私があんぐりと口を開けているのと対象的に、綺麗な顔をきつく歪ませた愛ちゃんは、腕を組んだ。
私があんぐりと口を開けているのと対象的に、綺麗な顔をきつく歪ませた愛ちゃんは、腕を組んだ。
……ねぇ、誰?
あ、え、えっと……私は間宮朱里といいます。
自己紹介なんてきっと彼女は、求めていないだろう。だってほら、歪んだ顔が戻らない。それでも十分綺麗なのだけど。
あ、あのね、めーちゃん。彼女は私のバイト先の知り合いで、その……
そのってなによ。ミーコまで
い、石川先輩と仲が良いというか…何というか
助け舟を出すために口を開いたミーコちゃんは、モゴモゴと言葉を濁す。すると愛ちゃんの目がカッと開いて、私の顔をじーっと見つめ始めた。
……え、先輩とこの人が仲が良いの?ほんと?ミーコ
…う、うん…大学中の噂の的だよ
はぁ?あの人、かなり女の趣味変わったのね。
愛ちゃんのそのセリフに、先ほどまでこのやりとりを素直に見ていた要くんが口を挟む
……悪いけど、翔平先輩はいま朱里先輩に夢中だよ。とっても
あ、ちょっ!言葉に語弊があるから!要くん!!!
天使はどうやら女神の何かが気に食わなかったようだ。笑顔だけど、どこか攻撃的な態度に私は慌てふためいた。
なにこのいかにもあざとさを隠してますっていう男。
……あざとさ?
一瞬で要くんの中の何かを理解した愛ちゃんにも驚きだけど、その反撃に怯まず天使モードを貫く彼も相当すごい。
いるんだなぁ……顔が良い同士でも合わないタイプって。
まぁいいわ。しかしまぁ、先輩がね。私に夢中だったくせに、まさか顔もスタイルも平凡そうな女選ぶなんて信じられない。
め、めーちゃん!初対面で失礼でしょ!ごめんなさい…あ、朱里ちゃん
いや、大丈夫だよ。全部本当のことだし。
ズバズバとこちらが気持ちいいくらいハッキリとものを言う彼女に、私は笑顔を作った。さすが石川くんが好きになる人は違うなぁ……思ったことを率直に言いましたって雰囲気で嫌味を感じない。
メソメソするタイプじゃないんだ。そこはいい感じね
口端を上げた愛ちゃんは、女の私も息をのむほど綺麗でつい魅入ってしまう。
お似合いだ……非のつけどころがないくらい。
隣に並んでも誰も文句は言えない。
あ、あの愛ちゃん。今日はお願いがあったから会えて嬉しいの。
……お願い……?
石川くんに会ってあげて欲しくて。
思い切って放った私の発言に、は? と冷ややかな顔をした彼女は
何のために?
なんて厳しい口調。
え、な、何のためにって
……確かに身体の相性は、かなり良かったけど。
あ、そ、そうですよね。愛ちゃんは特別だって言ってたもの。
なに?あの人いまさら私が恋しいの?
クスッといたずらっこみたいに笑った愛ちゃんは、かなり妖艶だ。色気に当てられそう。
……自信家のクソ女
彼女に聞こえないように要くんがボソッと呟いたのをごまかすため、私は慌てて声を出す。
な、何してるのか気にしてる様子だったし!
…でもいま貴女に夢中なんでしょ?どう転がってそうなったか全くもって理解できないけど。大人しい顔してベッドの上では豹変するとか?
え、あ、わ、私!?
どうやって石川先輩を夢中にしたのか、興味あるわ。とっても
ミーコちゃんが
めーちゃん!いい加減にしなよ!
なんて困ったように叫んでた。
だけど、愛ちゃんもまた大きく誤解してる。
私と石川くんは、そんな関係ではないのだ。
出会った時からずっと。
私…石川くんと関係を持ったことないの
愛ちゃん程の人に夢中になるくらいだ。
石川くんが私なんかを相手にするはずない。
目が覚めた気がする。
は?
弟子としてそばにいるというか。
いや、まって!!おかしい!それは絶対石川先輩じゃないわよ!!
信じられないといった様子で私に詰め寄る彼女に、押され気味になってしまった。
ほ、ほ、ほんとだよ!!
グイッと腕を引かれたと思えば、私の目の前に要くんが出てくる。
朱里先輩は、翔平先輩の特別なんだよ。
だからどうして要くんは、そんなに攻撃的なのぉおおお!?
信じられない。あの人頭沸いちゃったの?
ちなみに女の子達のお誘いはいま全部断ってるよ。これは本当…
ミーコちゃんがボソッと愛ちゃんの耳もとで何かをつぶやいた途端
彼女の瞳孔が開いた。
病気になったんじゃないの!? あの変態エロ魔神!!!
そして美人の口から似合わない言葉が発せられる。
エロ魔神って……
石川先輩と言えば、強烈な攻めで女を泣かせてそれに興奮するような男よっ!それが生き甲斐なの!SEXしなきゃ死ぬのよ!!なのに、貴女は何もされてないの!?
あ、え、うん。というか石川くん優しいよ
いや、たまーに優しいけど、性格の悪さは一流じゃないの?
愛ちゃんから発せられる石川くんは、私の知ってるものと似ても似つかず。それに彼女に会って、石川くんのことを話せば、もっと感動的なものが生まれると思ってたのに……その様子が全く見当たらない。
だけど…石川くんは特別なんだもんね…