時田が小さな声で囁く。
夜暮はいつものように笑みを浮かべて返した。
夜暮、本当に良かったんだよな?
こいつにも手伝わせて
時田が小さな声で囁く。
夜暮はいつものように笑みを浮かべて返した。
大丈夫ですよ。
そのうち時田さんも分かりますって
でもなぁ、あんまり一般人には……
この人、小心者なんだよなぁ
気にすることないですよ。だってさっき……
で……数奇さん、どうします? 遺体でも見ますか?
数奇は表情を凍らせると、ふるふると首を振った。
この反応懐かしいなあ。これだよこれ!
最近の新人は死体くらいじゃビビらないんだもんなあ
それほどでも
本当お前ドライだよな
夜暮は肩をすくめた。
まあ、そんなことはいい。
現場はこっちでなんとかしておくから、お前は時田さんと防犯カメラの映像でも解析しててくれ
あの……僕も、良いでしょうか?
良いんじゃないか?
って言ってたじゃないですか。
もし問題になったら許可出した人に責任とってもらえば良いんですよ
名前忘れたけど
お前恐ろしいこと言うな……
そのとき、数奇がパソコンの向こうから声を上げた。
すみません、ここの防犯カメラ見てください
二人は顔を見合わせると駆け寄った。
近くのトンネル内の防犯カメラです。きっとここの道を通ったと思うので、見ていたんですが
道路を斜め下に見下ろす構図がパソコンの中に写っている。
数奇は二人に後ろから覗きこまれるまま、映像を早送りしていった。
……ここです。昨夜、この道を通ったのはこのバイクだけです
薄い色のバイクに乗っているのは、ヘルメットから靴まで全て黒っぽい色を身につけた人物だった。
何か大量の荷物を載せているようにも見える。
一時停止させると、ナンバープレートが何かで覆われているらしいのが分かった。
これは変わったバイクだな
墓地の方へと走って行ったバイクは、数十分後、また現れると逆方向へ去っていく。
その時には荷物が消えていた。
もしこのバイクに乗車しているのが犯人なら、この映像から何か分からないでしょうか?
解析してみるよ
時田は真面目な顔になると、数奇からマウスを受け取った。
夜暮、他の場所にも同じようなバイクが通ってないか、そっちのパソコンで防犯カメラを浚ってくれ。
それと……数奇さんも。ありがとう
お役に立てたなら幸いです
やはり小さな声のまま、数奇は言った。
じゃあ、せっかくだから話をしようかな。いつも一方的に話して悪いけど……
芳賀がゆっくりと言葉を紡ぐと、五日町は無表情のまま遮った。
そういう約束だ。
そこに善し悪しなどない
約束か。そうか、そうだね
笑顔を浮かべるが、芳賀の顔はそこまで明るく見えない。
ありがとう
なぜ感謝する?
え?
ここに今こうして座っているのに信じられないか?
話を聞く程度のことで感謝される、そんな間柄だと思っているのか?
芳賀は目を見開いて五日町を見た。
そう……そう、そうだね。僕が……
どうした?
五日町は語尾を僅かに上げる。
芳賀はそれを聞いて落ち着いたように、柔らかに微笑んだ。
環ちゃんからそんな優しい言葉
聞けるって思ってなかったからさ……
嬉しいんだよ
そうか?
袖を掴む感触に、夜暮はバランスを崩した。
うぇっ
なんとか踏みとどまり、持ち直す。
夜暮さん……
なんだ数奇さんですか、どうしたんですか?
五日町がいないと頼る相手が夜暮しかいないのだろうか。
しかしわざわざそんなところを掴まずとも……
当惑していると、数奇が顔を近づけてきた。
は?
しっ
短く息の漏れる音。
その意味を理解するのに、しばらく時間が掛かる。
一体な、なんーー
耳のすぐ近くに、数奇の顔が寄せられた。
お願いしたいことが、あります