クソバカ野郎のクッソ・バッカーは誰もいない教室で、自分の人生について考えていた。
そこに突然、怒れる教師がやってきた。
いやー、俺って頭悪いクソバカ野郎なんだよなー。
俺、クソバカだからせめて頭よさそうに語りたいんだよね。せめて音楽を偉そうに語れる大人になりたいよね~。
クソバカ野郎のクッソ・バッカーは誰もいない教室で、自分の人生について考えていた。
そこに突然、怒れる教師がやってきた。
このクソバカ野郎!
ひでー言われよう!
あ、あなたは「素敵な大人に転生!講座」の名物講師、オトナン先生!
大人じゃないのに大人について教えるって噂は本当だったんですね!
そうだバカ野郎!てめーみてえな
クソバカのガキを素敵な大人にするため
日夜頑張ってんだ!
てめえ、音楽を語れる大人になりたいって言ったな?
今回、私が特別に
「音楽を語れる大人に転生する授業」をやってやる!
ありがたく思え、クソバカ野郎!
うわ、教わりたくね~。
でも、一応聞いておくか~。
今日はゲスト講師を呼んできた!
音楽ライターのキキマ・クルー先生だ!
どうもキキマです。
90年代は大転換の時代だった。
ゼロ年代はさらに大きく時代が動いた。
そしてテン年代を生きる我々は激動の時代のさなかに身をおいている。
いや自己紹介だかなんだかよくわからねー!
ほら、さっそく出たぞ!
ポイント①
「やたらと何年代と言いたがる」
うわー!うさんくさい人出てきたー!
ああ、でも確かに!やたらと
「90年代は何とかで、80年代は何とかカンとかで」とか言ってますね!
そうだバカ野郎!こう言っておけばなんとなく知的な感じになるんだ!
さらにもう一つのポイントがある!
ポイント②
「同じようなことを言葉を変えて何度も言う」
「大転換の時代」「大きく時代が動いた」「激動の時代のさなかにいる」どれも同じようなことを言いかえてるだけだ!
これで特に中身はなくとも字数が稼げるんだ!覚えておけ!
ほ、本当だ!大したことを言ってないのに、それっぽいことを言っているように見える!
新進気鋭のネクストブレイク候補バンド、サイゼ・デ・クーが老舗ライブハウスの新宿ボボドでライブを開催した。
フロアを踊らせる熱いビート。
オーディエンスを熱狂させるそのテクニック。
リスナーの心にうったえるエモーショナルなリリック。
彼らこそ、ポスト・トゥルース時代のスポークスマンなのだと、その場にいた誰もが感じたことだろう。
見ろ!これもオトナのテクニック満載だ!
まずはこれ!
ポイント③
「マイナーな人はとりあえずネクストブレイクと言っておく」
「新進気鋭の」「ニューカマー」「新星」「ネクストブレイク」「新時代」ってつければ、何となくすごそうに見えるんだ!
7、8年ぐらいやってたって、マイナーなミュージシャンなら「新進気鋭」で良いんだ!
どうせほとんど知られてないからな!
あとは「天才」「鬼才」とかもついでにつけておけ!これで、どんなミュージシャンもすごそうに見える!
た、確かに!「ネクストブレイク」とかよく聞く!
「新進気鋭」とか言われると、めっちゃすごそう!
そして重要なのはここだ!
ポイント④
「やたらとカタカナを使う」
観客は「オーディエンス」!
聴き手は「リスナー」!
歌詞は「リリック」!
代弁者は「スポークスマン」!
とりあえずここらへんでも覚えとけ!
日本人は英語が苦手だからな!
カタカナで何かそれっぽいこと言っておけば、なんかすごそうに感じるんだ!
あと、これも重要だ!
ポイント⑤
「なんか難しそうな言葉を入れる」
「ポスト・トゥルース」はオックスフォード英和辞典が2016年を象徴する単語で選んだ言葉だ!
脱真実とか、そんな感じの意味だ!
詳しくは自分で調べろ!
とりあえずこういう流行りの「難しそうな言葉」入れておけば、なんかすごそうに見えるんだ!
ほ、本当だ!よく分からないけれど、なんとなくこのバンドがすごそうに見える!
ボーカルのスッパ・ゲットいわく、「サイゼで食いながら打ち合わせした」ことからつけたバンド名サイゼ・デ・クー。
このバンドが世の中を食ってしまう日もそう遠くはないだろう。
ポイント⑥
「その人のプチ情報を入れる」
バンド名の由来とか、メンバーが好きなものとか、どんな情報でもいいので、どっかで言っていたことをプチ情報として入れる。
そうすることで、親近感が増すんだ!
な、なるほど!サイゼで打ち合わせしてたのか、とリアルに想像できる!ありそうな感じがする!
ポイント⑦
「とりあえず未来のことを言っておく」
「○○する日もそう遠くはないだろう」「今後の活躍に期待だ」「△△になるだろう」とか、何でもいいのでとりあえず未来に期待!みたいなことを言っておく!そうすれば、何となく肯定的な感じが出て、「ああ、期待されてるすごい存在なんだな」と思ってもらえるだろ!
確かに!未来はどうなるか分からないから、どうとでも言える!な、なるほどー!
さあ、これで大体わかったな!
これでお前はもう、「いっちょ前に音楽を語れる人」に転生できる!
では、お前がこのバンドをほめてみろ!
レッツ、転生!
うおおー!
オトナンの「レッツ、転生!」の合図で、クッソ・バッカーの心に衝撃が走った。
クッソ・バッカーは一時的に「音楽をそれっぽく語ることができる力」を手に入れた。これが、オトナンの大人らしい力だ。
ビーチョルズから始まったロックの魂は、こうして脈々と受け継がれていくのだ。
で、できた!何となくそれっぽいことを言えたぞ!
ほお。早速まだ教えてないポイントをおさえたな!
ポイント⑧
「とりあえず昔の音楽をほめる」
とりあえず、昔の有名なバンドとかミュージシャンほめておけ!そうしておけば、いろんな世代の人が何となく納得してくれる!
ちなみにこのサイゼ・デ・クーは、クソ下手!人気のねえバンドで、この日の観客も16人、ほとんどバンドメンバーの知り合いだからな!
フロアも大して盛り上がってない!
でも、ライターの力でなんとなくすごそうに感じることができただろ!
マジッスか!もっとすげー人気バンドを想像してたッス!すげー!それっぽく見せるテクニックがすげー!
分かったッス!勉強になったッス!
よし、分かったな!
では授業料はらえ!
とっとと金はらえ、このクソバカ野郎!
ええ~!金とるんスか~?
ひでー勝手っぷり!
クッソ・バッカーは大人の世界の「大したことないものでもすごそうに表現する」ずるさと「勝手に授業をやって授業料を要求する」図々しさを学んだ。
これでまた一歩、素敵な大人に近づいたのだ。
がんばれクソ野郎、いつの日か、完全なる素敵大人に転生せよ!