ、彼女に告白した時より難易度は低いはずだ。
先のことは一旦忘れろっ

立川 伊月

…………行きますっ

立川 伊月

ハアーッ、ハアーッ!!

フタは思いの外、簡単に開いた。

もうちょっとしっかり閉めてあると思っただけに意外だ。



しかし、今から中身の確認もしなきゃいけない。

万が一本当に薬だったらとても笑えない。


完全に退け腰の状態で箱の中身を覗き込む――

立川 伊月

せめて……せめて可愛い美少女が入っていたみたいなオチであってくれっ

いやまあ、彼女いますけども。

その方がなんか精神的に楽なのよ色々と。

そして、覗き込んだ箱の中には――――

う……う~ん…………?

立川 伊月

…………

立川 伊月

…………へ?

…………

~~~~っ!

うえええええええええええええええええええええええええん!!!!

立川 伊月

…………

立川 伊月

…………ナニコレ

人間、あまりに予想外なことが起こると一蹴回って冷静になるというのは本当のようで


俺、今ほとんど放心してます。

まぁ、簡単に状況を説明するとですね……

箱の中には薬も美少女も入ってませんでした。


今、箱に入っていた「何か」が俺の胸で泣いてます。

体は羊、顔はおっさん

絶対に人間ではない「何か」

が、俺の胸で泣いてます。

ええ、放心する以外にどうしろと。

うううううううう寂しかったよおおおぉぉぉっっ!

立川 伊月

…………はあ

どうしろというのですか。

メルシーちゃんは羊♪

pagetop